かつて潔く閉じた手紙は風を巡り
伏せられていた暦が息吹きはじめている
朽ちた扉を貫く光は
草の海を素足で歩く確かさで
白紙のページに文字を刻みはじめ
陽炎が去った午後に、わたし ....
あの彗星を追い抜くには
おれの命はあまりにも遅すぎる
もっとスピードを
もっとスピードを
摩擦熱で燃え上がって灰になるまで
もっと軽やかになるために
おれは足の小指を切り落 ....
Quartz
震えて
終わりと
始まりのないものを
区切っていく
切り刻んで
数をあてる
なにものとも
名づけられない筈の
私より薄くて
鉄も
昼夜をも含 ....
透明な
沢山の唾液を
己の弦に着けて
震えた空を
優しく眺める
ぬらぬらと
赤光は髪を染め
純粋な声が
遠くに吸い込まれた
静かに行われる
養分の脈動は
椅子を愛した ....
私達は
狭い空の鷹
傍若無人に翼を広げ
疎む声は聴こえない
私達は
晴れた日の雷
平穏無事を突然壊し
嘆く声は聴こえない
私達は
樹林の中の焔
湖の厚い雲影
白い壁の ....
夏は
山がすこし高くなる
祖父は麦藁帽子をとって頭をかいた
わしには何もないきに
あん山ば
おまえにやっとよ
そんな話を彼女にしたら
彼女の耳の中には海があると言った
....
明日も生きていてね
と君は言う
たとえ明後日生き返るにしても
明日君が死んでしまったら
やはりそれは悲しいから
明日も生きていてね
と君は言う
なにかをかなしがるような眼で
ど ....
光がきれいだといいますが
朝日が夕日がきれいだといいますが
太陽で人は死ぬんだと思うわ
....
生きてゆくしかないので
この街で生きてゆくしかないので。
中の中に詰まらないものばかり、必死に詰め込もうとして足掻いた。先日死のうと努めてみたが死ねず、
明日晴れるかな、と鳴いていやる夜虫 ....
海のように
大きくて命の源たる水は
わたしには重すぎて大きすぎる
湖のように
優しくてたくさんの命を抱えた水は
わたしには重すぎて大きすぎる
河のように
涼やかで柔 ....
徹夜あけ
会社ちかくの銭湯にゆく
塩サウナの日だったから
嬉しかった
露天の空の紫は
薄まるように青く白んだ
ひとけのない夕方のようだ
朝日が体の黄色をあ ....
闇
から病んで臥せっていたはずの姉さんが這い出てきた
北の海はすっごく寒かったんだから
カラカラと寂しい音が喉からして
手で青を掴んできたわあんた青が好きだったでしょう
ショウの途中で姉さん ....
―夏至は、もう過ぎています
とか
じつは過ぎきっていた太陽の光、みたいな
ぽかりと口を開けるしかないような
きもち
かげろうが立ち昇るはやさで
泣き顔をつくるひとたちを
遠く道の ....
どうせみんな
機械から生まれて
機械に繋がれて
死んでいく
ラヴ・マシーン
メキシコシティ生まれの農夫には
かえるところがない
八戸生まれの漁師には
かえるところがない ....
ちょっと足らないだけだものね
八時二十分を指している
あなたの眉毛の上に
ボールペンかざしてあげる
いざ出かけようとしたら
小糠雨降り出して
傘を差そうかどうしようか
迷うのにも似て ....
はやい
から
きれて
とんでる
けしきが
ちかくの
草むら
なんて
もう
線だ
恐ろしいくらい
長い
線だ
空気が
固い
いま
どれだけ
もう
壁みたいで
い ....
六月の香りの入った
お手紙
あなたから
お久しぶりです
から
始まって
麦わら帽子をかぶった
七月の夜に
なぜか さみしかった
その日の
星がひとつだけの夜に
かわい ....
朝になって
公園の湿った土の上に突っ伏していたんじゃないか
雨が上がってむかえる朝のにおいは
ひやりとした黒い土のうえ
収斂していく類のもので
奥に深く潜っていく
噎せ返る速度ににて
....
隣の家の畑から
一輪の花が
「おはようございます」
挨拶をした
それは隣の家の
おばあちゃんの声に
そっくりで
腰は少し曲がっている
お辞儀草みたい
ちょん、と触ると
にこ ....
「観月橋」
せせらぎの音は
いつのまにか、ざあざあと鳴り
錆び付いた欄干が
しとどに濡れる紫陽花の、夜
ここには愛づる月もなく
ただ名ばかりの橋が
通わぬこころの代わりに、と ....
燃え尽きた夕焼けがズルズル剥がれ落ちて
みっともなく海に沈んでいくと
その向こうに広がる暗い空が剥き出しになっていく
すっかり日が落ちてしまうと
書割のような安っぽい星空に
罪深い人たちの胸 ....
犀川の
芝生の土手に腰を下ろし
静かな流れをみつめていた
午後の日のきらめく水面には
空気が入ってふくらんだ
ビニール袋が浮いていた
近くで
ぴちゃりと魚が
跳ね ....
部屋にかかったカレンダーは
どれもあの夏でとまったまま
色あせて端が少しめくれて
蛍光ペンで記された丸印が
日に焼けてかすかに残りそれも
何の記しなのかはもう不明で
思 ....
その午後に
虹色の球体と
銀で縁取られた黒の正三角形と
無色透明の六角錐とが
話していたことは
宙吊りになった中庭に
置く角度を間違えられたまま
置かれている白い日時計のことであった
....
あのとき雪を頂いていた山はもう
緑もずいぶんと深くなって
あのとき枯れ草を敷き詰めたようだった田はもう
水が張られて田植えの準備が整い
あのときどんよりと重く垂れ込めていた空は ....
フルエテイルノハ ミミ
フルエテイルノハ ノド
フルエテイルノハ ヒトミ
フルエテイルノハ 伸バシタ腕
カラダガ共鳴シテルンダロ
大キナ{ルビ球体=すふぃあ}ガ ウシロデ歌ウ
バラバラニナ ....
やりきれない憂鬱に
身体ごと飲み込まれそうなときは
とにかくバナナを食べる
何も考えずに食べる
午後のダイニングテーブルの上に
少し茶色く変色したバナナの皮が
脱ぎ捨てられた下着みたい ....
思い出し笑いしてる花びらの話
目があって目が散って
隠そうとしたら吹き出した
晴れた空の草むらで
花びらはまだ続いてる
散らばった四本の足に巻き付いた
始まりと終わりはいつも仲良し ....
朝起きて冷蔵庫を開けたら
祖母が入っていた
さみくてさみくてなんだかも
生ぎてぐのがいやんなっちま
なんて言うので
そんなに寒いのなら
もう死んでしまったっていいんじゃない
と思った ....
2007/05/19
なんと
微かな光だろうか
北緯45度を超えた
真鍮色の不安の日
ピアノの弦を叩く
叩かれてから音が
音が発生してから
届けられた ....
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