電車を降りると
点字ブロックが
花野に埋もれていた
あなたはここにある花の名を
一つとしてしらない
見えることもない
それでもその眼は
厳かなほどに瞬きをするから
見えているも ....
新緑が
幽霊みたいに
ぼくを抜けてゆく
それは街道の
空を覆って地上の雲だ
こころの闇なんか
たんなる因果の法則だ
夕方の宇宙に書いてあるよ
新 ....
大切なもの 見えなくなること ときどきあって
失ってから 気づいてしまって 泣くこともある
悲しい想いは したくないの
寂しい瞳は 見せたくないの
どこまでも空 ....
携帯はコンパクトに似ている
電車のなかで
そして街角にたたずみ
見つめる先に映っているのは
わたしであったり
わたしの知らないわたしだったり
お気に入りに登録した
サイトを巡る
....
取り違えられた
緑
色の壁
名前を聞かれて
「青」
と答えてしまう
投げた
配水管の中に
あいまいな
猫が
右目がつぶれてしまって
横たわっている
弧を描いたらしい
血が ....
暖かい丘の 暖かい風に抱かれて 僕は眠りたい
幼き日に見た 夢の続きを のんびり見ていたい
「恋する乙女の 視野は狭くて 困ってしまう」と あいつが言う
「そんなことは僕には ....
記憶のかたわらで
あの人の奏でる、ヴィオロン
夜想曲は、もう
恋のできない私に似合いね
と わずかに唇をゆるめてから
伏目で弾いた鳴きやまぬ、旋律
それはどうしても、波としか呼べなくて ....
いまさら詩人になりたいなどと
言われたって遅い
きみのして来た事がきみの今だ
時間が過ぎれば何だって腐る
ロープだって約束だって
あの顔をまた見るようになった
自分でも忘れていた悪 ....
擦り切れている背表紙を
後生大事に持ち歩く
付箋に躓くことを繰り返してしまった
左手には一束のシャレード
紐解いている間に
夏の森は
微笑や涙やトキメキを頬張って
色彩を奏ではじめて ....
本を読む人の眼は
例外なく真っ黒い色をしている
それはもちろん
眼が活字のインキを吸収してしまうからである
本を読みすぎて
白眼まで真っ黒になってしまった人が
こちらを向い ....
骨のことなら知っています
奥深く平面的で
動物的な空が
罪深く走る夜
立てるよ、と勘違いをする男が
束になって走っていました
((はしたなく
((はしたな ....
君は
君の家に入らない
雨が降っているというのに
軒下の風を嗅いで前足を舐めている
私の上には屋根があるので
髪に降るよりも
雨は、
硬質な響きで
音の羅列を渉っていく
....
頭の中につまっているよ
つららのように出来たんだろうねこの
目にうつるものたち
首の後ろがちりちりしてるんだ
太陽にあきらかにされた
急勾配の斜面の野原を
こわれかけているしずくがたくさん ....
夜にまぎれて
雨をみちびく雲の波
朧気に月は
触れてはいけないものがある
ということを諭すように
輪郭を無くし遠退いてゆく
深く、
深く息をして
雨の降りる前の
湿った空気の匂い ....
まっ赤で
おおきな歌に
くだかれた夕暮れの
かけらをよせあつめて
ぼくはトルソーを
つくった
奄美の島ざらめを
たくさん、うみにながしたら
おおきな涙に ....
たとえば僕の場合それは
初めて
しり あった
女
というやつと
つめたい汗を皮膚に浮かべながら
五月
間延びした地方都市のなかで
その延びきったらへんで
道がすこしだけ
ほんの少し ....
ある日
贈り物をしようと出掛けた
セーターを買いに行き
サイズを聞かれた
わたしは答えられない
靴屋に行き
やはりサイズを聞かれ
答えられない
ネクタイを買いに行って
好みの ....
いちいち
わかりもしない奴らが
貧しい脳ひけらかして
必死なって暇つぶししている
世界のそんな側面は
けっきょく今のオレ
練習しなければなあ
いちいち ....
夜空に見える、という
星座ってやつが
点在する星をつないで
こころでみる絵画だった
とは、しらなかったころ
僕は君の名前を
まだしらなかった
君の名前を
まだしらなかったころ 僕は ....
宿題を忘れていった
先生にしかられた
ブランコを横取りした
けんたくんに絶交って言われた
プラレールで遊んでた
片付けなさ〜いって
ママが言うけど
とっても楽しいんだよ
そした ....
たくさんのさよならを
散り敷いた桜の花びらのように踏みしめて
僕は行く
何に呼ばれて
僕は行くのか
からっぽになった
僕のからだは
何色の絵の具を
入れたらいいのかな
もしこ ....
いま
{ルビ仄=ほの}明かりの部屋がとても寒くて
ぼくは
コカ・コーラの気が抜けてゆく潮騒の中で
花が開いていくのをじっと見ている
足が冷たく
息の僅かな白さの中に
ちいさな子供だった頃 ....
朝刊から目を離さずに
気の無い空返事
それは。あなたの得意技
わたしが何を考えていようとも
お構いなし
空気のような存在
親しすぎる関係の果てに待ち受けるのは
そんな空虚さだ ....
楽しいのか
いま
楽しい
いま
楽しいとき
うん
楽しい
楽しいよ!
と言って楽しがる
ような楽しさがふと晩ご飯の後なんかにあって
またはそれは昼ご ....
明星が
響いて
眉間から
無邪気さだけが
踊りだす
畦道から
蓮華の色彩だけを
怯えながら
手折るように
ことばを
間引くと
やっと
....
午後十時を過ぎると外は絶対零度に陥る
誰も外に出る者はいない
一年中 この調子だ
どうしても出掛けなければならない用事があって 外に出る時には 宇宙服のような最高の防寒具を着て出る
....
ひだまりに
たたずむ石
ひとりきり
あたたまり
地にのびる
まあるい影
白く鮮やかに咲きほこる、
一本のモクレンの木の孤独を、わたしは、
知ろうとしたことがあるだろうか。
たとえば、塞がれた左耳のなかを、
夥しいいのちが通り抜ける、
鎮まりゆく潜在の原野が、かた ....
喉が渇いたので
駅のホームのキオスクで買った
「苺ミルク」の蓋にストローを差し
口に{ルビ銜=くわ}えて吸っていると
隣に座る
野球帽にジャージ姿のおじさんが
じぃ〜っとこ ....
月がね
切った爪みたいでね
汚れた爪
置かれてた
夜空に貼り付いた枝の隙間に
どこまで歩いても
消えなかった
もうどこにいけばいいのか
わからないはるが白すぎて
どこから ....
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