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　少し前迄、初老の両親とこの店で食事をしていた。メニューを見る時に、視力の落ちた目を顰（しか）める父と母の前に座り、相変わらずふらふらと生きている自分を申し訳なく思う気持を抑えながら、何気ない会話　.... 友と杯を交し　
日々の想いを　
語らう夜に　

酔いどれて独り　
家路を辿る　
夜の道すがら　

何ヶ月も同じ場所に坐り　
路傍の石と化した　
家無き人の　
汚　.... 誰もいない静かな部屋で　
時折鏡を、覗いてみる。　　

目はふたつ　
鼻はひとつに　　
口ひとつ　

奇跡を行うこともなく　
些細な魔法もわからずに　

背伸びをするわけでなく　
　.... 「 いってきます 」　

顔を覆う白い布を手に取り　
もう瞳を開くことのない　
祖母のきれいな顔に　
一言を告げてから　
玄関のドアを開き
七里ヶ浜へと続く　
散歩日和の道を歩く　
　.... 送迎車で　
地域のお婆さんの家を訪ねたら　
陽だまりの窓辺で　
お婆さんは　
まだ寝ていました　　

部屋の奥の遺影から　
若き日に世を去った夫が　
年老いた妻を今も見守っていました　　.... 私は今日も、顔を洗う。　

両手で覆った顔を上げて　
目に映る何でもない日常が　
常に真新しい（今）であるように　


　　＊　


もう会うこともない　
ある人が　
いつか何　.... 三日後にわたしは　
三十三年間着ていたわたしを脱いで　
風の衣を着るだろう　

その時世界の何処かに響く　
あの産声が　
聞こえて来る　

その時空から降る　
透けた掌と差しのべるこ　.... 細い路地に入ると　
食事処がぎっしり並び　
人々の賑わいから　
昭和の匂いがぷうんと漂う　

頭上の鉄柵に　
取り付けられた蛍光灯は　
細い路地を仄かに照らす　

油汚れの壁に描かれ　.... 世界は卵の内にある　
遥かましろい天上に　
緑のひとが出口へ駆ける　
「非常口」の表示はあり　

いつかあそこに罅が入り　
殻の割れる終わりの日まで　
人々は｛ルビ永遠＝とわ｝を知らず　　.... わたしの心と体というふたつは　
風の息吹に包まれながら　
透けた紐に結ばれたひとつです　

体が体のみならば　
わたしは只の人形です　

心が心のみならば　
わたしは只の霊魂です　
　.... 六月の空から降りしきる　
無数の梅雨のうたごえに　
色づいてゆく青の紫陽花　



　　八月の日照りに　
　　干乾びた姿晒す　
　　｛ルビ木乃伊＝みいら｝の紫陽花　



「生　.... 脱いだ靴を手放し　
床に落とす音が　
鼓膜に響いて　
目の覚めた深夜　　

つけっぱなしで　
眠ったはずの
蛍光灯はいつのまに消えかかり　
薄暗い部屋はいつまでも　
点滅していた　
　.... 　　 梅雨明けの　
　　 夜空に開く｛ルビ紫陽花＝あじさい｝は　
　　 ひと間に消える　
　　 夏の夢かな　 女を抱きたいと思う　
白いからだに潜む　
うるんだ瞳にすける　
哀しみを抱きたいと思う　

街の隠れ家で　
互いの｛ルビ凹凸＝おうとつ｝をくみあわせ　
闇に吐息の漏れる時　

寂しい　.... ３日前に職場で腰を痛め　
うずくまったまま動けず　
車椅子に乗り
整形外科へ搬送され　
９年目にして初めて　
１０日間の秋休み　　

今日も午前１０時の朝食を終え　
ほがらかな日のそそ　.... 車椅子に座る　
小さいお婆ちゃんを　
前から抱きかかえる　　

少し曲がった　
「 人 」という字そのものに　
なれた気がする　

ごめんなさい、ごめんなさい　
と繰り返すので
な　.... 風ノ葉　

こころには　
埋まることなきすき間あり　
葉の揺る茶屋に　
独り佇む　



椀　

｛ルビ空＝から｝の｛ルビ椀＝わん｝
ひかりのにじむ　
底のまるみに　

　.... 　背後の空に　
　｛ルビ烏＝カラス｝の群が旋回していた　

　丘の上の広場で　
　寄りかかる柵から身を乗り出す　
　
　目の前に広がる凪いだ海　
　正午の日は
　無数に｛ルビ煌＝きらめ　.... 空の曇った暗い日に　
ざわめく森の木々に潜む　　
五月の怪しい緑の精は　
幹から｛ルビ朧＝おぼろ｝な顔を現し
無数の葉を天にひらく　

わたしを囲む森に｛ルビ佇＝たたず｝み　　
ベンチに　.... 通勤バスの車内　
後部座席から眺める　
まばらな人々が
眠たげな朝　

（ 昨晩わたしは、｛ルビ尖＝とが｝った爪を、切っていた。）　

人さし指をのばし　
四角いボタンを押す　

　.... あっ　

と九十過ぎの｛ルビ老婆＝ろうば｝が言うと　
黒い杖はエレベーター十階の　
開いたドア下の隙間にするりと落ちて　
奈落の底で　
からんと転がる音がした　

「 杖も毎日使われて　.... 喉が渇いたので　
駅のホームのキオスクで買った　
「苺ミルク」の蓋にストローを差し　
口に｛ルビ銜＝くわ｝えて吸っていると　

隣に座る　
野球帽にジャージ姿のおじさんが　
じぃ〜っとこ　.... 灰色の壁に囲まれた
音の無い部屋

黒い衣を身に｛ルビ纏＝まと｝い
「死」を決意した病の老女　
一点をみつめ　
椅子に腰かけている　

（ 左手の薬指に今も｛ルビ鈍＝にぶ｝く光る　
　.... だうな〜で　
仕事さぼった翌日に　
こころの｛ルビ垢＝あか｝・｛ルビ錆＝さび｝ふりはらい　
いつものバス停に向かう　

歩道の　
前を歩く女子高生　
突然ふりむき　
（ すかーと ふわ　.... 「Ｌｅ Ｐｏｅｔｅ」（詩人）　
という名の店が姿を消した後　
新装開店して「Ｄｉｏ」（神）　
という名のピザ屋になった。　

消えた、前の店と同じく　
ピザ屋は毎日空席だらけ　

カウ　.... 「 生れ落ちた その日から　
　 へんちくりんなこのかおで　
　 わたしはわたしを｛ルビ演＝や｝ってきた 」　

という詩を老人ホームで朗読したら　
輪になった、お年寄りの顔がほころんだ。　　.... みえないじぶんをこえてゆく　
ぬげないじぶんをぬいでゆく　
このみをしばるなわをとき　

なみだのおちたてのひら　
にぎり　
しめ　

（ふりかえれば　
（しかばねのごとき　
（む　.... 定年後　
趣味で油絵を始めた親父が　
キャンバスに向かい　
一枚の絵を描き直している

　さっ さっ　

と音をたてると　
窓辺から
午後の日が射すこの部屋に　
絵具の匂いが満ちて　.... 夜行列車「能登号」車内　
すでに電気が消えた
午前二時十五分　

数えるほどの乗客は
皆 ｛ルビ頭＝こうべ｝を垂らし
それぞれの夢を見ている　

一人旅に出た僕は眠れずに　
開い　.... 机に置かれた一枚の写真

若い母が嬉しそうに
「 たかいたかい 」と
幼い彼を抱き上げている

年老いた母は安らかな寝顔のままに　
「 たかいところ 」へ昇ったので
彼はひとりぼっちに　....
こしごえさんの服部　剛さんおすすめリスト（160）
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
独白日記_〜今日の直筆ノートより〜- 服部　剛散文(批評 ...409-7-15
光の夜道＿- 服部　剛自由詩909-4-23
月夜の草＿- 服部　剛自由詩909-3-27
海に還った祖母に捧ぐ＿- 服部　剛自由詩3509-1-24
「_幸福駅_」＿- 服部　剛自由詩508-11-13
（_秋の日の断章_）＿- 服部　剛自由詩508-10-22
風の衣＿- 服部　剛自由詩2008-7-8
想い出横丁＿- 服部　剛自由詩408-7-2
卵- 服部　剛自由詩208-4-22
宇宙ノ木＿- 服部　剛自由詩10*08-4-18
硝子の紫陽花＿- 服部　剛自由詩408-3-31
深夜の靴音＿- 服部　剛自由詩508-2-6
夜空ノ花＿- 服部　剛短歌207-12-15
夜ノ糸＿＿- 服部　剛未詩・独白6*07-11-29
秋休み- 服部　剛自由詩8*07-10-23
「_人_」＿- 服部　剛自由詩18*07-7-18
〜金沢小品集〜＿＿- 服部　剛短歌12*07-6-12
海の見える丘にて＿- 服部　剛自由詩6*07-5-23
森ノ潮騒＿- 服部　剛自由詩13*07-5-18
「_降車ボタン_」＿- 服部　剛自由詩12*07-5-2
古い杖- 服部　剛自由詩12*07-4-18
車内の隣人- 服部　剛自由詩33*07-3-25
「_椅子に座る老女_」＿- 服部　剛自由詩7*07-3-16
まい・れぼりゅ〜しょん_ー僕の太陽ー＿＿- 服部　剛自由詩12*07-3-10
（_ピザ屋_Ｄｉｏ_にて_）＿- 服部　剛自由詩11*07-3-6
「＿透明人間＿」＿- 服部　剛自由詩16*07-2-23
ひび- 服部　剛自由詩507-2-19
窓辺の花- 服部　剛自由詩14*07-1-12
夜行列車_〜夢の手紙〜- 服部　剛自由詩19*06-12-12
母のお守り_〜ある母子〜＿- 服部　剛自由詩20*06-11-26
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