目が口ほどにモノを言う人たちに囲まれて
君の視線のフィラメントが闇のように漂う
人見知りがひとり 見知らぬ人たちと
待合室でチェスの駒みたいに包囲され
遠くから黙々と頭を打つ冷たい秒針は亡霊だ ....
甘やかな
旋律のピアニストは
何時までも恋という幻想に抱かれていた
その指先の爪は何処までもピンクに輝き
甘い囁きは
彼女を魅了した
そして
彼は応えた
ぼくは孤独を埋めること ....
二十年来使ってきたざるを買い換えた。そのざるには欠点があり(それは使い始めてすぐにわかったことだが)持ち手になる場所にほんの少し金属が出ているらしく、私はなんどもそれによって手を傷つけてきた。傷とい ....
野薔薇の咲き乱れる公園で私は待っていた。
ベンチに腰掛けている私の面前を物言わぬ者達が通り過ぎてゆく。
遠い記憶を辿ると確かに私はここで待っていた。
緑に塗られたベンチの端の方、そこ ....
何も持たなかったはずなのに 多分荷物は重くて
何を詰め込んだかわからないのに 大切で
手放せないまま 逃げるように出てきた都会
何をしたかったのか 私の頭の標識は
真っ白に作り上げ ....
気怠い午後だ。
こんな凪いだ白昼夢に溺れそうな空気には
ジムノペディがよく似合うのだろう。
神々の祭典だ
と、
教わったのだろうか。
アンブローシアは、
不老不死の実 ....
たいせつをさがしている
大袈裟でもなく控えすぎず弾力をもつもの
空は低いが僕の中にそれをおしあげる力があるだろうか
誰も風化しない星々も変化しないのではちょっと困るのだ
粘土のように塑 ....
前に体重がかかっていますね
と 足型調べる靴屋さん
胸は反らせているはずなんだが
と わたし
町中を歩いて
ウインドウに映るわがすがた横目で眺めれば
なんと言うことだ
前屈みでせ ....
ぼくは錬金術師のように
黄金を創ろうと必死になっていた
銅に銀と錫に亜鉛を混ぜて
ローズマリー・パセリ・タイム・セージを加え
そして 少量の胡椒とカルダモン
青い炎で炙れば
黄金色の合 ....
久々の早帰りに
電話の向こうで
妻が文句をいう
冷凍庫は貴方が
イッパイにした
妻の激流止まず
僕に記憶はない
何ということだ
酔った勢いから
楽天市場の散歩
記憶に無かった
....
逃れ去っていく逃れ去っていく記憶の
その核心を掴もうと
広がる鉛の海を泳ぐ、泳ぎ続ける
失われた煙の花と団欒
終わった関係と更地
虚脱の時を刻む秒針
静まっていく静まっ ....
魂の境を越えた交わりだった
わたしたちは一羽の大きな鳥になって
暁に輝く大河の遥か上空を
風を切り 大きく弧を描きながら
深く埋もれたまま錆びて膨れた散弾
思考に敷かれた玩具の電車の閉鎖回路 ....
もう二度と歌は歌わない
そう決めたのは
合唱コンクールの練習の時
隣の子がクスッと笑ったから
以来本当に僕は歌を歌わなかった
音楽の時間は口パクで通したし
歌のテストの日はズル休みをした
....
肉体だけが失われた
魂だけになった人々のすむ世界は
遠くて
案外近い、のではないか
たとえば
風の吹いてくる方角に向かい立ち
乾いてゆく眼球の映す景色が
そのまばたきのたびに
一枚 ....
流れ星を数える夜は
一人寂しく冷たい黒
おやすみのあとの秘め事は
誰にも気付かれない
空の星を金平糖にして
食べていることも
誰も気付かない
約束したのだ
海のクラゲと
星がいな ....
空の色が無くなり
銀盆のような
アルミニウムの月が昇っていた
少し戸惑いながら
東の空を眺めていたら
雲霞のような
鳥の群れが
北の方角を目指している
不思議ではないのだけれど
ぼく ....
府中の霊園の芝生に、僕は坐る
目の前の ✝遠藤家 の墓前に
炎と燃えるポインセチアの植木鉢と
グラスに日の射すワインを、置いて
初めて訪れた十五年前の夕暮れ
左右に生けた紅白の薔薇は
....
沈潜
水流から飛び立つ鳥達
冷えて透明に波打つ大気に
勢いよく流れ込み同化して
鳴いては耳を澄まし
耳を澄ましては鳴く
大気のコトバ、律動しながら響き
鳥達は従う、向かうべき方角 ....
まひるの余韻が
からだに蓄積して
わたし
気怠く溶けてしまう
触れないゆびの熱が
くうき 揺らして
ざわめいてるのは
柔らかに開いた毛穴から踊る火照り
芯でくぐもる泡気は
微かな ....
わたしは通わない方の血液
生なら何度か受けた
赦されていない言葉を並べるための流れ
滞ってはよく沈んでいる
室内の透明な瓶にプールされている
照らさない方の光が加速してはいなくなる
わ ....
たぶんもうすぐあかりがきえる
世界中のあちこちで いや 世界中で
ひつじはもう眠っている
きりんもとうに休んでいる
あかりがきえる
あかりは消される
祈ると祈らざるに関わらず
あ ....
空きの無い羅列の椅子に
また今日も
嘆息する
狭い踊り場は
且つ
斜(しゃ)に構えて視ると
歪に歪に
人影惑う
陽に降れる日もあれば
曇天に疼き
稲光に泪する陰りもあり
....
墓地と背
鎖を手に
見えない声
遠い灰の音
雨が
雨のための径を通り
去ってゆく
傘の無い街を
照らす幻日
呑まれゆくものに
小さなものらに ....
狡猾であり
幼稚でもある
すべては悲しく美しい
そう
狡猾であり
幼稚なのだ
幾日も
幾年もかけて
日が沈む
その終末の真っ赤な空を
眺めては小さな飴を頬張るように
感慨に ....
同じことを繰り返しながら
過ごす毎日でも
時間は流れている
信号が赤から青に
変わったときのように
たくさんの人が
立ち止まっては歩いている
どこへ向かって ....
御茶ノ水
ニコライ堂の
鐘が鳴り
ハイカロリーの
定食を食う
三分の
時が待てない
ジレンマに
カップヌードルの
美味さをおもう
岸壁を
目指した
若き日々
空はいま ....
いっそ
このまま
逃げてしまおうか。
という純粋は、
間近に控えた病床での浅い眠り
耳鳴りのような
譫言を以て
熱を
帯びるのでしょう
少女の恋する瞬間は
レモンバ ....
冬庭は音符を奏でる
花の終わった残骸は
案外気難しく
やっと植木鉢から引き抜けば
無数にめぐらせた白い根は
持てるかぎりの土をかかえこんでいる
ああ うたはここからも
うまれてきてい ....
針を指先に刺して、
血の花を咲かせるように、
ことばを呼ぼう。
浮かんでは消えていく気配が、
幻聴によく似た囁きに呼応する。
....
臨界に旅立った母は、すこし痩せたみたいだ
もう、帰りたい。という
ここには団欒がない。という
距てるものは何もないのに
働きすぎたのだろうか
午後十時二分の、電動歯ブラシは
....
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