もう二度と心から笑える日は来ないと思います
見たところ私よりも一回りも若いあなたは
これから半世紀以上続いていくであろう
(続いていってほしい)あなたの人生を
一度も心から笑うことなく歩ん ....
妄想と暴走の果てにある
方眼紙の平野には
フタコブラクダの形をした山が
文鎮がわりに置いてあった
緑の色鉛筆で
マス目を乱暴に塗り潰すと
山を駆け下りてきた風が
それを青 ....
私にゃ小さな夢も無い
おとう(父)は、昭和の春の夜
サナトリウムから旅立った
おかあ(母)は、平成の認知症
旅立つことさえ忘れてる
田舎の家は朽ちはてて
今じゃ住む人誰も無く
私にゃたい ....
孤独が桜を揺らしている
傷あと
月の光が溢れる
花束を置く
童話の中のソファーに
薔薇の花束
青白い身体寄せ合い
僕らはたましいをつなぎあう
やさしくいじりあう
ふた ....
菜虫化蝶
なむしちょうとなる
不思議な夢を見た
とある晴れた休日
ソファーの上で腹這いになって
私は時代小説を読んでいた
時刻はたぶん八つの頃
カーテンから漏れた
....
わたしたちはそれを知っている
わたしたちはそれについて知らない
刈り入れたものを幸と不幸に仕分け
四角四面の境界で善悪のチェスをする
しかも恣意的に
晴れた日に傘と長靴で出歩く者への嘲笑 ....
途上の果てに途上が永遠に続く程
過程こそ命だったりするのかもしれない
結果の全てを錆びれた勲章のように刹那の時代に留め
天へ行く虫の息を深呼吸の懐の泉 澄む結びに憧憬の界
今を ....
サラリーマンが命を担保に金を借り
建てた家々の集落
書割のような中流階級
文化を支えたピアノ
音の断片が集落の中を
誇らしげに 恥ずかしげに
歩いていたのは何時のころだったか
口 ....
切り裂かれた皮膚から
去っていった細胞が
シクシク泣いている
あの日開いた傷口は
新しく育った細胞にふさがれて
戻る場所はもうない
かつて激しくなにかになりたいと
想ったことがあっただろうか
自分以外のだれかになりたいとはいくども考えたが
それはクラスの席替え程度の安易な願望にすぎなかった
ラモーンズのコピー親父バ ....
心地良い朝を吸い込んだら
迷子のオキシダントが
途方に暮れているのが分かった
悔しすぎて歯軋りしたら
心配性のフィブリノーゲンが
身構える気配を感じた
本当を言い当てられて黙っ ....
青い空がおいでって私を呼んでる
ずっと夢見ていた旅立ちの日
春の風が何度も私をせかして
早く早くって言うけれど
飛び立つにはけっこう勇気がいるのよ
心臓がドキドキして今にもはじけそう ....
手ではない何かが動いて
君ではない何かを引き寄せた
恋という記号を剥ぎ取って
唇ではない何かが貪った
唇ではない何かが動いて
名前ではない何かを呼ぶと
君という記号を脱ぎ捨てて
....
月の表面がつるつるであったと信じられていたころ
自作の望遠鏡での観察で月の表面がでこぼこであることを発見した
ガリレオ・ガリレイ
プトレマイオスの天動説はキリスト教神学オフィシャルサイトの既 ....
雪が降る、雪が降る、
赤いハートに降り積もる
春はまだか、春はまだかと、まるくなる
西の山に陽が近づいて
1日が終わろうとしていた
男は川面すれすれに延ばしていた竿をあげ
帰り支度を始めた
ゴカイを川に返し 椅子をたたむ
通りがかりの人が声を掛ける
「連れましたかね」
....
『お母さん、最初から一緒に寝てほしいの』
『あのね、お母さんは忙しいの。
後で行くから、最初は一人で寝ないとね』
今夜も娘は
テディベアを抱きしめて寝ている
その規則正しい寝息を確認し ....
鏡に向かって
眠気と髭を剃り落していた朝
くたびれた自分の顔に重なるように
ふっと浮かんだ父の輪郭
丸くて憎めない
目の記憶
電車の中吊りは
気の早い春の旅への誘い
オーデコロ ....
あったかいひざにはにゃんこ足元にも猫が寄り添う冬の寒い日
今もなお大きな体でひざに乗る重たいけれど嬉しいにゃんこ
移動するたびにどこでもついて来るストーカーだねほんとに君は
引っかか ....
毎朝冷たい風に吹かれながら
洗濯物を干すその手は
ひどくかさつき荒れていた
誰よりも早く起き
米を研ぎ、味噌汁をつく ....
遠い昔のことよりは
今の家族を思うとき
苛立ち不満を見るよりは
今の楽しさを感じて生きる。
不自由な君の手をさすり
冷たい君の手をさすり
世間話につい昔
未来の話は嘘になる。
今の楽し ....
アルモノヲナイモノノヨウニ
ナイモノヲアルモノノヨウニ
カタルモノニカタラセズ
カタラナイモノニカタラセヨ
時の澱み
虚無の沼地
透明な不発弾
スイカばかり食べていた記憶の夏
....
もったいない と
みっともない が
朝から口論している
板挟みのわたし
ポカンとしたくつ下
《時間がないのに:2015年1月10日》
それは鉛の重力で
垂直に私を引っ張るので
テグスに結び付けられた浮きのように
私は
水面に立っている
もうふわふわも
ぐらぐらもしない
磁針のように空を指し
己を標として生きるのだ ....
川を越え海を越えた向こう岸へなど
渡ることは考えもしないけれど
対岸に上がった火の手を見付けて
騒いでいる
ディスプレイの中で
銃を構えてうろつく男を眺め
騒いでいる
....
迷刀スパイ
ぼくが国民学校に通っていたころ
鉛筆削りや竹細工には
折りたたみナイフ「肥後守」を使っていた
喧嘩のときも肥後守をちらつかせれば相手はひるんだ
その頃
日本では本 ....
漠然とした不安に
暑苦しいくらい重ね着させて
頼りない平気に
大袈裟な添え木をして
大丈夫という
お題目を唱えながら
見て見ぬふりの
巡礼の列は果てしなく続く
弓なりに反りかえ ....
胸に巣食った小さな影が
あなたの時を刻み続ける
砂時計のオリフィスを
いつの間にか歪めていたのかもしれないと
あなた自身が気づいてから
あなたはきっと違う風景を見ている
そう、残酷な告 ....
陽の当たらない玄関の
下駄箱の上に置かれたガラスの水槽
その中に金魚が一匹
夏の宵
太鼓の音や提灯に囲まれた広場の
入り口で掬い取られて
運ばれてきた
たくさんの兄弟と泳 ....
何かが見えたような気になる
*
空は空の色
水は水の色
あの花はあの花の色
その人はその人の色
青と透明と赤と頑固者
決めてしまえば
安心だし便利だ
でもそうは思 ....
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