それぞれの想いに世界を覆う空気がマーブルに
色を成して 溶けてゆく
包まれている
私が体験した訳ではない友人の痛み
ただ立ち尽くしながら体中から煙に塗れるように語りかける
....
キッチンのテーブルで
言葉をこねくりまわしていると
いつしかガイコツになっている
ガイコツは書く
普段の僕が言わないことや
普段の僕が知らないことや
普段は誰にも聞けないことや
普段の世 ....
凍てついた夜道で
640年前のベテルギウスの光を見上げながら
今日は星が綺麗だね
って僕のポケットに手を突っ込んでくる
見えないサソリから
ただ逃げ回ってばかりいるとても臆病な僕を
....
夜と朝が交差する一瞬
藍色の空めがけて解かれる
淡い黄金(こがね)の帯
その真中を引き裂いて
真っ直ぐに飛んで行く
お前は名も無き一羽の鳥
霊妙なる森の奥深く
未だまどろみから醒め ....
人生に設定した目的に向け
一直線に生きていける人はあるまい
散歩先に目的地を設定しても
一直線に歩いて行くことはない
前方の橋
大型犬を連れた女性がこちらに来る
わたしは 当然の ....
どうか、私を弄んで下さい
その熱く燃える掌で
私の輪郭を全て辿って
白く滑らかな肌に頬を寄せて
息を吹き掛けて
どうぞ、私の中に入ってきて
わき腹を鷲づかみにして
何度も何度も私を翻して ....
ものごころがついた頃から
僕はどこまでも透明に近い
風船だった
鳩時計式の心臓から伸びる
静脈と動脈が一番こんがらがったあたりに
震えながら潜んでいる僕自身を
誰もがたやすく見つけ ....
がんばれと言おうとした口から二酸化炭素が出る
ぼくの中に少年のぼくがいて
ぼくの中をぼくが歩いている
ぼくの中を少女が歩いていて
ぼくの中を
何人ものぼくが歩いている
ぼくの中をあなたが歩いている
あなたは背を向け
ぼくの中でち ....
壁に掛かった能面たちは
電灯に照らし出されると
生き返る
幼い子には
能面たちの話す声が聞こえるのか
じっと見つめ後ずさりする
激しい風雨の夜は
般若面が半開きの口の奥で
歯を ....
NUE(鵺)
猿の
小賢しさと
狸の
強かさと
虎の
素早さと
蛇の
執念深さが
艮の
夜空で出逢う時
人の
内の矛盾は
闇の
中に ....
薔薇よ
かくも烈しい
おまえの怒りに
一瞬にして触れてしまった
不意をつかれてたじろぐ私の指先の
見えない程小さな
けれど思いのほか深い傷から
みるみる膨れ上がって
指を伝って流れた色 ....
サイドミラーに小さな蜘蛛
縁を歩けば一人
面を歩けば二人
奇妙なポーズ
虚空と戯れる長い脚
見えないイトで織りなす罠
偶然と必然の色分けは自分
幸福と不幸を計る分度器も ....
すべての望みをかなえることができないように
すべてのいのちをいきることができないように
ぼくたちはあるフレームできりとられた風景を生きる
ことばでそれらをデッサンする
どうやったら頭のなか ....
妖怪
都会の妖怪は
昼間に出るらしい
夜は明るくて
隠れる場所が無いから
たとえば
人の途絶えた午後
ビルの屋上に出るドアの
前に佇む影
あるいは
休日の事務室に ....
「吐」
薔薇色の二酸化炭素
パッチワークの嘘
賑やかな流動体
ビタースウィートな溜め息
悩ましい亀裂から
漏れ出す黒い臭素
歪に膨れ上がる
柔らかすぎる容器
吐き出さ ....
夜の旧山手通り
どこかの大使館の前
キャリーパミュパミュみたいな
自転車少女やハットできどった
ボーイズがとおりすぎる
夜の明治通り
花園神社からさきは闇だ
人種と性のごった ....
「阿」
宇宙のはじまり
命のはじまり
言葉のはじまり
はじまりの吐息が
外側をふるわせる時
内側のふるえは
色となり
音となり
文字となって
世界を創りはじめる
....
私の望みは
大きくはない
お金
仕事
仲間
それから
かばん
趣味
私の趣味はなんだろう
歌うこと
詩を書くこと
見上げること
見上げて
あなたより少しだけ
幸せに ....
ITTANMOMEN (一反木綿)
薄っぺらな奴だと蔑まれても
捉えどころがないと疎まれても
何処吹く風を自在に乗りこなして
へらへらと今をすり抜けてやる
旗のように風をくら ....
じっと見つめる白いディスプレイ
画面の深淵に広がる混沌
ぼんやりとした影がふるえているのだが
コーヒーを一口 指先で机を叩き
たばこを一本 目を閉じ頭に爪を立て
五分 十分・・・
一瞬 ....
日々の暮らしの
吹き溜まりから
洒落た記号を
掘り出して
綺麗に並べても
何処にも響かない
吹き溜まりに
手をつっこみ
すくった想いを
雪玉にして
無防備な背中に
ぶつけ ....
かきけされたものを
かきけしていく
はぎとられた爪が
残した影は
えぐりとられた
月の皮膚
窓にうつるその
....
むしられた羽根が
散らばる四畳半は
着古した洋服の匂いが漂う
何週間も閉じられたままの
ノートパソコンは
化石になって ....
1
憧れを追い駆ける時の虚しさ
その中でしか見つけられない{ルビ理由=わけ}を求めていること
いつからか
僕の片手には孔が開いていた
その寒さの中で屈まっている君よ
なんて空疎 ....
前略 わたしはぼちぼちです
あなたはいかがですか 草々
追伸 ぼちぼちだといいな
セピア色の銀板写真に
固定されたあなた
肋骨の浮き出た体で
西瓜を喰っている姿に
戦場の匂いはないとしても
あの夜
炎にあぶられた身体は
反り返り 跳ね返り
決意は ぱちぱち爆 ....
陽光も届かない湖底には
二十世紀を抱えたまま山里が沈み
とある一軒家には歳経た鯉が住み
いろりを囲んで小魚たちに昔話を聞かせる
山峡の淵に潜んでいた竜は
湖底に散らばっている屋敷を見て ....
強烈な風雨を受けて
折れてしまった月下美人の葉を
何気なく水に差しておいたら
根が出た
その後も根は伸び続け
葉のくぼみに蕾をふたつつけた
さすがに花を咲かせることはなく
....
大切な約束をしたことを
いいかげんなわたしは
いつのまにか
忘れてしまった
むきだしのアセチレンランプの猥雑さざめく夜市
腹を見せて死んだ金魚は
臭う間も与えられずに すばやく棄てられる
....
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