君は銀の鳥籠に
薄紫の星雲を飼っていた
窓の遠くに見える森の上の空に
時々神様の背中が見えると云った
僕は君にしずかな憧れをおぼえながら
でもただ淡々とあいづちをうったりしていた ....
君の生まれた十月の国で
うたうように眠りたい
銀木犀のしずかなかおりが
漂う夜気に包まれて
丘を木立をぬって流れる
川のせせらぎを聞きながら
幼い君が 少年の君が
夢 ....
あの頃
世界は終わりつづけていた
人々がざわめき行き交う街は
同時に 虚ろな廃墟だった
あらゆるものが僕の意識から
辷るように遠ざかりつづけていた
(でもいくつかのものごと たとえば ....
夏が去ったあとのがらんどうに
いつしか白く大きな九月階段が出現していて
そして僕らはその段々の上に
蒔かれたように腰かけていた
ただそこで空を見あげていたり
何かを読んでいたり
歌をうたっ ....
白い八月の午さがり
目を閉じて
君の幻を見ている
水のレースにふちどられたドレスで
踊っている
きらきら
きらきら
僕の瞼の裏にも水の雫が飛んで
きらき ....
日盛り
頭上に覆いかぶさるのは
この上なく濃厚な夏の青空
ひとしきり蝉時雨
百日紅の花が揺れ
――あの庭にも 百日紅がありました
と どこかから誰かの声
しばし足元に目を落と ....
夏の
薄明と
薄暮とが
震わす弦
此の世と
彼の世との
あわいに張られた
雨の季節が過ぎ
風の中から 川面から きらめく緑の梢から
いっせいに放たれてゆく
夏を奏でる音符たち
それらはゆらめき絡み合い
透明なアンセムになる
その響きに
意識を浸せば
やが ....
いくつもの風が過ぎた
いくつもの雨が過ぎた
いつ結んだ思い出だったろう?
僕の地平をゆく青い旅人に
君の塔に棲む白い少年が手を振る
日と月とがめぐる 星座がめぐる
幾重 ....
薔薇紫のたそがれに染まる街
六月
ずっとひとり透明な気持ちで過ごしてきたけど
誰かを待ってるような気にさせられる
むかし好きだったうたをうたいながら
誰かを待ってるような ....
僕らは名づける
僕らの世界のあらゆるものに名づける
僕らの世界が傷ついても
その傷にもやがて名づける
僕らの世界が変わってしまっても
その世界にやがてまた新しく名づける
僕らは名づけ ....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
隠された寝台で
黒衣をまとい 彼女は眠る
やがてその眠りに霧が立ち籠め
その中で 鬱蒼とした森林と
銀と透明にきらめく都市とが
ゆっくりと近づき
そして静かにまじり合う
....
ひしゃげた白い空に
ひしゃげた日暈が架かっている
とりどりのチューリップは群れ咲き
金属的に笑っている
その笑い声の中を
黙示録に腐蝕された心臓がひとつ
歩いてゆく
果たされ ....
墓地の芝生の上を
早春のあかるい風が吹き
ある白い墓標のかたわらで
小さなデイジーの花束が
微笑んでいた
そのことをくりかえし思いだす
私ひとりの影と
しずかな陽射しと
そ ....
夜明けの人よ
この胸の彼方の青い丘に立ち
おそらくは私を待っているのであろう
夜明けの人よ
あなたのもとへと
私は行きたい
けれどそれにはまだ
私が過ぎ去らねばならぬもの
私を過ぎ ....
世界の果てに 椅子を二つ置いて
暮れつづける夕暮れと
明けつづける夜明けとのあいだで
いつまでも 話をしていよう
目を閉じて
果実たちの歌をうっとりと聴いている君の午後
に あたり前の登場人物のようにとどまっていたいのに
何故だろう砂のようにこぼれてゆく僕の輪郭
すっかりこぼれてしまう前に
君に気づいて ....
わたしの内部で
薄明と薄暮とが 蒼く対流している
その中を 灰色の臓器のようなものが
古い記憶のように ゆっくりと上下する
君と会ったら
君と交わす言葉で
森を作ろう
いろんな樹がざわめいて
ざわめきの中から 光がこぼれてくる森を
君も(そう 君でさえも)
僕を救うことはきっとできない
けれどそれでも君が ....
オレはざわめきの粒子に身体を打たせようと
再び青い扉を開ける
精神に帆をあげて進んでゆく
可憐な狂気が束の間の夢を羽ばたかせている
物憂げな空には最後の揺籃が揺れている
噴水広場には優し気な ....
僕の住む街の近くに
緑の草におおわれた丘があって
その頂には飛行船のなる樹が立っている
枝々に
最初は小さな小さな 飛行船がぶらさがって
そして日に日に 少しずつ大きくなってゆく
その ....
見わたす夕空は
{ルビ菫青石=アイオライト} {ルビ藍晶石=カイアナイト} {ルビ天青石=セレスタイト}のモザイクです
君の微笑みに
さびしい火がともります
ああそのせいか
君の黒い外套 黒 ....
街の空に
モノトーンの虹
夜が来れば
乾いた月がのぼる
この窓も枯れてしまった
無造作にガラスのコップに挿した
一輪のピンクのガーベラだけは
鮮やかに浮かんでいるけれども
街はずれの丘 ....
壊れた時計をいくつか
この部屋に飼っているので
どうやら時空にちょっとした罅が入ってしまったらしい
ふいに宙の思いがけないところから
時ならぬクロッカスの花が咲いたり
誰のものとも知れぬ指た ....
空には虹色をした魚の天使たちが満ち
人々は時々輪郭を失くしながら行き交っている
その人々のあいだを
宛名を手書きされた手紙たちが
それぞれの行き先へと急いでいるのが見える
街はずれの丘の上で ....
かたちのない宝石を
手のひらで転がす九月の午後
孔雀たちはまどろんでいる
淡く実る葡萄の夢を見ながら
この過剰なしかし稀薄な世界たちの中で
見張り塔から
いったい誰が何を見ている?
何が見えていても無駄かもしれない
かたちの無い革命もどきが
気づくと僕らの意識を下から暗く蝕んでいる
そんな ....
白く 夏が終わりはじめている
僕らのいるこの部屋も
白い宙になかば浮いたカプセルみたいだ
窓の遠くから
世界の破片で遊ぶ子どもたちの声が
聞こえる
その声もなんだか ....
そして今年もまた夏が此の世を
残酷に覆い尽くしてゆく
夏は光と影の鋭い{ルビ刃=やいば}で
其処彼処抉り取ってゆくから
見渡す景色は狂おしいほど彫り深くなり
抉られた処から噴き出すように
....
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