揮発する夏の底で
胸が かなしみに沁みてゆく
青と白と銀の空
見あげても見あげても
{ルビ眩=まばゆ}さは
かなしみの純度を高めるばかり

向日葵のあざやかさが目を
降りしきる蝉の声が ....
雨のむこうから
無造作に青空
緑のつややかな木立の陰から
ほら 少年たちが
幾重にも幾重にも生まれてくるよ
君の髪を肩をすべるように
きらきら きらきら
光たちが降りこぼれるよ

逃 ....
世界の尖端に
詩人のようなものが引掛かっている
重いカーテンをどんなに引いても
夜の窓から三日月がはみ出してくる
夢の過剰摂取の副作用が
紫色に垂れ込めてくる
中空には透明な旗が翻る
誰 ....
白い部屋 白いベッド
時計の針だけが 静かに動いてゆく
私は此処に
囚われている それとも
護られている

開くことのない窓から
中庭を見やる あかるい芝生に 木洩れ日が
揺れている  ....
夢が 微睡んでいる
緑の葉陰ものうく揺れる
やわらかな午後を

その瞼を 胸もとを つまさきを
うすい風が吹きすぎる

夢は そうして 自らを
夢みている あえかに甘やかに
その夢の ....
探偵の黒い傘を雨が濡らす
探偵の薄いコートを風が揺らす
探偵は心のアリバイについて考えている

立ち並ぶ街路樹 街灯
探偵は歩きながら考えている
そう 心はそのときそこには無かったはずだ
 ....
気づくと
背中に窓があった
木の枠の 両開きの窓だ

閉じられているその窓を
覗き込んでいる自分がいた
中には 止まった時計と
傾いだ天秤が見えた

やがてその窓の中にも
自分があ ....
五月の夜が更ける
上限を過ぎた月が
丘々を 森を照らし
小さなこの庭を照らしている
ほの甘い空気の中には
すでに夏の気配が かすかになやましく
ひそやかに 息づいている

室内では 夜 ....
岬の白い道を歩いてゆく
突端をめざして一歩一歩
五月の空は
高らかに晴れわたっている

風が吹く
記憶が吹く
波が聴こえる
記憶が聴こえる

岬は細く長く
なかなか突端にはたどり ....
春が白く垂れこめている
足元には名前を知らない薄紫の小さな花が
風に揺れている

一緒に
何処かへ行けると思っていた
何処へか はわからないまま
僕らは二人して歩いてきた
だけどもう  ....
心が嗤っている
春の青い空の下
千切れ飛びながら嗤っている
蒲公英の綿毛の飛ぶ空間を
瑕つけながら嗤っている
燕の飛び交う空間を
罅入れながら嗤っている

  ああ 眩暈がする
   ....
皮膜を張った空に
午後の白い陽は遠く
道は続き

かつてこの道沿いには
古い単線の線路があり
そしてこの季節になると
線路のこちらには菫が幾むれか
線路のむこうには菜の花がたくさん
 ....
わたしは うっとりと
   甘いまばたきを する
散りこぼれ
   ながれてゆくのは
      花びら
         花びら
春は わたしを載せて
   ゆっくりと 廻転する
  ....
モザイクのような街路に迷い込んだ
そこらの店の看板は
どれもこれも三日月だの 土星だの ほうき星だの
要するに天体のかたちをしている
それらの看板に書かれたそれぞれの店名は
たしかにどれも知 ....
窓から見おろす午後の広場を
満たしているのは
{ルビ懶=ものう}い閑雅と
ほんのわずかな挑発

とりどりのチューリップの咲く
花壇のそばのベンチには
一対の恋人

彼の心臓は水晶製
 ....
君は歩いてゆく
お気に入りのハットをかぶって
お気に入りの傘を片手に
街の路を 野辺の道を 森の径を

誰かに出会うと
とまどったような ためらったような
微笑みと共に挨拶を交わす
そ ....
銀の三角形の頂点から
菫の花が
咲く

波打つ白鍵と黒鍵の上を
踊るのは
かすかに虹色を帯びた
透明な球体たち

回転木馬のまわりを
ほの甘い唇たちが
はばたく

真珠色の円 ....
冬菫に
ささやく想いは
遠い日の

    夢のおとした
    かそけき影は
    ひそやかな紫

冷たい風のなか
冬菫に
ささやく想いは

    遠い日の
    夢 ....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
中空の細い運河を
小さな郵便船が遡ってゆきます
あれには僕の手紙も乗っている筈です
誰に書いたのか 何を書いたのか
とうに忘れてしまいましたけれど

ひんやりとした透明な砂漠を
彷徨って ....
冬の薄灰色の空に
硝子の太陽
私が歩む通り沿いの柵には
光沢のない有刺鉄線
遠くに鉄塔群

私の今のこの歩みは
自分の部屋へと帰るためだが
それでいて
どこへ向かっているのでもない! ....
ひとり夜を歩く
頭上には
ペガススの天窓

自分の足音が
なぜかしら胸に迫る
何を思えばいい
何を どう思えばいい

道は暗くしずかに続いている
心をどこに置けばいい
心をどこに ....
分光器の憂鬱
天象儀の退屈

を あざやかにうちやぶる角度で
挑むようにひらり舞い込む
あやうい好奇心

極光のように繊細な予感を追いかけて
けれど焦れても
いちばん深い記号は
そ ....
明けの空は大きな真珠
忘れてしまいたいことだけのために
忘れきれず虚ろにゆらめいてたたずむ

彼方からさびしく冷気はながれ
明けの空は大きな真珠
ほのかに
虹いろの明るみを見せながら
 ....
身のまわりの色彩が不思議と淡くなる夜
胸のうちに浮かぶ
いくつかの
花の名

鍵盤をやわらかに歌わせる指たちの幻

夢のうちを
あるいは予感のうちを
あえかにかすめていった 星のよう ....
マリオネットたちの仮想的革命が
左心房をよぎる
窓の外では夜の街が
書き割りのように翻る
カレイドスコープの中で廻転するのは
天使たちの落とした翼が
あまりにも降りしきっていた日々だ
知 ....
屋上の青空

風向風速計

一日にいくたびも南中した

僕らの無邪気な太陽
憂鬱色の瞼のような
夕暮れが降りる頃
うすい光をまとった
ひと群れの唇が窓のそとを過ぎる
観測所には誰が居るんだ?
あの夜に僕らがはじめて気づいた
色とりどりの破綻は
今もまだつづいているんだ
君のあるいは君たちのともした火
砂漠の向こうから送られるシグナル
忘れられた庭園の扉 ....
けれども胸は 青く傾斜してゆく 怯える意識には
透明なふりをする思惟が 蔓草のようにからみつく
窓の外では 涙のように 果実の落下がとめどなく
そのさらに遠く 地平の丘の上では 二つの白い塔が
 ....
塔野夏子(456)
タイトル カテゴリ Point 日付
夏・反応[group]自由詩6*09/8/1 11:33
真夏がはじまる[group]自由詩6*09/7/27 11:25
透明な旗自由詩8*09/7/17 11:34
asylum自由詩4*09/7/5 17:58
夏に至る[group]自由詩4*09/6/19 18:10
探 偵自由詩1*09/6/5 18:21
背中の窓自由詩7*09/5/27 11:14
五月の夜自由詩8*09/5/17 11:34
自由詩5*09/5/3 11:30
別離の詩[group]自由詩2*09/4/27 11:17
四月十九日 快晴[group]自由詩2*09/4/19 11:49
空の皮膜[group]自由詩10*09/4/5 11:33
淡彩万華鏡[group]自由詩1*09/3/27 11:14
白紙事件自由詩1*09/3/13 17:32
春 景[group]自由詩2*09/3/3 11:12
歩行者自由詩4*09/2/21 11:15
早春断章[group]自由詩1*09/2/11 18:23
冬 菫自由詩4*09/1/25 11:18
四行連詩 独吟 <樹>の巻[group]自由詩4*09/1/9 11:16
忘却プロトコル自由詩7*08/12/27 11:38
硝子の太陽自由詩3*08/12/17 11:04
ペガススの天窓自由詩6*08/12/5 11:08
点在の火自由詩9*08/11/29 11:44
明けの空自由詩2*08/11/19 10:45
ひそやかに自由詩9*08/11/9 11:02
夜の観察者自由詩4*08/10/27 11:25
夏の記録帳[group]自由詩2*08/10/11 11:29
六月間奏自由詩7*08/6/23 20:05
きらびやかな兆候自由詩8*08/6/13 20:51
月のない夜自由詩20*08/6/1 16:22

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