九月が 群れをなして飛び去ってゆく
胸には 乾いた音階

湖畔を歩きながら
あのひとと約束した
――次に会うのは オールトの雲あたりで

やわらかな忘却が
夢のふちで微笑んでいる

 ....
其処は中庭
周囲がすっかり閉ざされて
何処から入ればいいのかわからない中庭

其処で
プロローグと
エピローグが
手をとりあってくるくると回っている
モノローグと
ダイアローグが
 ....
晩夏の
午睡の
淡い緑の濁りの中を
海月が漂う
一匹 二匹
三匹 四匹……

海月たちは
優婉に
漂っている
半透明のからだを
ときおり
仄かに虹色に光らせて

一匹 二匹 ....
清い流れに沿い
{ルビ鶺鴒=せきれい}が閃くように飛んで

揺れるねむの花
ねむの花はやさしい花 と
誰かが云った

小さな手が生み出す
鍵盤の響きはたどたどしくても
その無邪気さで ....
ふたたび
夏への自由が
窓辺で翼をひろげはじめた

  欲しいのは何
  疾走感
  浮遊感

誘われ
委ねゆこう
痛みの暗い罅を
抱いたままでも

夏への自由が
窓辺で白 ....
部屋の片隅に
壊れてしまった時がいくつか
転がっている
それらは この夜に
透明な襞を寄せてゆく

やがて その襞は
包んでゆく
君の記憶を あるいは予感を

あるいは 記憶と予感 ....
微睡む窓から
静かな私が飛びたつ
静かさに沿うかぎり
どこまでも遠くまで飛んでゆける

さえずりや
せせらぎや
さざめきや
ざわめきや
を 内包しつつも
静かさは静かさのままで
 ....
幾重もの黄昏が
共鳴する中を歩いている
自分の黄昏
知っている誰かの黄昏
あるいは知らない誰かの黄昏
数知れぬ意識の黄昏

黄昏てゆくのは今日という日
あるいはなんらかの時世
あるい ....
踊れ
  踊れ
誰も皆{ルビ仮面=マスク}をつけて
踊れ
  踊れ
とめどなく流体化する世界の中で
踊れ
  踊れ
どのリズムで
どのメロディーで
それは好きに選べばいい
踊れ
 ....
月が薫っている
星たちも薫っている
今夜は月と星たちだけでなく
とりどりの薔薇窓が
大きいのや小さいのや
しずかに廻転しながら
いくつも空に浮かんでいるよ
   この夜空のどこかで
  ....
詩を書くと
詩のなかに彼方が生まれる
その彼方について詩を書くと
そのまた彼方が生まれる

身体は此処にとどまったままで
幾重もの彼方の谺を聞く
其処で揺れているのは
硝子細工のチューリップ
君のだいじなチューリップ
どんな色の風が吹いても
春という季節のために
其処にただ咲いている
いつか君の心臓が
やわらかな福音を脈うつ
そ ....
外へ 外へと
言葉が拡散してゆくとき
内へ 内へと
深く問うものがある

あの日の歌が回遊してくる
おなじ言葉に
あらたな意味を帯びて

今はただ
あらゆる方向を指し示す
矢印た ....
浅い春が
私の中に居る
いつからかずっと居る

浅い春は
爛漫の春になることなく
淡い衣のままで
ひんやりとした肌のままで
佇んでいる

(そのはじまりを
 浅い と形容されるの ....
月光螺鈿の庭で会おう

このかなしみは
悲しみでも
哀しみでもなく
ただ透きとおるばかりだから

ふたしかさの中でしか
結べない約束を
たぐりよせるほかに術はないから

月光螺鈿 ....
{ルビ朧=おぼろ}の水が昏い季節を流れている
私は無邪気な罪の眠っている
揺籃をそっと揺すっている

無邪気な罪は
眠りながら微笑んでいる
おそらくは
甘やかな赦しの夢でもみているのだろ ....
僕は夜明けをあまり知らない
けれど夕暮れならたくさん知っている

薔薇いろから菫いろへとグラデーションする夕暮れ
金色の雲が炎えかがやく夕暮れ
さざ波のような雲が空を湖面にする夕暮れ
不吉 ....
頭上にはきらめく星に満ちた夜空があり
その夜空へと向かう銀の螺旋階段があった

その螺旋階段を
のぼってゆく二人がいた
それもワルツを踊りながら
くるり くるりと
軽やかに優雅にのぼって ....
秋の思惟が
コスモスの群れ咲く上を流れている
うす青く光りながら
ゆるやかに流れている

それは誰の思惟なのか
知らない……ただ秋にふさわしく
さびしげにうす青く光って
ゆるやかに流れ ....
そこは見わたすかぎりの平原
誰もいない
誰も来ない

その平原のまんなかに
円い緑の丘
そしてその上に観覧車
誰もいない
誰も来ない
のに
ただ静かに回り続けている

観覧車は ....
濃密だった夏が
あっけなく身体からほどけてゆく
世界から色を消してゆくような
雨が降る
雨が降る

あの光きらめく汀を歩く
私の幻は幻のまま

それでも
夏はこの上なく夏であったと ....
わたしという器に
一塊のさびしさが盛られている

それは
昏い色をしているのだが
光の当たりようによっては
時に
ほのかに真珠光沢を帯びる箇所があったり
ほのかに虹色を帯びる箇所があっ ....
真夏という結界が解けないうちに
その中で身体の輪郭が
虹色に光っているうちに
口づけを交わすがいい
せつなく囁き交わすがいい

夢幻のようであればあるほど
あざやかに灼きつく一刻一刻
 ....
あの夏の朝に 私が見たものは何であったか

まばゆいかなしみがほとばしり
そして私は そのまばゆさのままに
一心に 泣いたのではなかったか

       *


 あ あ
   ....
身の内に云い知れぬ狂おしい憧れを
抱いている者どうしの
身の内に暗く轟く世界の崩落を
抱えている者どうしの

目くるめく共振

其処から次々と幾輪もの蓮の花がひらく
互いのそれまでの日 ....
私たちは舟の上で恋をした
舟をうかべる水面はきららかで
私たちを祝福しているかのようだった
私たちはあまりにも
恋することに夢中だった

時が経ち
私たちはどこかへ行ってしまった
けれ ....
蒼ざめた夢を見つづける者だけの胸に結ばれる純粋星座

いつからか閉ざされたままの実験室
硝子器具たちのあいだの恋の囁き

解かれてはならない方程式を無造作に壁に書きつけ
夜明けに扉を開けて ....
やわらかな緑の丘の上に
少年たちが一列に並んでいる
一人ずつ順に
チューリップに化けてゆく
そしてまた順に
少年へと戻ってゆく

少年たちの頭上には
半透明の心臓がひとつ浮かんでいて
 ....
その場所には五人の詩人がいた 皆その瞳に
あやしげな緑色の光を宿していた とある緑
色の錠剤を飲むとそれが効いているあいだは
瞳がそんな風に光るらしかった そしてとて
もいい詩が書けるらしかっ ....


いちばん繊細な季節が
君の心をうす青くゆらめかす
君は君自身の内部へ
幾重にも囁く ひそやかに震える叙情詩を
季節の弦と鍵盤とが
君の想いを奏でるままに
銀のきらめきを 彼方へと ....
塔野夏子(457)
タイトル カテゴリ Point 日付
乾いた音階自由詩2*20/9/27 12:05
ローグ自由詩6*20/9/19 11:28
夢海月[group]自由詩0*20/8/23 11:14
夏の練習曲[group]自由詩7*20/8/5 11:09
夏への自由[group]自由詩1*20/7/25 11:33
夜の襞自由詩3*20/7/5 11:24
微睡む窓自由詩4*20/6/13 11:02
共鳴する黄昏自由詩11*20/5/27 16:30
マスカレイド・デスパレイト自由詩5*20/5/15 17:47
薫る夜空自由詩3*20/5/7 11:05
彼方が生まれる自由詩7*20/4/17 11:42
春の福音[group]自由詩2*20/4/9 11:43
銀 化自由詩2*20/3/31 14:56
浅い春[group]自由詩4*20/3/19 11:26
月光螺鈿の庭で自由詩2*20/2/23 12:26
朧の水自由詩3*20/2/3 11:43
夕暮れ見本帖自由詩5*20/1/13 11:42
星空への螺旋階段自由詩2+*19/12/31 20:38
秋の思惟自由詩1*19/10/23 11:06
夢見る観覧車自由詩1*19/10/9 11:56
晩夏の雨[group]自由詩5*19/9/1 11:34
静 物自由詩3*19/8/15 10:51
真夏の秘密[group]自由詩1*19/8/9 22:40
Happy Birthday自由詩3*19/8/3 11:22
邂 逅自由詩2*19/7/19 14:00
舟の歌自由詩3*19/7/7 11:56
Dance Ephemeral自由詩2*19/5/1 13:41
春の脈拍[group]自由詩6*19/4/17 15:48
緑色の錠剤自由詩2*19/3/29 10:55
君の在る情景自由詩3*19/3/17 12:21

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