そしてまた世界は
からっぽに明るくなる
このいたずらな明るさの中では
何かを見分けることなど出来やしない

事象たちが書き割りのように
意識に貼り付く
歩きたい道を見いだすことも困難なの ....
私の中に
午前を飼っている
白い舟がいくつか
遠く漂う午前だ
華奢な草の葉がためらいがちに揺れ
吹く風のなかに
覚束なげな青さが
消えない午前だ

もう長いこと飼っている
だからも ....
燭台にともされたろうそくの炎が
一点の曇りもない銀のナイフとフォークに
照り映えています
用意された皿はただ一枚
白い無垢な皿です
さあ時間になりました
採れたての ....
夢のように美しく 哀しい

きらめく空中ブランコ
この手に掴めたもの
掴めなかったもの

きらめく空中ブランコ
この春と夏とを彩った
ときめきを見送る

きらめく 宙を舞う肢体
 ....
夏雲がゆっくりと渡ってゆきます
手をかざしても よくは見えないけれど
僕らの記憶は 眩いあのあたりで
いまも青空にまみれて 遊んでいるんです
あたりじゅうすべてが蜃気楼と化してしまいそうな
夏の午後
裾の長い木綿の部屋着に包まれ
籐の長椅子で微睡む一個の
流線型の生命体
窓からのゆるい風が
肌にときおり触れて過ぎる
ほの甘くあ ....
かなしい夏 ?


夏の首すじが
眩しい

何もすることのない午後

空気さえ発光している

しなやかな夏のゆびさきが
飽きもせずあやとりしてる

夏はあの木立のてっぺんあた ....
心ゆくまで涼もう
誰も居ない そして
自分も居ない処で
悪い子にはなれなかった
投げやりにほどいた長い髪を風になびかせ
夏雲が縺れあう丘の空の下
夢を{ルビ歪=ひず}ませて
立ち尽くしていただけ

「君」がきっと街からここまでさがしに来てくれる ....
予約していたのは
ありふれた ごくごく簡素なホテル
チェックインし 渡された鍵は1547号
けれど15階の何処にも
47号室は見当たらず

フロントにとって返して尋ねると
ああ 失礼しま ....
誰もいなくなったプラネタリウムの
暗いドームの下
まるで其処が聖堂ででもあるかのように
ひざまづいて祈る影がある

何を何故祈るのか
誰にも知られることなく
ひとりきり目を閉じて
長い ....
夏を告げる鐘が鳴ると
少年たちの中で 天国が走り出す
光源のない白い光に満ちた中を
球や三角錐や立方体の闇が
行進する

思考線をよぎる空中魚族

(この椅子に坐るといつも
 感応しようとしすぎてneuroticになるんだ)

その視軸 ....
埃っぽい風が立つ
ざわめきの中浮かんでは消えるように
表情たちが行き交う
楽しげでも悲しげでも
逃れがたい虚ろに巣喰われたまま
とめどなく流れつづける
呼び声や歌声が
ざわめきに尾を引い ....
眠りの中心にたたずむ
黒いしずかな球
その球を無垢な白い身体で抱きしめて
いつまでも眠っているのは誰だろう
六月の
曖昧な空の下
白くたたずむ部屋
横たわる私の身体から
刻一刻と
鼓動がこぼれ落ちる

けだるい指で
クロニクルのページを繰る
季節は私には
いつも晩くやってくる

忘却 ....
把みきれない現実に
心が過剰で収拾がつけられない
はみ出してゆく言葉たちが
僕を取り囲む時空に傷をつけてゆく
瞳はいつも怯えたように見開かれてしまう
何故対峙してしまうのだろう
何故融合で ....
そのはじまりからすでに
鋭く亡びに縁取られているのが夏で
青空と陽射しがどれほどあかるくても
そのあかるささえ不穏なのが夏で

蝉が鳴き騒いでも
祭の喧噪が渦巻いても
濃密な静寂が深々と ....
窓辺を漂っていたスウィートピーたちは
薄れて消えてしまったよ
白いのもピンクのも薄紫のも
いつか行こうなんて云っていた
銀の門のある空中果樹園も
いつのまにかどこへやら消え失せてしまったよ
 ....
僕らは 一列に並んで
少しずつ 進んでゆく
かぎりなく長く思える柱廊を
誰も 一言も発さないまま

僕らは 白い衣を着て
白い布で覆われた銀の皿を両手に捧げ
少しずつ 進んでゆく

 ....
たとえば 言葉で

たとえば 眼差しや微笑みで

きみとわたしが 交わしあうのは 波紋

それはあたかも 夢のように
けれど夢よりも息づくたしかさで

波紋は交わされる

たとえ ....
あたしの中で
水が{ルビ捩=よじ}れる
還るべき水脈を何処かに探してのことなのか
それとも単に気まぐれなのかはわからないが
あたしの中で
時折ふいに
水が捩れる
たとえばそれは
安易な ....
自分で自分をさらって
とうとうこんな処まで来てしまった

白い光に
朽ちてしまった街
建物も通りも 空までも色を失くして
そして 誰もいない
ただ乾いた星雲がいくつか
なかぞらで回って ....
いつまでもそうやって
ガラスの風船で遊んでおいで
僕はもう青い月を抱いて
眠ってしまうから
夜がやってきて空気の色が
こわくなってきてもずっとそこでそうやって
遊んでおいで

箱庭のよ ....
私の意識の
極北に立つひとがいる

彼はいつも黒い服を纏い
時にその服を髪を風にたなびかせ
時に無風のなかに
その立ち姿の輪郭をくっきりと映し出し

時に彼は流れる水のような
ゆらめ ....
緑の並木道
とおり過ぎてゆく人たちと日々たち
僕は空中歩行

さりげなく浮かぶ雲
消えては生まれてゆく
自由みたいに

風の声に沿って歩いてゆくと
いつかまたあの丘へ
そして遠くか ....

錯乱
咲き乱れ
    風に舞う舞う
    花吹雪
狂おしく舞え
狂おしく散れ
    桜
    錯乱
    咲き乱れ
        闇まで染めよ
        夜 ....
私という虚ろよ

未完成という名の陶酔を

響くように生み出しつづける

青白い坩堝と化すがいい
黒い夕暮れ
かたちのない傷から
夢のように沁みてくるものがあり
壊れがちな覚醒

鋭角的な儀式の
あるいは 金属的なサーカスのさなかに
暗く降ってくるのは
誰の声なのか

蜥蜴の閃 ....
病んだ春がせまい庭の片隅で
青ざめて弱々しい翅ばたきの音をさせている
だから
溜息しか出ては来ない

通りの向こうの古びた窓には
どこか見憶えのある白い顔
うすら笑っているような
うす ....
塔野夏子(459)
タイトル カテゴリ Point 日付
九月の黙示自由詩17*05/9/13 14:14
午前を飼う自由詩26*05/9/3 13:31
晩 餐自由詩7*05/8/27 13:38
サーカス自由詩11*05/8/17 21:44
夏の天辺[group]自由詩12*05/8/9 22:56
午 睡[group]自由詩18*05/8/5 23:32
かなしい夏[group]自由詩20*05/7/31 13:07
夕涼み[group]自由詩8*05/7/23 13:43
丘の空[group]自由詩8*05/7/17 13:14
隠れ処ホテル自由詩4*05/7/11 21:41
沈黙の星座自由詩6*05/7/7 21:34
条件反射[group]自由詩9*05/6/29 22:36
misanthropy自由詩8*05/6/29 22:35
自由詩8*05/6/21 18:21
眠りの核自由詩14*05/6/11 13:36
午後の舟自由詩12*05/6/7 18:27
scratches自由詩8*05/5/31 21:49
夏について[group]自由詩26*05/5/23 21:58
灰の月[group]自由詩11*05/5/17 17:50
行 列自由詩6*05/5/15 21:21
波紋を交わす自由詩5*05/5/11 21:40
水が捩れる自由詩5*05/5/5 12:44
人さらい自由詩1*05/4/29 12:55
ガラスの風船自由詩4*05/4/25 22:31
極北に立つひと自由詩7*05/4/17 13:17
空中歩行自由詩5*05/4/13 22:25
桜・錯乱[group]自由詩4*05/4/5 23:32
錬銀術自由詩3*05/4/1 22:47
黒い夕暮れ自由詩3*05/3/31 22:23
病んだ春[group]自由詩4*05/3/27 12:31

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