第6回 短歌祭 のちょこっと感想
ふるる

現代詩フォーラム創作系スレッド「○現代詩フォーラム短歌部○」の「第6回 短歌祭」は参加が31作品と、盛況でしたね。
色々読ませて頂いて、すごく面白かったです。
せっかくなので、短歌祭に参加された方のそれぞれの作品の中で好きだなーと思った一首について、ちょこっとずつ感想を書かせて頂きました。
(縦書きの作品は横書きになってしまいました。すみません。どうしても嫌でしたら、ご一報下さい。)

●こもんさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=150586

「もう二度と第一話には戻れないこの日この場所だからキスして」

きゅーっとなります。二度と戻れないという言葉と、場所というのが。あの時には戻れないってよく言いますが、
場所にだって同じ時間の場所には戻れないですものね。思い出には場所もすごく関わってくるのに。
キスしても、時間は止まらないし、記憶も薄れていくけど、でも、というせつない感じがいいです。


●たにがわRさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=150888

「君宛に「た、た、た、た、た、た、た、たましいを僕に下さい」とメールを送る」

リセットボタン・・・もよかったですが、なんかこの、駆け込み寺的な感じが面白いし、こんなメールもらった
君の顔はどんなかなぁとか、そういうメールが通じる関係なんだろなぁとか、微笑ましいなぁとか、想像が膨らみます。


●比呂さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=150902

「春嵐はバックミラーで  「「さようなら
 一 二
 三 四
トップギアーで」

今回のテーマが「新しい」で。スタートの勢い、振り向かない、明るい感じがいいです。
出発って「新しい」んだなーと新たに思いました。


●木屋 亞万さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151054

「人生のリセットボタンがあったって押した誰もが覚えてなくて」

こちらは何か考えさせられました。失敗して、でもまたやり直そう、という時や、落ち込んでいたけどふとしたことで
立ち直った時に、人生のリセットボタンをぽちっと押しているんじゃないかなーと。まあ気持ちをリセットとも言いますが。
人生って割とやり直しがきいてるのに、覚えてないだけかも。


●DJ.香織Blendaさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151094

「日曜日 夕方4時に 豆柴に さようならを言う 私の習慣」

NHKでやってる「しばわんこ和のこころ」かなと思ったのですが、違うかな。日曜日の夕方4時って意味深というか
意味があるようなないような日時。豆柴にさようならを言うのが習慣てなんでだろう。すごく何気ない一首ながらも
謎が謎を呼びます。


●山原蝶子さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151192

あう。いらっしゃらない・・・。

●ナカタさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151214

「舞い落ちる桜の花の一枚が階段下りてまたさようなら」

ナカタさんは、桜で統一されていますねー、春らしくてよいですね。落ちる、下りて、さようなら、と落ちていく花びらにも色んな落ちかたがあるなあと。段々と擬人化されていっているような、落ちていく一枚に愛を注いでいるような表現がいいなと思いました。「階段下りてまたさようなら」ってかわいい感じだし。


●三枝フウさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151232

「ずっとずっと解からない気がして着地、ジャンプのハードル走続く」

二首目も好きだったですが、疑問や悩みや人の心のこととか、解からないことって後から後からわいて来て、解かったと思ったらまた次、みたいな感じがよく出てるなと思いました。「ずっとずっと」も走っている感じがあっていいなーと。


●ルナクさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151319

「好きだった人から届いた「祝・メール」リセット・キーで震える小指」

ルナクさんの短歌はいつも優しさ、ピュアというものを感じます。
何でしょう、この穢れた俗世間に1人くらいはいて欲しい人がここにいた!みたいな。
優しい、少年ぽい、というのは一歩間違えばかっこつけマンなのに、そうならずに踏みとどまれるのは・・・
細部に目が行き届いていると感じるからかな。普通、震える小指の面倒まで見ないもの。


●PULL.さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151326

「公園の外はきっと雨だから水たまりの影を着て待っていた。」

一連の作品で、なにか、物語になっているんでしょうね。「魄」って初めて知りました。
「水たまりの影」を「着て」って不思議だなあと。でも何か分かる・・・イメージが浮かぶ・・・
はっきりとはしないけど、不幸な子どもという感じ。PULL.さんは詩などもダークながらもさらりとした感じを受けますが、こちらでもそうでした。


●しろいろさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151343

「肺を病んで息もできずにキスしたね)(たましいなんて、ひとつでよかった」

括弧がかたっぽだけというので、真ん中で寄り添ってる感があります。上手いです。サナトリウムラブと勝手に思いましたが、たましいがなんで別々なんだろうと思う時が、恋愛絶頂期にはありますね。


●みたらしひかるさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151362

「何もかも捨てようとして学校に春を残してさよならを言う」

「学校に春を残して」っていいですね。捨てようとしていた何もかもは多分捨てずに、「春を残して」去ってゆく。
うーん大人だ。「青春」の春だけ残して、青は自分の中に取っといてるのかなあとか、思いました。


●高島津諦さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151395

「ショッキングピンクのコートでナニゴトか挑戦をしたつもりになってる」

高島津諦さんの歌はどれも「あるある!」と思ったのでした。一見当たり前のことを書いているようですが、当たり前
のことをわざわざ書くことの難しさよ。常に立ち止まってじーっと見ていないと書けません。
「ショッキングピンクのコート」は十分チャレンジャーだと思いますが、まだ足りないのかな。


●望月 ゆきさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151401

「くちづけで透明なピリオドを打つ始まらないままの第一話」

望月ゆきさんは詩でも、透明感や清涼感がありますね。「透明なピリオド」って何て素敵なのでしょうか。
疲れた心がきれいな水で洗われるようでございます。
ぽこっぽこっと泡が見えるような、言葉で「空いた場所」を作るのがすごく上手な方だなあと思います。


●渡邉建志さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151405

「さようなら枯れた花壇と枯れた井戸枯れた屋根裏枯れた人影」

こういうたたみ掛ける感じって大好きです。さびしい廃村という感じです。
渡邉建志さんのこの他の歌も、不思議なのがありますね。見えるはずのないものを見ている。
怖くもあり、そういう視点を教えてくれる、今までなかったものを表してくれる力があります。


●簑田伶子さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151409

「「リコーダーを縦笛とよぶ日常は、果実のように傷んでいくね」」

「リコーダーを縦笛とよぶ日常」ってどんなっ!?と思いました。私の日常では「リコーダー」か「笛」とよんでいますので、
「縦笛」っていついかなる時に誰が言うんだろう・・・そしてそんな「日常」
しかもその日常は「果実のように傷んでいく」らしく、しかもそれを誰かが言っているらしく、いついかなる時に誰が
言うんだろう・・・・謎、謎多き歌です。アングラ劇のワンシーンのようです。


●風渚 凛さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151447

「東京へ 雨に沈んだ港から警笛、きみのため息に似て」

表題のラスト・フェリーが素敵な響き。ひと夏の思い出という感じです。ため息に似ているほどだから、遠くかすかな
警笛なんでしょうね。距離とか、静かさとか、別れの色々を感じます。


●伊那 果さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151526

「さようなら 吐息の窓に書いた文字 消えるころにはすべてが終わる」

伊那 果さんのこの他の歌も「どこでもかまわない」「何もかもリセットされる」「溶けてしまおう」など、どうなってもいいの
的な言葉が多く、けど、どうもならなくて苦しい恋の歌だなあと。うーん苦しいし苦い・・・。


●柊羽さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151531

「さくらさく通学路から第一話歩みはじめていたはずですが」

はずですが、そうじゃなかった・・・・というのを卒業アルバムの時点で分かったのだとしたら、むなしいような、
まだこれからだ!なような。でも、最後の歌は「四月の手帳白紙まぶしく」ですから、またここから始まりですね。
中学生かなあと思ったのですが、若々しい感じがよいでした。


●月見里司さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151534

「水たまり段々大きくなる水たまり段々大きくなる水たまり」

こういうの好きです。雨が降っている情景、その時間の流れをこんな風に言えるんだなと思いました。
「水たまり」という音って、何かしーんとするような感じがしますし、それを3回も言えるっていいなとも。
雨じゃなくて涙なのかもしれないし。どうしようもなく大きくなっていく悲しみ、ともとれますね。


●拓哉人形さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151565

「もう二度と鳴らぬ着信メロディを聴かされながら歩く新宿」

音楽って、すごく記憶を掘り起こしてくれますね。でも聴きたくないのもあって、でも聴かされちゃうんだ・・・。
「聴かされながら」というのが、無理やり感があって上手いですね。着メロ設定する時は気をつけよう。


●ピッピ(雑学に強い)さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151572

「ひとたましい、ふたたましいとぼろぼろの風船爆弾たゆたっていた」

有無を言わせぬ感じがあります。「たましい」のお題で「ひとたましい、ふたたましい」と
書けるのはピッピさんだけじゃないでしょうか。しかも風船爆弾て調べて初めて知りましたが、材料和紙とコンニャク糊て。
ジェット気流に乗っけてって。かつてないラインから戦争の虚しさ、悲しさが伝わる歌です。


●じゅりさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151581

「さようなら
じゅひにかみつくこおおかみ
きばがぬけなくて
きをだきしめた」

絵本的な雰囲気の作品たちでした。「きばがぬけなくて きをだきしめた」ってなんてかわいいんでしょう。
ひらがなばかりって甘い感じになりがちですが、それぞれの歌に孤独感があって、味戸ケイコさんの絵のようです。


●小林容子さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151599

「あの晴れた日の出来事が第一話なら明日の朝は何話目かしら」

「今日の朝は何話目かしら」じゃなくて「明日の朝」というのがいいなと思いました。明日の朝、エピソードと
して語られるような何かがあるのかな。しかも何話目かわからないくらい話が続いている(多分)わけで、例えば
金婚式の前の日の奥さんのつぶやきだったとしたら、歴史を感じるし、「あの晴れた日の出来事」って何かなあとか、
「かしら」ってかわいいなと。


●比呂さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151601

「手術台の上で鋏待つ静寂
 リセットされる
  二人称過去」

比呂さん再び。手術台と言えばミシンと傘が出会ってシュール。と思ってしまいますが、こちらは
泉鏡花の「外科室」を思い出しました。手術台は意外に愛の場所かも・・・。


●metalさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151627

「頭からライオンの背に着地する鼓動の歌に掻き消されぬよう」

「頭からライオンの背に着地」ってすごすぎ。やばいもう意味分かんないでも凄みを感じるのギリギリライン。
metalさんは詩でも、私にとっては天国とか天使っぽい、この世ならざるイメージがついて回るのですが、
天使だったらうまく着地できそうです。「都会のビルの良い人だらけ」とかも、
言葉選びも言い回しも独特としか言いようがないです。羨ましい。。。


●本木はじめさん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151679

「笛の音に導かれるまま森へゆくあなたのゆびとくちを探しに」

「あなたのゆびとくち」って色気がある文字ですね。「記憶喪失の薔薇」も素敵なんですが、本木さんはすごくリリカル
(詩的なお洒落な叙情というか)を滲ませるのが上手な方。ダイレクトではないんですよね、そこがまたなんとも。
あと、文字の視覚的効果をよく分かっているし、バランスもいいなと思います。丁寧に作っていらっしゃると感じます。


●ξさん(←何故かお名前が・・・文字化け?)
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151689

「さようなら、古い絵本、読んだから。九十九まで数えて良いよ。」

言い切りってかっこいいですね。
九十九まで数えた後には、残酷なことが古い絵本に待っていそうな気がしてしまうのは、何故なんでしょう・・・。
他の歌も、ハードボイルドな感じがします。


●石畑由紀子さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151756

「干上がった水たまりは遺跡に似て踏みつけられず進めぬ真昼」

石畑さんは詩人の目やテクニックをさっと揃えることができる方だと思います。他の歌も三十一文字で一行なのに、
それぞれ行間がありますね。常に余裕があるというか、余地を残しておいてくれているというか。
「干上がった水たまり」が「遺跡に似て」・・・すごいなと思います。しかもそれを踏みつけられないんだから、
痛ましいほど繊細な、また弱った心というものを感じさせる真昼です。


●西夏さん
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151507

「影薄き
姉さまに聞く
第一話
最初で最期の
恋物語り」

西夏さんは「参加させて欲しいような」なので、感想書いてよろしかったでしょうか。
「影薄き 姉さま」ってだけでがぁーんときました。しかも「最後」じゃなくて「最期」って・・・・
姉さまー!



以上です。
最近詩も短歌も全然書く必要を感じなくて、書いてなくて、詩人の評伝や詩論が面白いので、読むだけ。
でもやっぱり書いたり読んだりするとわくわくっとしますね。
短歌部さん、機会をありがとうございました。
(チェックしましたが、リンク間違えや誤字脱字ございましたら即刻訂正いたします。)



散文(批評随筆小説等) 第6回 短歌祭 のちょこっと感想 Copyright ふるる 2008-03-26 11:23:26
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