人は死にます
みんな死にます
老いたり病んだり疲れたりして
どこかへ
行ってしまいます
君だって
僕だって
あそこに居る人だって
テレビの中に居る人だって
穴の ....
全部嘘でしたって言おうよ
本音なんてない
ただ
この建前だけが
本当でした
きみはぼくを情熱家だと言う
それで多くのものを得たとも
多くのものの襟を正したとも

でもだ
これだけは覚えておいて欲しい
英語でいう“passion”には
受難という意味があることを
 ....
うすずみ色の
やわらかな蓋を
かぶせられた街で
こまやかな水に
しっとりと懐かれて
わたしの内側は
ほんのり熱を帯びる

うすずみ色の
やわらかな蓋の裏に
みっしり結露した水玉 ....
  蜘蛛の足が
  多すぎるからと言って
  面白半分に引きちぎる子供

  休みの日が
  長すぎるからと言って
  魚を釣り上げたあと
  血まみれの口から
  針を引き抜く釣り人 ....
水の匂いのする
あなたの
指先の和音で
おどりだす
初夏の背表紙は
水溶性の文字たちの
ぽつぽつと吐き出す気泡で綴じられてゆく


垂直に
落ちてくる六月の
浸透してゆく
素直 ....
桃の実をすぐるため
はしごに登って高い枝に手をのばす
少し時期が遅くなったので
実はピンポンボールのようにまで
大きくなって 枝一杯になっている

このままでは多すぎるので
適当な間隔を ....
「あいつどこ行ったんだろ」
「ずっとオニやってたもんな」
「怒って帰っちゃったんじゃないの」
「あいつヘンジンだからな」
「もうそろそろ帰ろうか」
「帰ろ」「帰ろ」
「それじゃ」「また ....
夜中、雨音で目が覚める
キッチンテーブルで煙草を一本吸う
暗闇にたちのぼる煙に
一匹の黒い魚が遡ていく
勇ましいその魚影は
たぶんマラッカ海峡で
海賊たちと渡り合い
インド洋に出て行くの ....
先生が、いい子いい子言って
わたしのあたまをなでる。
土のにおいのする、ざらついた手のひらが
高いところから降りてきて
ちから強く、あたまをなでる。

いい子いい子、土人形よろしく捏ねられ ....
閉じられた瞼は
眼球にやさしくかけられたさらし布
或いは
フリンジのついた遮光性の高い暗幕

時折
なにかに呼応して
波打つように
揺れる

ベビーカーのハンドルに止まったちょうち ....
ただぼんやり笑って生きています
心から笑うことのないまま
ねこ、かぶって生きています

本音も言わない日々は少し息苦しい

言いたいこと言わないのが
大人だよって
我慢するのが ....
お父さんの部屋は半分おなんどで
机の横にさびたバス停がありました
お父さんが3年前
会社の近くのがらくた市で買って来ました

私と妹は大喜びしました
お母さんは
「何考えてるのよ、こんな ....
あなたのスカートの砂浜で
ずいぶんとうたた寝をしていたみたい
つまさきがもう貝殻のかたち

水平線の両端がせりあがり
網になって太陽をとらえる
その瞬間を見ていたかったの

サンドウィ ....
赤ちゃんだった頃
家でぐずり出したぼくは
ベランダに出すと
外の風に当てると
不思議と必ず
機嫌を直したらしい

出かけよう
洗い流しに行こう
いろいろなことは
頭から投げ出して
 ....
フカフカ暖かい道草
水の流れる音
フカブカ深呼吸をすれば
私は広がる大きくなる
プカプカ浮いて
丸い天体のような感覚
ブカブカの長靴を履いたような

スポスポ抜ける音
シュポシュポ弾 ....
  かなしみに塩をふる
  ほんのひとつまみ



  朝の光を浴びるとき
  雨に濡れたいくつもの言葉が
  「うれしい」という言葉に変わる
  あなたのえくぼが深くなるとき ....
触れられる範囲でしか

触れていなくて

表せられる範囲でしか

表せていない私が

ここに居る
笑いたくなるかなしい郷愁を
色にして音にして匂いにして
どうにか形にしたいのだ

過去はもう起こせないよ
君はもうここにいないよ
時間を飛び越えてみせなよ

ほら

笑いたくな ....
バイだって構わないさ

僕はその人間に興味があるんだもの

道徳律を弄んでいるうちには

真実はどこかへ消し飛んでしまうかもしれないんだ


僕は僕でありその根拠は

唯一無二の ....
先生、教えて。
僕等、拒む棘を舐め合ってる。

先生、教えて。
幼さ故に、ナイフを抜き差してる。

先生、教えて。
美しい、夜と夕方の境界を。

先生、教えて。
深い夜の色の邪さを ....
掛け違えたボタンのまま一日過ごすことにする こんな風に今日も終わってゆくのかな
君はつぶやくけど

平和ってこんな日のことじゃないのかな
私は心でおもった

さくらがちって
思い出みたいに
からだにしがみついてきた
ふりはらわ ....
もう冬休みに入り部活へ行く以外は毎日家にいる。
こうして彼女とふたりで休日を過ごすのは夏休みや冬休みの
彼女が休みの平日しかない。
          
「ねぇ、いい加減起きた ....
くるくると
まわって
まわった先
自転車のタイヤで
水たまりを割りながら
色がまだ
光だったころのことを
考える
人の形をしたものたちが
雑談をしながら
歩いてきて
過ぎる
眼 ....
その病室の番号と

あのひとは同い年になった

その病室で

あのひとは息子を失った

見舞いにゆくたび

あのひとが見たであろうその数字


過去になにを見つめ

それが今、未来、どんな意味を持つの ....
玄米の歯ごたえが かすかな非凡を生む
それでも昼寝をし 覚えていない夢に脳の神経を疑う

春の特番を拾えるものだけ 目を通す
心の表皮だけを滑り 忘れる内容
それでも明かりを灯すテレビ 凡の ....
どうしても死ぬと言うなら良いけれど 貸してたCD返しに来てよ 悲しいことは
悲しいままに
悲しんでいい

つらいことは
つらつら思い
つらぬき返す

知らないことを
知らぬふりして
知らしめられる

暗い夜の中で
クラクラ迷い
 ....
つむじから頭を覆うように
根がびっしりと生えている
後悔を繰り返す夢を見ては
少しずつ大きくなっていくので首すじが痛い

いっそのことごっそり
引っこ抜いてしまいたい衝動に駆られるのだけれ ....
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