やっぱりシーラカンスは
水の中でじっとしている
静かな静かな海の底
エンジンが故障しているからだ
わたくシの計算したところによりまスと
マグロの三十倍ぐらいのガソリンを
こやつは ....
レンアイの卵
広陵な田園に聳える高枝に レンアイの卵は産み落とされる
おさない心ほど 枝の先にあるものを見つけてしまう
大人たちは 森が隠しているレンアイの卵のことを知ろうともしない
....
垂乳根の母がそうしてこわれたら
貌あおみどりにこわばって
幽鬼のように見えましょう
蛍光管は外しましょ
こわれた母には濃い{ルビ布=きれ}でなく
産着の色を着せたげます
さきの事実は疾 ....
<十四歳>
十四歳の時の情緒によって
十四歳の時の衝動に任せて
十四歳の時に泣きわめくことが
十四歳の時にはできなくて。
<経験>
もっといろんな男の人と抱き合えば ....
オランダの
アンネフランクの隠れ家に行った
そこは8人が2年間暮らすには狭く
人との距離は驚くほどに近い
そこでアンネは昔
8人に対する
本音の日記を記す
その距離は驚くほど近いから
....
雨音のしない日々を
しのぐためにも
うたわず
おどらず
足は干されて
手はくずれて
喉はかさかさ、うちわばなしに
こすれて
こぼれる
いいつたえのとおりのひとがたの
おまも ....
日曜の昼間はぜいたくな席のようだ
時間はゆっくりで
間違った字をかいてもあせらなくていい
とがった消しゴムで無理に
消さなくていい
みんなだらりとしていてもいい
雲がふわりとあ ....
社員だけど 内職を頼まれるというのは前にもあった
普段は自宅にいて内職の方がする仕事が納期に間に合わず
日中の仕事を終えてから 仕事を家に持って帰り
家事をすませてから 内職をする しかし 内職 ....
結婚式に行きました
花嫁さんが幸せそうで
花婿さんも幸せそうで
結婚式の雰囲気が
ふたりの雰囲気にぴったりで
こういうのっていいなあって
すっごく 思いました
二 ....
ここに居た
そこに居た
あちらこちらに
居た
ことを記す
愛を叫ぶ雨蛙を乗せた丸い大きな葉も
その傍らに転がっていた水晶のような玉も
美しい色を持つ手が
幾重にも重なったよ ....
削いでほしいとおもう
まとわりつくものはいつもきれいな花びら
ではなく 鱗のような厄介なものだ
きらきらとしていても からだから離れればいいのにとおもう
あのまま 埠頭へとびこめば
綺麗 ....
私の指先から金貨がこぼれ
あなたの乾いた唇を潤せたら
頑健な牡牛が黒いつむじ風となり
私の魂を運んでくれたら
世界は午睡のまどろみの狭間、神秘の唾液を垂らす
こめかみを濡らすその体温にあやさ ....
家の前の道路を右にずんずん進んでゆくと
やがて海に辿り着く
幼い僕にとって海は未知の世界の
不安や驚異の象徴
大きな不思議な地球の水たまりだった
僕の中学の夏休みは海の生活だった
....
左ポケットで飼っていた
”しあわせの青い鳥”
君がいれば僕はしあわせ
ねぇ本当なのかい?
あくる日僕はおもむろに
ポッケに手を突っ込んで
手を空に向けて開いてみた
小さな青い ....
足の下の土の地面は
昔とちがって歩きやすい。
水はけもよくてジョギングに適した土が
使われているそうだ。
それでも 私の足は覚えている。
ジャリジャリの小石の入ったデコボコ道
塗れて指 ....
1.
きみはTシャツを着ている
Tシャツの下に素肌がある
素肌の下に血管と神経とリンパがある
きみはTシャツが似合う
きみのTシャツに顔をうずめる
今日いちにちの日差しの匂いがする
....
街を歩くと背中ばかりだという
マッチ売りの少女が死んでいる通りを過ぎ
崩壊したまま放置された幸福の王子の像の前で待ち合わせしてる
みにくいアヒルの子のように{ルビ悄気=しょげ}てるお前が{ルビ愛 ....
しびれるように今日は
明日を失い
昨日を失い
昼夜を失った
羊の目をもつ鳥が落ち
布を裂く音が縦に響き
誰かは誰かを失った
ぎりぎりの分別に
長くのばした爪を引っ掛けて
....
開き箪笥の蝶番がこわれたの
そう言えば10年前にもこわれたな
今度は違う蝶番
貧しかった頃に買った
安価な開き箪笥の蝶番は
僕たち家族の生活を
ささやかながら支えて ....
沼のほとりにあなたは立って
覗き込む
濁る水底
揺らぐ藻の影
素早くよぎる魚の気配に
煌めく泡が
まっすぐに
昇ってくるのを待ちながら
言葉の淵にあなたは立って
覗き込む
尾び ....
かあさんのしんぞうはけいたいでんわだ
いつでもどこでも
だいじにもっていて
いつでもどこでも
ひらいてみてる
かあさんのものは
たいていさわらせてもらえるけれど
けいたいでんわだ ....
いわないけど、ないしょだけど
けさ、前髪切って
おさなくなったの、わたし
せかいの見通しよくなり
切り揃えたまっすぐな視覚
ぴかぴかの鉄砲水がさらってく。
きみとあえるうれしさが
心 ....
確かなことに偽りはない
浅はかな人が
なんとなく決め付けた
たった一秒足らずの疑問符で
隙間風が吹く確固なんてたかが知れているのさ
問われることを怯む正しさなんて
砂漠に建つ砂 ....
夕ごはんの買い物帰りにママンが仔猫を拾ってきた
パッパは余計なもの拾ってくるなよと言った
ぼくはびっくりして、触ったりした
今日から兄弟だよって
ママンが言った
少し震えながら
鳴 ....
海で眠っていれば
起こされるんだよ
水平線が
空にあるのは
海が
銀河に流れていくから
船の上で
そう思ったとき
ぼくは
信号機の音を
聞いた
片方の手を取って
九十歳のきくさんと
介護の青年は
デイサービスの廊下を
ゆっくり、歩く。
きくさんは、皺の寄った右の拳で
くしゃくしゃなちり紙を
握り締めている。
「それ ....
戦争って何だ?
戦争でなぜ人は死ぬ?
いや違う
戦争で人は死ぬのではなく
人が人を殺すのだ
戦争って何だ?
戦争で勝った方が正しいのか?
たくさん人を殺した方が正しいのか?
戦 ....
ストッキングを穿いたブタが
元町通1丁目のシャネルの前で
レトロな街灯に凭れてスマホで遊んでいる
二本しかない指で器用に画面を擦る
時折落ちてくる紫色のエクステを
けだるげな雰囲気を演出しな ....
歩いては
遠くには行けない
この足だけで歩いては
毎日 移動している道の
およそ 半分までしか行けない
けれど
とけた雪を踏み崩しながら
足だけを動かし
....
いつか
虹がでてるから空見て!
って
メールでおしえてくれたね
わたし
ありがとうって伝えなかった気がする
いつも
はずかしいとか
てれくさいとか
そんなものに
負けてたん ....
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