春がいる
駐車場の奥の
ハイブリッド車伝いに
ブロック塀の上に飛び乗った時
チイ子はそう思った
春がいる
朝の見回りで
ナワバリ荒らしのクロに
やられた三角耳がまだ痛む ....
ぐうっと伸びる
四肢が
おのれにおのれの目覚めを知らせる
大あくびが
まずは昇ったばかりの太陽を食らって
牙が汚く光る
ゆっくり開いた目
の血走り
冬の間中 ....
タトゥーに誤字
今でも夢に見る
北斜面の崖
なだらかな傾きの崖
崖の上のお屋敷の、
裏手の急斜面から
空に舞い上がる自分を
空は樹木に隠れて半分
空は現実に隠され半分
半分の空に半分の自由 ....
梯子から落ちてしまった者は
はんぶん月にかくされて
二度と来ぬものを待っている
無音の庭園の真ん中で
梯子がひとつ燃えている
火の粉はどこへ向かうだろう
やがてまぶしい天の真上から ....
雨の音のように
互いに育たず、打ち消し合う
そういうものをこそ
愛と呼びたい
そらの色に
本当の名前などないように
分からないものをこそ
信じていたい
そ ....
ひび割れた指先から
冬の滴がしたたり落ちて
大地に染みこんでいくとき
温い風に梢を揺すられ
慌てたまんさくは
葉芽を出すことも忘れて
よじれた花を開いてしまった
北の風に身をよじ ....
ドラゴンのくせに
ドラゴンのくせに
空も飛べないなんて
十年前に言われた台詞が
時々浮かんでは沈んでいく
ドラゴンのくせに
火も吹けないなんて
今更思い出したとこ ....
カレーを作ったが旨くない
入れるものは入れている
ジャガイモ
人参
玉ねぎ
にんにく
鶏のもも肉
そして
いつものインスタントのルー
毎度のことなのでいいかと思ったが
ち ....
最後に会えたのは
もう3週間も前
電話もメールも
全然してくれないから
あたしはこの日を
指おり数えて待ってったっていうのに
あなたはなんだか
へっちゃらな顔
することがお ....
母親がきらいです
大きな声でいってはいけないと
おもうから文字にしています
かくれて
あの日それを母にみつかった
母のさめた目が忘れられません
母親が
母親であるからきらいだと
....
そろそろ携帯ぐらい出さないと
異次元感がK点を遥かに越えているぞ
(かさいノリすけ 談)
それはともかく
息子も娘も孫さえも
ブリキの太鼓状態なのに
てめえだけその歳で
声変わり ....
舗装された道のうえでぼんやりと月を見あげた瞬間、
すべてが間違いのようになってしまった気がした
ムリに泣こうとしても何もでてこなかった
きっとひどい顔をしていた
夜なんだから照らさないでくれれ ....
猿山で
猿がせんずりをしている
誰に教わったのか…
死ぬまでするであろう
隣のお山では
詩人のおばさんが
七転八倒して詩をひり出している
死ぬまでするであろう
おじさんの詩人は ....
溶けたカラメルが
ゆっくりと べったりと
頬に 絡みつく
気持ち悪いから
手を払いたいのだけれど
腹が痛いと 繰り返すので
邪険にも 出来ない
ジャンケンで決めよう ....
自分に催眠術をかけようとして
5円玉に糸を通してぶら下げて
目の前で振り子運動をさせて見ていたら
気がついた
振り子の重りがどんなに軽くても重くても
振り子運動の往復時間は同じ
....
早瀬のそばの竹やぶに
住んでおりましたので
笹舟を流しては遊んだものです
手を離すと同時に
それは勢いよく
旅立っていきました
赤い橋をくぐるまでは
なんとか目で追うことができましたが
....
初めての学芸会は
サルカニ合戦の
蟹の役だった
いとこのよっちゃんは
猿だった
元の話は
硬い青柿をなげつけられて
つぶれた蟹の卵から
子蟹が出てきて
助太刀を得てみごとに
親 ....
眠りながら彼は
どんどん広がって行く
何処までも広がって行く
つま先や肘の先に物語を
感じながら
彼の夢はみんなの夢
愛するモノたちの夢
石 オクターヴ 水
酸素 退廃 ....
うまくできないことがある
話がわからないことがある
それは要領が悪いということで
生きるには少し難しい
私と逆の人たちは
倍の量の作業をこなす
どうしたらそうできるか
教えてくれる人 ....
ハリボテのビルの中 傘差して歩く
彼女はどしゃ降り
上方へ向かって広がりをみせる天井
あらゆるものが彼女の頭頂部へ
その一点へと集約する
聞き覚えのある声が降ってくるのに
傘は 骨ばかりの ....
私は十三年間
薄暗い工場の中で
機械の一部になって働いてきました
小さな子どもを連れて離婚した
若くもない女には3Kの仕事しかなかった
子どもを保育園に預けて働いた
毎日々
ベルトコ ....
おはよう
今日も生きている私へ
重い身体を起こし
薬を飲んだら
また眠る私だけど
私もちゃんと
明日のために生きている
生まれる事のできなかった命や
存在するはずだった天才達
今はもう消えた遺跡に腰掛けていた
二千年前の妖精や
また、
人間には決して発見する事のできないもう一つ ....
木下くんちの子がよる、きゅうに中耳炎になって
頭の中で(虫耳炎)と思って
耳で虫が燃えて
耳で虫が燃えて
ダニみたいな虫がいっぱいいっぱい
耳で燃えてて
耳が熱くて熱くて
焼けてこ ....
鳥が羽ばたく空は
線が引かれたように
広がっている
誰かが死んだなんて
信じられない青さで
ゆるやかに広がっている
おまえの憤りを愛せよ
おまえの憤りを愛せよ
路地裏に放置された
何十年も前の三輪車みたいな
おまえの憤りを
観念的な錆には痒みを覚えるだろう
みんなそうして憎しみを忘れまい ....
父は今日
返事をしなかった
話しかけても
目だけはじっと
私をみていた
まゆみだよ
わかる?
といっても
黙っていた
聞こえる?
と聞くと
うなずいた
声は ....
あなたはいちども
わたしを愛さなかったけど
あの
朝とも夜ともつかない暗がりに
わたしともあなたともつかなくなったどろどろに
手を抜いたこともなかった
かわいそうに
いつまでも
....
洗濯物の模様になって
取り込まれたテントウムシ
手足を縮めて
ぼく死んでまーす
アジサイの葉に
赤と黒の水玉模様
手を触れれば地面に落ちて
ころころ転がり
ひっくり返ってぼく死 ....
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