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東京よりも冷たい 氷の陸地
夜もしんしんと深まって
冷え切った雪が
我慢出来ずに
{ルビ懐=ふところ}に落ちていきます
散らばった日本語が
冷たい雪で{ルビ埋=うず}もれます
私一人 ....
空いっぱいの夕やけを見たいとHが言う
寒くない?
うーん、だいじょうぶ。
今日はあったかいし絶好の夕やけ日和よ。
どこがいい?
うーん、
海がすぐちかくにあって、川の流 ....
いつものように仕事をしていた
アパートの郵便受けに貼られた
よくある 空室 の文字をなぜか
一瞬 そら室 と読んでしまうと
ドアの向こう せまい間取りの境界が
ぼんやりしてきて 真っ青な空 ....
十二月某日
この地はまだ吐いた息が白くならない
気温はこの時期にしては穏やかである
相反して 福岡の繁華街は喧噪としている
次から次へと
多系統の行き先を掲げた市バスが滑り込み
....
1
7歳の女子Y、何者かに命じられ
人形を手作りすること決意
綿、晒の布、針糸鋏
どこから手に入れたものか
胴体、手脚四本、それぞれの大きさに
チクチク縫った
ひっくり返して綿を ....
風
冷たく また暖かく
風は吹いてくる 駆けつける
通りの角の向こうから 木立の間から
病院の屋上で 夕暮れの空に黒い影を揺らす 洗濯物から
冬の風は 静寂を厭う
その身体をよ ....
失った
後悔を
追いかける
俺は無常
無くなった
腹減った
飯を食う
俺は無常
虫が湧く
無視をする
虫になる
俺は無常
情熱に
蓋をする
莫迦になる
俺は無 ....
Y一家北国に行く
鹿児島から、蒸気機関車にて
二晩寝て座席から転げ落ちた
到着、霜月、小雪
窓から永遠に降る雪を
あきず眺めた
二階まで積雪
道から雪の階段を下りて
やっと ....
月曜日
突き刺す気嵐の中
若い女が ビールを振る舞う
突き刺す気嵐の中
マネキンの片手に数羽の鳥が止まる
火曜日
隕石が飛び交う真夜中
若い女が アイスを振る舞う
隕石を避けて生き ....
感覚を駆って
熱と湿度が飛び交って
ふたつの身体を高めていく
星間飛行の鈍色の船体が
故郷の水を恋しがって
恒星の配列をなぞるように
五感が跳ねて
目を閉じているのに ....
落ち葉は舞い上がり
私の心を吹き抜けた
はらはらと
はらはらと・・・
舞っては落ちるその作業を
何度繰り返してきたのだろう?
木漏れ日が頬を射す
目を細めれば 見えるあの空
....
指関節をなんど曲げても
言葉がどこにあるか
わからない
人類の要素のひとつ わたくしも
紙とペンで書いた言葉を 今は ....
ラヴォアジエ定数 断頭台 瞬き実験
不可変数 左右均等 化学式
人体錬金術 完璧均整 彫像
教会建築 幾何学 純粋抽象
鐘楼群 昇降機 革命全書 水の泡
地底回廊 網 ....
目が覚めたらやっぱりおっちゃんやった おっちゃん
ひとりやったら泣いちゃう おっちゃん
そんなおっちゃん、やさしいしたってやー
なにかが 出てきそうだ
僕のおなかの あたりから
いつも 予感がある
それは身じろぐ 胎児にも似て
この意識の どこか内側の さらに内側にある
見えない子宮の中で もがきながら 訴えてい ....
若葉は青臭くていいと
老いた葉が
羨ましげに
鑑賞している
尖っていた葉は
あなたを守るため
傷つけるためじゃない
でも 遠ざけたのは
青くて頼りない葉だったから
そ ....
裸に海の膜を纏う
崖を繋ぐ羽毛の吊橋が足裏を優しくくすぐる
乾いて冷えきった太陽の光に背を押された
橋を辿った先に広がる光景は
眩しい新緑の髪がなびく草原だった
ああ
甘酸っぱい桃色の ....
彼は大ぐち開け森の燃える音を食べた
銀のスプーンで掬って葉が浸み込んだ
悲しみの調が喉で喜んでいるようだった
開放の叫びが聞こえてくる
私は鳥を好きな場所へ逃げるようにと自由を放った
....
球体 陶器 木偶 海底 列柱 イオアンネス
肋骨 列柱 古代の不思議 肺臓学
喉笛骨 空洞発声 老婆 時限式
四次元 箱家 ラピスラズリ 瞠目 手品
宮殿六角形 セミラ ....
Yの海馬の幾つかの
細胞に刻まれたひとこま
「また会おうね」と
Yが弟にかけた言葉
にっこり白い歯を見せた
会えたのか、呼ばれてみると
意識は無くて体中で息を求めていた
「〜彦ち ....
郷愁を誘うメロディーが
滅多につけないカーステレオから流れ出すと
僕の空は92年のあの時に戻るのです
僕が故郷と呼ぶ場所は産まれた土地のことではなく
自我が形作られた父の転勤先のことで
....
息を切らしながら山道を登っていくと
薄暗い脇道から片目のポインターが飛び出してきて
びっこの前脚で器用に跳ねた
どうしたらよいのだろう
何かの病で左目を失くしたのか眼窩は
底知れぬ闇 ....
光があるのだから
わたしは黒い影でいい
あなたを照らす
光はひとつ
遠くに感じる声
それでもあたたかい
遮るものは
わたしのいのち
ひとつだけ
頬を伝う、ああ
なつかしい
こんな ....
小さくなっていくこと
悲しいと思ったことはなくて
けれどいつか
君の小さな手で
拾ってもらえなくなるのだと思うと
それはとても悲しいことみたい
君はとても
ていねいな人で
きっちり ....
顎鬚をたくわえた男が
布を手に玉蜀黍を磨いている
小屋の外に置いた籐椅子に座り
一心不乱に
遥か上の方で青空が
ずっと前に動きを止めたことを
....
1)
庇には樋がなかった
コールタールの屋根をはげしく打って
雨は黒い路地に、まっすぐ流れおちた
ひくい窓を大きくあけて
わたしは雨の音を聴いたはずなのに
路地に敷きつめられたコー ....
ねじ巻きおもちゃは
関節を鳴らしながらやって来る。
遠い日の音の記憶は今も耳の残っているか?
子どもたちと笑い声は連鎖して
隣の君の声も聴けない
優しい人達の笑顔は今も変わらない ....
きみが覆いつくした 世紀は輝く
きみは高らかに筆を降ろし 画布から水面につたう
きみは光と水を 調合する
きみは招待で
振向くきみは侵食のようだ
きみは廃棄物マニフェスト ....
ひものついた雪が
首の下で揺れる
残されているのに
しばられて
くずれていく 雑な音声
ふらついて
たてついて
鳴るはず も
ない すずやか
な 声
書き溜めた理想が
燃やされて、
吹き飛んで、
わたしは扉も満足に閉められない
検体になる
眼球の
背びれ、胸びれ、尾ひれ、の連動がなす
鱗の反射にいち早く気づく若者よ
両肩が雪崩る ....
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