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終わりを告げる声は無く
始まりを告げる声も無い

泣くのは
人だけではないだろうに

それでも再び
巡りくると疑わず
銀色の穂波は
斜陽に映える芒の原
光と戯れ
丘の向こう側まで
続いている

風は止むことを知らない
運ばれる匂いは
ひとつの季節の終止符
あるいは序曲として
わたしに交わるけれど
 ....
すこし遠回りな帰り道
緩やかにカーブしたその先は
西の方へとまっすぐ伸び
私の歩みを止めるには
充分な光景でした
いま少しで
山際に架かろうとする陽の
最後まで惜しみなく射す光は
山茶 ....
黄金に色づいた銀杏の葉が

枯れて萎んだプラタナスの葉が

静かに落ちてゆく


それら微かな音にも
わたしの耳は鋭く応えるのに
あなたの声が届くことは無い

印したインクの滲み ....
その指先から
放たれた熱に
目眩して
浮遊する

私もまた
ひとつの
季節なのだと

いずれは
白く
凍ってしまう

冬枯れの木のように
十月の
夕刻にしては
あたたかい風が
秋の
冬の
装いを始めた草の
乾いた匂いを運んでくる

霞がかった空は
穏やかな表情で
まだ染まるには早い
青く連なる山々に添う

静か ....
 
今宵十五夜の月を
楽しみにしておりましたのに
朝から硝子窓を濡らす雨は
一向に止む気配を見せません

花器に
手折った数本の芒と一枝の萩を
無造作に入れ
恨めしげに外を眺めており ....
しんと静まる部屋の片隅
迷い込んだ虫の声
リリリと鳴くは鈴虫か

秋の気配が深まりつ
冷気が足先に絡まって
空を切る目に
眠気はちっとも訪れない

天上を柵に見立てて
ひつじを数え ....
ほうらご覧よ
あんなに見事な

ゆるりゆるりと
銀の鱗を光らせて
水面に映る魚のよう

ゆるりゆるりと
眺めていたら
水の底から
見上げてるのは
こちらのほう

銀の鱗の魚に ....
彼岸の頃になると
その場所は
真赤に燃えるようでありました

急な勾配の細い畦を上れば
今来た道を遠くまで
見渡すことのできる墓所
形を成さない朽ちた石版と
名も読めぬほど苔むした石碑 ....
曇った空の下では
海も鈍い色をしていた
打ち寄せる波の先だけは白く
足元に届けられて

よーく目を凝らして見てごらん
水平線が弧を描いている
停留しているタンカーが遥か沖のほうで
 ....
ねこになったきみとぼく

木漏れ日ゆれる

ねむの木の下で

二匹ころんと横になる



長い尻尾が自慢の

きみはしましまトラ猫で

大きな耳が自慢の

ぼくは三色三毛猫で

仲良く顔を並べて

昼 ....
はじまりは
突然ではなくて
地面に染み込んでいく
雨の速さに似ている

背後に潜む
稲妻と雷鳴の予感
と、その準備に追われる頃
夏の気配はすでに
私の踵を浮かせ始めていた

色濃 ....
黄昏が
哀しみの手をひいて
波打ち際へと運ぶ

きらきらと
波間に揺れるものを
幾度つかまえようと
泡と消えていくそれは
知るはずのない「永遠」

時計の針を止めても
季節は巡り ....
蝉時雨も止んだというのに
真昼の喧騒が
じりりと
耳に焼き付いたのを
両手で塞いだ

鳥の群れが西をめざし
灯火色した空に
消えていくのを
門口に焚いた火とともに
静かに見ている
 ....
まどろんだまま
深く吸った息で
体中に雨が透る

窓辺においた手紙が
濡れているのは雨のせい

滲んだ青いインクの
消えかけた名前を呼んで

雨の一粒一粒が
体の中で弾ける
ソ ....
買い手のつかぬまま
何年か空き地だったお隣に
店舗兼アパートが建った
店舗といっても
コインランドリーのせいか
雨の日以外は閑散としている
アパートもまだ空いたままで
梅雨明けのあとは
 ....
日没にはまだ少し早い
真昼の太陽で暖まった道は
この足どりを重たくする

ふうと
ため息に似て
諦めともつかない
息を吐きかけたとき
風が首のあたりを
掠めていく

この道の
 ....
青々と
広がる蓮葉には
明け方の雨の
ひとつぶ、ふたつぶ
みつぶ、よつぶが
それは見事な玉を作り
ころころと
風にゆれながら
まるで生まれたての
宝石のよう

真っすぐのびた
 ....
肌の全部が
湿った薄い膜で被われて
少しの息苦しさで
満ちている午後

畳の跡がついてしまうかしら
そう思いながらも
まるで猫の昼寝の如く
時折どこからか吹いてくる風で
意識を保って ....
それは
降りしきる雨の
隙間をぬって
遅れて届けられた
一通の手紙のように

 雨と雨が
 触れあう音に紛れて

 見慣れた景色の
 匂いの片隅

 未送信のまま
 閉じられ ....
ふたり来た道
ひとり戻る道
降り出した雨に
そこから一歩も
動けなくなる

泣かないと決めたから
唇噛んで
きみの姿を巻き戻し
雨のスクリーンに何度も映す

いくつもの
色の移 ....
静けさに
包まれて夜は
雨はとどまっても
星はみえない梅雨の空

肌の湿りは
空が落とした夏の皮膜
それとも重ねた体温
外灯が滲んで見える

青く蒼々と
今を映すその目に
私の ....
地面に伸びた影を
ただひたすらに
追いかける
僕らはあの日
自由だった

悪戯な
きみの笑い声が
背中をくすぐって
僕のなかにあったのは
「現在」という時間だけ
確かにあの時 ....
*翔る*

頭上の
ヘリコプターに向けて
大きく両腕を振る
「おーい」って叫んだ
何度も叫んだ
声だけが
翔けていく



*風*

自転車の
ペダルを漕ぐのも
間に合 ....
夏を知らせに
来たんだよ

始まりは
白だったかな

密の味は
甘かったかな
丸みを帯びた光は
瞼を下ろすたび
その裏に
微かな影を描く

碧さを含んだ風が
誘いかけても
膝を抱えたままの両腕を
微動だにしないで


 閉じたままでは
 何も見えない
 ....
名の無き道に
いつかふたりで
残した足跡を辿る

 咲いた椿を
 ひと目見たくて

斜陽にそっと
伸ばした指先

 溢れた椿に
 躊躇うばかり

枝先から
落ちた瞬間
名 ....
雨の

始めの

ひと粒

ふた粒


私だけに
与えられた
もののように
この頬を濡らす

あなたの指先に
近い温度で
谷川俊太郎氏の
『朝のリレー』という詩
皆さんもご存知のことと思います


その詩を
頭の中で描きながら
不思議な気持ちで
夕陽を見ていた

私には終わった一日
誰かには始まる一 ....
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