雪は降る歌いながら雨よりも静かに
雪は新たなページをめくる
見慣れた場所へ胸いっぱいの息で踏み出すために
冬晴れの鋭さに青く影を曳いて
ぬくもりを一層 切ないほどに
....
アトリエに 違和もなく 海の 笑む {ルビ音=おと}
感傷の 気まぐれに 黒い蝶 化粧台で 殺し
逆らえない 四十万に 鈴の {ルビ急=せ}かし 空へ
ただ 近く 月を 手に 取って
泣き ....
はだけたカーテンと窓硝子の向こう
隣家の庭木の枝先が刺さった風の震えの向こう
霞んでいる白い家の目印のような煙突の向こう
冬の樹々が黒々と海へ続く 黙々と――
その向こう
薄く濃く重なり合う ....
目は口ほどにものを食う
飽くことはあっても満腹はない
痛みは正気
うかれた幸福感よりも
滾る大義の使命感
その他のことはすべて些末事
抑圧と束縛の中で
自由の価値を想う(実際 ....
日差しは入り江を満たす穏やかな波のよう
ちいさな冬も丸くなった午後の和毛のぬくもりに
鉢植えの場所を移しながら
――古い音楽が悪ふざけ
週日開きっぱなしのトランクをむやみに閉め隅へ蹴る
―― ....
シュルレアリストの洒落たエア・リアルのレアなリズムで
アリスのあられもない素足が水を蹴りあげる
哀れなミズスマシは見た!
静まる死の間際の未詩
冷たいリリシズム
....
舌先で像を結ばない
時代の陰りの不安漠然とした
――漏出か
灰に灰よりも濃く灰を溶き混ぜた
ような雲
も 時折
裂 け
息苦しい断絶の青さ遠くかもめのように過る
無垢のまま ....
気忙しく男は高みから息を吹きかけた
後退りする光の中でいつまでも己の内を見つめ
色を失くして往く
女を見続けるのは正直もう嫌だった
白く
すべてを
終わりの先の始まりの
まだ始まる前の上 ....
さようならアメリカ
たぶんぼくはアメリカが好きだった
ジーンズが好きだった
コーラが好きだった
ポテトチップスも好きだった
さようならアメリカ
自由と平等と人種差別の国よ
民主的で覇権的 ....
ほそく
だけどまわりの庭木よりたかく
そよいでいる
白樺の梢の辺り
黄ばんだ葉の疎らな繁りにふと
青いまま
いくつか
乾きながら
さわさわと光にそよいだころの
面影を残し
....
ハトが二羽歩いている
なにもない場所で
なにか啄みながら
啄まずにはいられない
生きるために
地べたを歩きまわらずにいられない
うまく歩きまわるには
首をふり続けずにはいられない ....
あなたの微笑み
落ち葉を踏みしだく音のよう
深まるほどに
冷たくなって
高くポプラの梢を揺らす風
渡らなかった深くない川のせせらぎ
なにかが去って往く
色鮮やかな痛みを灯して ....
いつだっていまだって青い
地球は朝で昼で夜だ
なのに地表の隅っこで(あるいは真中で)
いまブルーライトに照らされぽつねんと
もの思いに耽っているわたしには律儀にも
朝昼夜は朝昼夜と巡り訪れる ....
あかい傘ななめに濡れた路をながれ
雨音のつめたさに背中を欹てながら
遠景へ漕ぎ出して傍の違和をぼかす
迷い鳩に差し伸べた手の仕草の嘘を
街路樹の間から無言のまま見つめる
おんなの ....
車の中のあなたは雨 避けがたくとりとめもなく
一つの今と一つの場所が移動する 相づちは質量を残さない
「モノローグ」そう題された つめたい彫像として心臓まで
こと切れたままのラジオ ....
立てかけたエレクトリックベースの
三絃のペグが反射して
眼球の面をにわかにすべりながら
谷底に微かな光を届けている
祈る女の言葉に
二つに引き裂かれたのだ
気が付けばカエルやコウモリばかり ....
腰のまがった老人はめったに見なくなった
まがった腰で
ヨッコラショと
風呂敷をしょった爺ちゃん婆ちゃんは
わたしが子供のころの爺ちゃん婆ちゃんだ
農村や漁村では今だって
腰のまがった老人 ....
{引用=わたしの正気は陰鬱だが
わたしの狂気は陽気な歌
木魚バンドネオン炭酸水
(証城寺住職 囃子ダダイ)}
証城寺の性悪少女
ひどくあくどいのだ
そのだんま ....
光の傾斜のよわいめまい
に
いななきも止んだ朝の膨らみ
秋は秋と重なって遠近を失くしながら
凧のように {ルビ空=くう}の{ルビ空=くう} 淡く燃え
無限の、 矛盾の、
存在の、 ....
週の半ばを過ぎると背中が強張りだす
眩しい声が
ほら すぐそこ
地平を跨いだ辺り
小さなキックスケーターが往くよ
時の車輪はゆっくり素早く
ゆらゆら揺れて
蕾 花 あっという間に
....
ボウズあたまの中学生が
ちらり時を盗み見た
放射冷却された定規の上 早足で
あからさまな隠し事がひらひら
心のタッチパネル 見えない蝶が
《DANSI:2016年10月1日》
青い看板に白い文字で
ビジネス
カジュアル
フォーマル
朝のだだっ広い駐車場
少しくすんだ 慎みの季節が
春に巣立った雛たちの 瞳にも
映って
....
赤い目をしていま
なにを読み
どこを跳ねるのか
あなたは謀った
{ルビ和邇=ワニ}たちの背を戯れ跳ねながら
目指すところへ近づいた時(それは幻想だった)
傲りと嘲りが
鈴のように ....
同じ道を歩いた
くり返し歩き
くり返し問い
くり返し答え
水の写経のようになにも
こころの所作だけが
ただ――
くり返し祈った
石の中のロザリオ
沈黙の塵は満ちて
尚も空白 ....
――雲が早い
と思えば雨か
秋らしい振舞に
朝からおまえと飲みたくなる
なすがまま
なされるがまま踊る木々
つめたい雫
鼻先に最初のひとつを感じた蛇が
暗い岩間にすべり込み
ただじっ ....
雨やわらかに冷たく
朝を満たし
しっとりと
傷んだ葉を慈しむように
離別と巡りへの
仕度を促しながら
触れる小鳥の眼差し
の奥に隠された
語らない智彗の静けさが
寄り添うように
映 ....
風は奏で
光は描く
ハリエンジュのさざめきに
まなざしは戸惑い
優雅に失速する
水面に解ける止まり木
鳥は魚を続けた
裏腹に
なめらかに
時間には抜け道がある
探しても見つからな ....
朝 丘珠空港へ迎えに行く
プロペラ機は八月の空をけたたましく滑り降り
ゲートをくぐる人々は無事届けられた
天からのギフトのように
トランクとリュックを下げた若者を見つけ
片言みたいに 荷物を ....
カーテンの向こう暑くなると告げて
にわかに泣きだすそら
も
すぐに澄み
そこなしの青の静けさへ
置き忘れられた幾筋かの羽毛は
朝へと生まれ落ちた夢たちの骸
季節の手妻は継目も見せず
ゆ ....
引き寄せて歌の精よ耳元に
オンとイのほつれ目
楼蘭の砂から掘り起こされた女の髪のよう
忘れられたイトが絡まった
黴臭い沈黙から ふと
夜は陽炎のようにゆらめき立って
歪み捻じれたこの道を筆 ....
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