彼女はピアノの歩調
酔ったように濡れながら
街角を幾つも曲り公園の
裸婦像の前

肉と骨の鳥籠に
冷たい火ひとつ
切りつけるナイフではなく
やわらかな雨

胸のジッパーを下ろす
 ....
雨は解かれる時間
こどもたちの声の重なり
散る 花のモザイク
煙は祈り 空は響かず
水は光を乗せて黒く笑う
蛇のように去る なめらかに


井戸に落ちた人
井戸が歩いている枯渇した
 ....
夏をひとつぶ紙袋
開いた黒目も傷つけず
眠りの汀を照らすように
灰にならない書置きの
名前も知らない泥の中
前世と呼び馴らせば遠くて近い
五色の風の靡く音に
言葉転げて追っては失くし
 ....
失うことここで
そう喪失を得て
3と7の鬩ぎ合い昼と夜の
揺らめく結び目シルクのワルツに不規則な鞭を入れる
朝顔たちの禁欲の裂け目から
積み重ねた箱の中の比喩は脚の多い生き物がマネキンの
 ....
夢の中となりに座ったあなたと話すことが出来なかった
夢でもいいから会いたいと願ったあなたがすぐ横にいて
あなたはもはやあなたではなくわたしの心の影法師なのに
あなたを知りあなたの心を慮ることで虚 ....
黒い森に満ちてくる水の囁き
乱立した死を足元から咀嚼して
本能すら気づかないまま飼い馴らされ
鳥も猿もみな魚になる
愛の骸の揺籃は腐った銀河のよう
崩れ去って昼も夜もない今
柔らかな時計の ....
けれども雲はいつも太陽を仰いでいる
暗雲だから項垂れて地を見下ろしているとは思うな
幸福を見つけた者が全てを置き去りにするように
地のことなど顧みはしない
どれだけ雨が降ろうが雪が積もろうが
 ....
夕陽を抱いた木々の裸は細く炭化して
鳥籠の心臓を想わせるゆっくりと
いくつもの白い死を積み冬は誰を眠らせたのか
追って追われる季節の加速する瞬きの中
ゆっくりと確かになって往く単純なカラクリに ....
{引用=悪徳商法}
架空請求書が送られて来た
金額は自分で書き込むようになっている
魂の値段と 生の負債総額
その差額を生きている間に振り込めと言う

この後なに一つ善行をする予定はない
 ....
娼婦の臍の下に咲く薔薇のタトゥー
聖書を一枚ずつ破って巻紙にする
燐寸に踊る白い蛾のささやき
さ迷うオーブ雨の匂いどこまでも
――おやすみなさい


――追伸
あなたには太陽を
終わ ....
線香花火の玉落ちて
地平の向こうは火事のよう
昼のけだるい残り香に
なにかを始める気も起きず
夏の膝の上あやされて
七月生まれの幼子は
熟れた西瓜の寝息させ
冷たさと静けさの
内なる潮 ....
斧で木を切る少女の夢を見た
ノースリーブの白いワンピース
振り向きざまにわたしを見て
少女は霧散した
夢の中にわたしを置き去りにして
顔は思い出せないが
少女の目にわたしはどう映ったのだろ ....
夏は白濁した光と喧噪をまとい
人は肌もあらわ日焼け止めをぬる
傾くのはグラスだけ海は静かに燃え
彼女は囁きのなか人魚になる



            《テキーラ:2018年7月25日 ....
紙に描いた仮定の人物の横顔
その輪郭線は自分の顔だと主張して
パズルのようにピッタリ向かい合う
二つの概念
対義ゆえに二人ひとりの正面画のよう
口付けを交わし続ける恋人たちのよう
その愛は ....
水の空へ落ちる蝉
十全に ささやかに
冷たい太陽がコクリと飲んだ
――句点はどこ
滔々とただ滔々と
置き去りにされ
ことばは向こうばかり見て



             《句点 ....
樹木に絡む細い雨
しっとりした芝生
鳥たちの早すぎる朝の歌
あなたは夢見る髪の渦
傘を差そうか差すまいか

照り返す水の雲
ほどけ去る踊り子の
糸つれひとつ引くように
白いけむり青く ....
雨上がりの朝
二羽のカラスが二羽のスズメを追いかける
食うための 食われないための空中戦
右に左に離れては交差して
建物の陰で見えなくなった
が出て来た一羽の嘴には何かが挟まっていて
今度 ....
ナナカマドのひび割れた樹皮に触れる
シロツメクサやセイヨウタンポポを撫ぜる
ダンゴムシを摘まみ上げ掌で転がしてみる

変わらないものたちの
質感の 希薄さに
抗う という ささやかな自慰
 ....
頭をいくら固くしても
心はそのまま
言葉の持つ意味は不動でも
渡す者
受け取る者
ふれる心はやわらかい
絹豆腐みたいに崩れたり
卵みたいに中身が漏れたり
隅々まで波紋を広げ
丈夫な外 ....
君が君とはまるで違う小さな花に水をやる時
じょうろの中に沈んでいる冷たい一個の星が僕だ
ビー玉越しの景色を一通り楽しんだなら
必ずベランダから放ること すべて朝食前に
僕の口笛が余韻を引いても ....
夜にはあれほど潤んだ月が
今はただ白く粉っぽい
褪せた青いテーブルクロスに置かれたままの紙切れ
書かれていない恨み言

呼吸を忘れた小鳥たち
見交わす一瞬の生と死を包み込む愛が
朝に急か ....
ひとつの楽曲が
獣のように現れては去って往く
そんな境界で白いけむりを手繰ること

倒木の洞
爛熟の火照りから上ってくる
固く閉ざした{ルビ鞘翅=さやばね}の囁くような反射

メモ書き ....
逃げ出したこどもを探している
裸のまま笑いころげ
つるりと石鹸みたいに


雨だからなに
宿題は帰ってから
しかめっ面の福笑い
わからないつまらない 
いいことなんていつも
子猫に ....
水たまりに映った樹々の緑を
雀の水浴びが千路に乱すように
残された幻を爪繰れば
言葉は石のラジオ

ハリエンジュに掛けられた巣
御し難い別個の生き物として
わたしから乖離したわたしの
 ....
忘れられた歌が戸を叩く
風が酒乱の男みたいに木を嬲っていた

(何も知らない子どもがゲルニカを見ている

 あなたは映らない鏡
 恋している
 空白の輪郭の投影よ
 純粋すぎて
 愛 ....
亀裂が走る
磨き抜かれた造形の妙
天のエルサレムのために神が育んだ
光届かない海の深みの豊満な真珠と
人知れぬ絶海に咲きやがては
嫉妬深い女の胸を鮮血のように飾る珊瑚
その両方から彫られた ....
道路が出来て分断されて
この木は孤独に真っすぐ伸びた
辺りの土地が分譲されて
真新しい家が茸みたいに生えてくると
繁り過ぎた木は切られることになった
ざわざわと全身の葉を震わせて
震わせて ....
男がエデンの{ルビ欠片=ピース}をひとつ拾う
女もひとつエデンの欠片を拾う
二人は寄り添い夢を見た
悲しみも争いも飢えもない
身も心も裸のまま
愛し愛される生活を

男がまたひとつ欠片を ....
流れ出た血が固まるように
女は動かない
動かない女の前で暫し時を忘れ
見つめれば やがて
そよ吹く風か 面持ちも緩み
――絵の向こう
高次な世界から
時の流れに移ろい漂う
一瞬の現象で ....
鶺鴒はすばしこく歩き雲雀は高く囀っている
生憎の曇りだが風は早足
日差しが覗けば芝桜も蜜を噴くだろう
虫たちが酔っ払って騒ぎ出すほどに
脇目もふらず歩く老人の後を付ける
サメの背びれだけが光 ....
ただのみきや(987)
タイトル カテゴリ Point 日付
窓辺の思考自由詩6*19/4/7 12:40
潤むモザイク自由詩9*19/3/31 9:14
壁画自由詩5*19/3/17 14:51
貧者の踊り自由詩4*19/2/17 18:06
あなたの夢をはじめて見た自由詩16*19/2/11 13:18
編み直される時間自由詩8*19/1/27 10:50
幸も不幸も自由詩12*19/1/2 16:42
見えない幻自由詩17*18/12/31 16:12
終りに三つ自由詩13*18/8/8 17:29
最後の絵葉書自由詩11*18/8/4 19:01
枝垂れる文字も夏の蔓草自由詩14*18/8/1 19:23
転寝自由詩8*18/7/28 20:13
テキーラ自由詩9*18/7/25 18:30
アントニムな気持ち自由詩5*18/7/21 11:58
句点自由詩8*18/7/18 20:11
皮膚に隠れて自由詩9*18/7/14 13:27
ヒューマニズム自由詩4*18/7/11 20:33
質感自由詩4*18/7/7 18:55
やわらかいもの自由詩6*18/7/4 19:03
題名を付けられたくない二人自由詩13*18/6/30 20:55
夜の忘備録自由詩5*18/6/27 20:00
覚悟して往きましょう自由詩8*18/6/23 18:57
永遠のこども自由詩7*18/6/20 19:37
桶のない井戸自由詩5*18/6/16 18:08
それ以外に何が自由詩13*18/6/13 18:52
亀裂自由詩5*18/6/9 18:01
ホトトギスの木自由詩7*18/6/6 19:57
エデンのジグソー自由詩7*18/6/2 21:00
静止性自由詩12*18/5/30 18:43
老人自由詩5*18/5/26 21:40

Home 戻る 最新へ 次へ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 
0.12sec.