Cry For The Moon 7「批評へ、あるいは Let's swim to the moo...
佐々宝砂

ここまでの6章で、私は、ネット詩批評の周辺にある5つのもの―――交流・感想・紹介・添削・観賞について書いてきた。これら5つ以外に「解釈」「註釈」などがネット詩批評の周辺にあるが、私は「解釈」を重視していない。「解釈」なんざ、今ここに生きる私たちが今ここにある作品に対して行うことではない。個々のネット詩の解釈は、何百年後かの古典ネット詩研究家に任せておけばいいと思う。せいぜい解釈のむずかしい詩を書いて、未来の研究家を悩ませよう。想像すると楽しいじゃん?

それはさておき、いよいよ「批評」である。いや、私にもよくわかんないんだよって話は「序論のよーなもの」で書いた通りだが、この一連の文章を書いているうちに、なんとなーく曖昧になら、「批評」とは何かという問いに答えられるような気がしてきた。批評は、たぶん、「感想・紹介・添削(または技術論)・観賞」のすべての要素を包括しうるもので、さらにそのうえを超えてゆくものなのだ。では、いったい、どのように超えればいいのか? たとえば高橋源一郎は以下のように言う。

「ある本について論じるということは、その本にはこんなことが書かれていました、それに対してわたしはこういう意見です、と書くことではない。ある本について論じる、ということは、その本が世界の他の本とどう違うのか、違うとしたらどこなのか、について書くことなのである」(高橋源一郎『文学なんかこわくない』より引用)

これはたぶん、批評の「定義」ではない。高橋源一郎が批評に対して抱いているひとつの「理想」の表明なのだろう。むろん、「理想の詩」が存在しないように、「理想の批評」も存在しない。それは幻のように、曖昧に、流動的に「感想・紹介・添削(または技術論)・観賞」のはるか上空に浮かんでいる。実を言えば、高橋源一郎が示す批評の理想は、上記に引用したひとつだけではない。高橋源一郎の著作(小説を含む)は、どれもこれも、燦然と輝く「理想の批評」を目指す試みなのではないかと思うことがある。タカハシさんも理想家なのだ。

上記引用部は、私にも理解できるから、引用した。私は、私に理解できる場所からはじめなくてはならない。「本」を「詩」に置き換えて、私は高橋源一郎の文章を読み返す。「ある詩について論じるということは、その詩にはこんなことが書かれていました、それに対してわたしはこういう意見です、と書くことではない。ある詩について論じる、ということは、その詩が世界の他の詩とどう違うのか、違うとしたらどこなのか、について書くことなのである」……私は、この理想を自分のとりあえずの理想として、よく考えこむ。

私はある詩について論じようとするとき、必ず、その詩と似たものを思い出す。あまり思い出したくないときもあるのだが、条件反射のように類似品を思い出す。そして、その類似品と、私が論じようとするある詩作とを比較する。おおかた、私が論じようとしてる詩作が、いろいろな意味で、負ける。先行作と違う点は見つかるが、それは「先行作よりヘタだ」ということである場合が多い。そんなこと書いてもしかたないから、私は書かない。暴言と思われたらスミマセンと先に謝っておくけど、先行作と違う点が「先行作よりヘタ」ってことしかない作品なんて、添削の対象か、いいとこで感想の対象。そんなもん論ずるに足りん。もちろん、たとえどんなにヘタに見えても「先行作と違う何かがある」ならば、論じるべき作品なのだと思うよ。うまいヘタだけの問題ではない。

これまでなかった新しさを持つ作品は、これまで存在しなかった新しい批評を引き出す。逆に言えば、批評は、ある作品のなかに、先行作が持っていなかった何かを見出し指摘することによって、読者の認識を(もしかしたら作者の認識も)変える。作品と批評は、お互いに攻撃しあうようなものではない、ほんとは、お互いに刺激しあい高めあってゆくものなのではないか?


私はこれら一連の文章に、「Cry for the moon」とタイトルをつけた。私はないものねだりをしている、とも書いた。ないものねだりっぷりを強調したくて、取り乱したり泣いたり怒ったりもしてみた。でもいま、私は静かに思う、静かに誘いかけたいと思う。月は遠い、あまりにも遠い、だけど、一緒に月にゆこうよ。月まで泳いでゆこうよ。潮を昇ってゆこうよ。あなたを愛することは易しい、あなたを観察することも、でもあたしはあなたのガイドにはなれない。でも、それでも、一緒に月までゆこうよ、並んで泳いで、手に手をとって、あの高い月へ。







Cry For The Moon、おしまい。



Cry For The Moon 一覧
序論 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=801
交流 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=802
感想 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=803
紹介 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=819
添削 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=822
鑑賞 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=840
批評へ http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=841


散文(批評随筆小説等) Cry For The Moon 7「批評へ、あるいは Let's swim to the moo... Copyright 佐々宝砂 2003-07-29 17:41:37
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