Cry For The Moon 3「感想、あるいはあなたが大好きです」
佐々宝砂

私は無類の本好きだが、これまで著者にファンレターを出したのは、2度だけだ。1度目は小学生のときアストリッド・リンドグレーンに。2度目は、高校生のとき栗本薫に。で、実を言えばナイショの3度目があって、それはネット詩人(便宜上こう呼ぶ)の誰かサンに送られた。そのひとの書くものが、クズであろうと駄作であろうと「みんな好き!」と思ったときに、私はファンレターを書きたくなる。そういうことは、ほんと滅多にないんだけれども。

感想は、おおむね自然な反応として心に生まれる。必要だとか不要だとかに関係なく、ただ生まれてくる。感想は、書いてもいいし、書かなくてもいい。そういう意味で、感想ってのは気楽なもんだ。無理矢理表に出す必要はない。ことに、「なんだクソーつまらんー」という類の感想を抱いたら、表に出すより、ひとり静かに「なんだクソーつまらんー」と心で叫んでいるほうが揉めなくてよい。心で叫ぶだけなら、何を叫ぼうとも自由である。「ああっ、なんて素敵なのー、震えちゃう♪」と思った場合にも、別段、それを表に出す必要はない。ひとりで好きなだけ悶えてりゃいいのである。

感想を表に出さなくちゃならない状況は、二通り考えられる。

ひとつは「感想を書け」と命じられた場合だ。夏休みの読書感想文なんかがこの類、ネットでも感想を書いてくれと依頼されることはままある。私自身が、依頼することもある。しかし、書けと言われて書く感想って、楽しくないんだよな。特に、「コレコレの感想を書いてきなさい」って言われると、ぜーんぜん書きたくなくなるってもんなんだよな。夏休みの推薦図書を読めと言われてもいまいち食指が動かないように、推薦され選抜されたはずの詩を読んでも、なーんにも感想が出てこないことがある。へー、そうなのー、だからなにー、どーでもえーわー?としか思えないときに、感想を書けと言われるのは、かなり、つらい。そもそも感想なんて浮かんでこないところを振り絞って感想を書くんだから、無から有を生み出すようなもので相当の手練手管を必要とするが、そうやって無理強いされて書いた感想は、えてして、面白くない。強制的に書かせたってダメなのだ。感想は自然な発露なのだから。

もうひとつ考えられるのは、感想を伝える―――告白したくなった場合。これはもう、恋愛にたとえちゃった方がわかりやすい。「好きです……」と物陰から見つめてそれで満足してられるうちはよいが、いつしか思ってるだけじゃ物足りなくなって告白したくなる(その逆で、腹立たしいことがあっても耐えに耐えて耐え続け、ある日とうとう我慢ならなくなって「バカヤロー」と怒り出す、そういう告白もあることはあるが、その手のやつは私の趣味ではないので、今ここでは話題にしない)。「好きです」と伝える相手は作者かもしれないし、私自身の友人にかもしれない。友だちに「あのひとが好きなの」と言うことって、よくあるでしょー? あれも告白。

詩作という行為が、やむにやまれぬ何かゆえになされるように、感想を伝えるという行為も、本来はやむにやまれぬ衝動に突き動かされてなされるものだ。義理でも義務でもなく、「よかったです!」のただひとことをどーしても伝えたくなって、感想を書く。私はそうした感想が好きで、そうした感想しか書きたくないのだが、ま、理想は理想で理想なのだった(笑)。

感想は素直なものがよい、と私は思っている。私は、まー、あんまり素直な性格じゃあないが、好きなひとにはちゃんと素直に「好きです」と言います。はい。嘘じゃありません。好きな詩にもちゃんと「好きです」と書きます。ほんとです。でも、えとえと、でも、こっぱずかしいと書けないこともあります。わーん。言わないでもわかってくれるとよいのですが。ひーん。そういやあのドアホも好きだと言ってくれたことないなあ、こっちはちゃんと好きだと言ったのにい、もしかしてアタシたち両想いじゃあないのかしらん、全部アタシの勘違いなのかしらー。アタシやっぱり月見て泣いてるだけなのかしらー。だったらどーしよー。ひえーーーーー。


失礼。執筆者佐々宝砂がまたも取り乱したため、少々ノイズが混じりました。簡潔に結論を述べて、この小文を終わらせていただきます。

「詩の感想は、強制されても書けない。読者自身の自然な発露に任せるべきである。」



Cry For The Moon 一覧
序論 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=801
交流 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=802
感想 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=803
紹介 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=819
添削 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=822
鑑賞 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=840
批評へ http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=841


散文(批評随筆小説等) Cry For The Moon 3「感想、あるいはあなたが大好きです」 Copyright 佐々宝砂 2003-07-27 00:57:43
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
Cry For The Moon(批評論)