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膝の上の猫
まるで愛おしい生き物でも見るような目で
わたしを見てにゃーと鳴くの
通り雨降る、夏の午後
その視線を
すり寄ってくる体温を
振り払いたくてそっぽを向いた
うっとう ....
ぱくぱく金魚は
今日もぱくぱく
限りある水の中で生きるの
水中から見た歪んだ姿
名前は知らない 君は誰?
沈んだ餌はやがてふやける
ゴミになって藻が生えて
僕の生活スペー ....
うつむきながら
老婆があゆむ
右の手にしたほそい杖
すりきれたコートにつつまれて
冬の濡れた芝の上を
さまようように
あきらめたように
差し出す雑誌に
日本のことがかいてあるの ....
鳥の飛ぶ
銀のピアスをもらったよ
こいつったら ときどき
姿をかえるから
翼を広げてとびまわる
だから、耳をひっぱったりして、
やんちゃな赤ちゃんみたい
でも、ありがと ....
{ルビ=
突然のお手紙失礼致します。
何をと思われず、どうか先をお読みください。
この手紙は、招待状でございます。
私どもの国にいらっしゃいませんか?
急なご連絡でまことに恐縮ですが、
私 ....
テーブルの上には、
分からないことばかり
整然すぎるほど あふれ
どれが なになのかを
さがして、時間を費やすけれども
けしてそれは、愚かなことなどでは
ないのです。
....
小春日和の太陽は
一見優しく
地上に温もりを与え
散りゆく草木を
名残惜しむ
その慈しみに触れたと思い
人々は
それぞれの想いを胸に
去りゆく
季節から日常から人から
帰化して ....
マッチ売りの少女にでもなった気分で
その鍵穴を覗くのがわたしの日課となってしまった
この街へ引っ越してきた当時はタバコ屋さんだったトタン屋根の並び
ちょっとしたお屋敷風の黒塀に
その鍵穴は ....
{引用=
今日 {ルビ午后=ごご}の空は、
秋をきびしく拒絶していました。
その審判は、言葉や法則でなく、
まして、表象された風景などでも
なかった。
許しはしないと、
風や雲の ....
あどけないズルさや
さやかな正義感が
生まれては消え
生まれては消えしていた
ぼくらの気持ちは
さらにどこへと消えてゆくのだろう
友よ
永遠など
な ....
宵闇に包まれた路地に建つ
戸建住宅の玄関前に
一匹
猫が座っている
しゃんと背筋を伸ばして
正面を見据えて
その確固たる存在感を
僕は
しげしげ見ながら
通り過ぎる
どこ吹く風とい ....
もっと話を聞かせてくれませんか
そうしたら、
あたしは、言葉のあいまに置かれた
なだらかな読点【、】に背をもたせ、
気まぐれに口をつぐむあなたの 数知れぬ句点【。】の
小さなその ....
漁村の朝は早い
6時にもなると御丁寧に
町の中心に置かれているスピーカーが
朝を知らせるサイレンを叫ぶ
二階の窓から見える風景は
殺風景な野原の向こうに
海が見える
野原と海が半 ....
ひとつふたつ 手鞠唄
縁側に咲く 寒椿
すべてはあの六花の如く
儚く消える運命だと
俯き顔の君が言った
膝の上には銀色の猫
尾を高くあげ、するりと寄り添う
混沌の中にいる ....
夏のそらばかりが 身をせめる
南風の吠ゆる 島の岬に
母のかたみの 赤い櫛で
髪を梳く
罪を乞うでなく
罰をあがなう 身にもあらず
まばゆく うれしそうに
紺碧色に待つ 海 ....
きっと気づいてない
君は 優しいから
そして 分かってもいない
曖昧な境界が どれだけ
僕を不安にさせてるのか
空と海
夜と朝
鏡に映る 紛い物
君は僕を好きだと言う
....
冷たくなってきた風に漂って
きみは何処を向いているのですか
田んぼの脇に咲くススキ
あでやかな花に囲まれて
色づく葉っぱに包まれて
それでも自らの身体を染めることはなく
華 ....
{引用=
光のあふれる
みなもは、しじまの
はぐれた啄木鳥の子どもが、背を黒くし ―●―
オークの幹をつついています
水音にささやかれる樹の間は、
あたたかな池畔のひろがり
....
気付かない振りしてるだけで
わたし、とっくに気付いているんだ
夕食後の洗い物とかしている最中
わたしのバッグのなかを探っているのを
縁起良いからと買い求めたガマグチから小銭抜いたでしょ ....
{引用=off
部屋の明かりを消しても
真っ暗にはならないんだね。
夜たちからは、もうとっくに
ほんとうの夜なんて
消え去ってしまったみたい。
街灯の光がカーテンを透かし
....
その日、僕は仕事を置き去りにして
青山墓地に向かった。
そして、
その日、僕の何かが壊れた。
さよなら神様
神様は本当に死んでしまったのだ。
五歳の僕は
毎月現れる本屋から
月 ....
叔父さんと凧揚げしたのもこの川
台風一過の増水を父と見たのもこの川
あいつと夕陽を見たのもこの川
家出して夜を明かしたのもこの川
好きだった子の手作りを初めて食べたのもこの川
利根川の ....
分からないままに歩き続ける
たどり着く場所なんて知らない
まして此処が何処かなんて
想い描く余裕もないから
ただ流されるがままに
諦めて誤魔化して色褪せていく
その世界を壊せばよい ....
091027
偶然が
囁くので
ききみみを
そばだてる
歩きながら
考える
歩きながら
思いだそうとする
未来の記憶
偶然が
素直な顔をして ....
冬の夜空ったら輝く星ひたすらまぶしくて
手編みのマフラーとか恥ずかしい思い出の数々
泣きながら破り捨てた一枚の写真
私の肩を抱いていた男の顔
なんて
忘れたような
未だ忘れられない ....
進行の遅い病気みたいに
じわじわと夕暮れは迫りくる
真っ赤な空に鳴り響く危険信号
私がどんなにもがいても
「たいよう」は水平線の向こう側に
沈むでしょう
そう決まっているのなら
....
{引用=眠れよい子よ
月がほしいと泣く君よ
闇夜の空に手を伸ばし
きつくきつく握っても
月はその手をすり抜けて
君の心を絞めつける。
ほしいほしいと泣けば泣くほど
月は君を支配して
....
ジュリアーノ・ジェンマって俳優が好きだった
目深にカウボーイハット被り腰のコルトに手をやる刹那
呼ばれてもないくせしてサボテンの根元に転がる根無し蓬がわたしだった
ベッドのなかでもブーツ脱が ....
{引用=
風に想う
均等な枝は垂直に ―▲
はてなく
天蓋にむけられ
無数の曲直はいまだに葉をもつ さかさまに立つロンバーディア
やせた巨人がゆれ、かしぎ 街のどの家よりも高い身 ....
様々なものから逃げ続けてきて
行き止まりにいたのは
やはり私でしかなかった
生きるのに疲れたふりして
人生をあきらめたふりして
それでも消えたくはなかった
罪もないのに赦されたがって
....
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