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夏の夜風にあたろうと
歩いたいつもの道影に
黒い{ルビ塊=かたまり}が、ひとつ。
四つん這いの蛙はぢっと
夜闇を、睨みつけていた
翌朝歩いた{ルビ同=おんな}じ場所に
....
「倒れかけた鉄塔」という唄を
口ずさんで、歩いていた。
道の傍らに、全身は枯れながら
太陽の顔を燃やしている
向日葵達は
只
夏空を仰いで
密かな合唱を、奏でていた。 ....
夕暮れの歩道橋から
今日も街ゆく人々を、眺める。
一人として同じ顔はないけれど
無数につらなる足音に耳を澄ませば
ぼんやりと
誰もがのっぺらぼうの
丸い顔に見え ....
旅人は{ルビ叢=くさむら}に埋れて
横たわり
いちめんの空に
浮雲の群を見ていた
それぞれに{ルビ流離=さすら}う雲は
違った形の膨らみで
西から東へ流れゆく
自 ....
真夜中に部屋の中で一人
耳を澄ますと聞こえる心の音
沈黙の中で奏でられるピアノ
同じテンポ・同じ音階で
人の心に迫り来る音がある
写真立ての中に映る懐かしき人々が
時を ....
この世の全てが{ルビ塵=ちり}である故
今・背負う重荷さえ
いつかは{ルビ宇宙=そら}に
消え去るでしょう
この世の全てが塵である故
自分を責める者さえも
{ルビ永遠=とわ} ....
どうやら僕は
今迄の思い出を
大事にしすぎたようだ
部屋の中は
まだ終えてない宿題みたいな
山積みの本
ポケットの中は
札は無くともささやかな記念日の ....
屋久島の暮らしでは
無数の鯖が
村人達の手から手へとまわり
こころからこころへとめぐり
一匹の鯖を手に
樹木のように立つ老人は
不思議なほどに
目尻を下げる
夜明 ....
「幸」という文字を
鷲づかみしようとしたら
いつまでたっても
この手は空を切りました
全てを手放し
両手をまあるい皿にしたら
今までよりも「幸」の文字が
くっき ....
食事を始めた
一口目に
山盛りポテトフライの皿の
隅っこにのせられた
パセリを食べる
噛み切れない小さい葉達が、苦かった。
今日も世界の
あちらこちらの食卓で ....
サイドブレーキを
ぐいっと引いて
信号待ちをしていた
隣の車線に停まった車の窓に
取り付けた
バネ仕掛けの手のひらが
びよ〜んびよ〜んと手を振った
顔も体も無い手のひ ....
耶蘇を着ようと
こころに決めた日
怖ろしいほどに
人をいとおしむ気持が
胸の奥に{ルビ疼=うず}いた
空の色は
只青いので
なく
{ルビ罅=ひび}割れた空から ....
「国宝薬師寺展」の垂幕が
灰色の壁に掛かった
上野の美術館
瞳を閉じる
観音像の絵が待つ入口へ
長蛇の列は
ゆっくり進む
ぽつり ぽつり
曇り空から
降り出 ....
わたしは何枚でも
自らを脱ごう
いのちそのものが
あらわれ
周囲の花々が
俯いていた顔を
開くまで
からからから
バスの車内の床を
なすがままに転がる
誰かが忘れたコーヒーの空き缶
かーん
いい音立てて
優先席の爺さんの
杖にぴったり止まった ....
仕事帰りで我が家の門を開き
玄関まで5mの並木を通る
「 うわっぷ! 」
木と木の間のくらやみに
はりめぐらされた蜘蛛の巣に
ぼくの顔が引っかかる
(そそくさと、{ ....
ましろい部屋の空間で
宙に浮いたペンが
血と涙の混じった文字をノートに綴る
開いた窓を仰いだ神保町の曇り空から
誰かの涙がひとつ、落ちて来た。
独り暮らしの古家から
週に一度
玄関から門前に出て
杖を手にワゴン車を待つ
「おはようございます」
ドアが開いて下りてくる
孫のような青年の
腕につかまりながら
車 ....
川沿いの道を
からんころんと下駄鳴らし
着物姿で{ルビ闊歩=かっぽ}する
5才の姪のかほちゃん
ほどけた帯紐に
つまづかないよう
後ろから追いかけて
地面に垂れた紐を持 ....
凡庸なひとりの人の内側に
身を隠す「豆粒の人」は
いつも光を帯びている
脳裏に取り付けられた
あるスイッチが押され
心の宇宙に指令は下り
凡庸なひとりの人の内から
....
田舎の駅の階段を
せーらー服の少女は軽やかに上り
ひらひたと舞うすかーとのふくらみに
地上と逆さの重力が働いて
自ずと顎が上がってく
まったくいくつになっても
男って奴ぁい ....
この胸からすぐに薄れる
「決意」の文字を
もう一度
彫刻刀で、私は彫る。
自叙伝の{ルビ頁=ページ}が
いつまでも捲れない
薄っぺらな冊子にならぬよう
一冊の本を開 ....
「ひでぶ!あべし!あちゃちゃちゃちゃあ!」
歌舞伎町のライブハウスで
登場した幕間詩人の
雄叫びを聞いた翌日
職場への道を歩いていると
古びた赤いポストの下に
「北斗の ....
駅前の信号待ちで
電柱に取り付けられた
盲人用信号
杖を持つ白抜きの人の絵
その下の赤いボタンを
無性に押したくなる
{引用=目を開いても盲目 ....
夜道の散歩で見上げた空の
無数に瞬く星々は
億光年の遥かな場所で
すでに姿を消している
夜道の散歩で見上げた空の
瞬く星が幻ならば
日々の暮らしの傍らにいる
あなたもす ....
老人ホームで
19年間すごした
Eさんが天に召された
すべての管を抜いて
白いベールを被る
安らかな寝顔の傍らで
両手を合わせた日
帰り道に寄ったマクドナルドで
....
夜空をみつめて
歩いていたら
遠くの星が瞬いた
{引用=孤独でもいいじゃないか・・・
きみのいる青い{ルビ惑星=ほし}も
ここからみれば
宇宙に ぽつん と浮 ....
糖尿持ちの母ちゃんが
昔より疲れやすくなり
今迄ほったらかしていた
使った皿や洗濯物を
最近僕が洗いはじめた
ベランダに出て
竿に作業着を干す
日々の疲れに
湿った心 ....
仕事から帰り
洗面台でうがいをする
ぶく ぶく ぺぇ
ぶく ぶく ぺぇ
まっしろな洗面台の
お湯と水のつまみは
少し飛び出た両目で
真中のましろい底に
丸い口を空けたま ....
東口を出た歩道橋に
一人立つ
目の見えない
フルート吹きの奏でる
あめーじんぐぐれいすの
音色を前に
手押し車の老婆は通りすぎ
土産袋を持ったサラリーマンは通りすぎ
....
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