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深い森の中を彷徨っていた あの頃
草木の名も 花の色さえも知らないで
認識は ぽっかりと開いた陽だまりの草地に
唐突に現れて 「境界」 を教えた


黒い雲の切れ間から洩れる 血のよう ....
老夫婦は 一杯のラーメンを
夫は 妻のために取り分ける
妻が食べ始めたのを見てから
自分も食べ始める フードコートの午後


微笑ましい光景と 思うかもしれない
老人の箸の先は震えて ....
真っ黒に日焼けした たくましい腕
「健診でひっかかって…」 屈託なく話した
野球部の監督をしている 彼の日常は
夏休みを返上で ノックバットを振っていたはずだ


風が澄み始めた 今年 ....
若い父親は 汗で髪の毛が張り付いた子供の頭を撫でている
母親は 胸に抱いた汗まみれの子供を 一生懸命あやしている
車窓に青々と広がる田んぼに 草取りの白い長袖シャツと麦藁帽が流れ去る
当たり ....
浴衣の帯が苦しくて 不機嫌な顔をしていた
それでも金魚の袋は しっかり握って
夜店の光が届かない 闇の狛犬が怖くて
握った手に力が入った 小さい弟の小さな手


田舎の家の 広い居間で ....
群竹を抜けてきた風が 木戸を開けた
重い飛行機雲は 丸い山をかすめてたなびく
TVでは 認知症の軍事評論家が勝手なことを喋り
狭い路地の向こうから 野菜売りの声が届く


ご先祖様 ....
熱い日ざしが 爽やかに木の葉を青く染める
夏休みになって 少し賑やかになった
迷惑なような 嬉しいような顔
普段は老人ばかりの 閲覧室の空気

戦争中のことを書いた本を広げて
いつかの ....
遠い夏は旅の果てにある 汽車が鉄橋を渡って
青い駅に着いたら スカートを翻し
湧き上がる雲を見上げて 目を細める
見慣れた飛行機雲が 交差する


引込み線には 背の高い雑草が風に揺れ ....
同じ電車に乗って 毎日同じ汗をかく
風景は少しずつ変わっているはずなのに
同じようにしか見えなくなる 馴れ合い
美しい森に迷い込んで 彷徨って自分を見失っている


煽てられて 舞い上 ....
左手のスマホから 右手へ「淋しい」と送る
右手のスマホから 左手へ「元気出せよ」と返す
LINEで一人芝居をして バランスを保っている
スーツの着こなしはスマートに ロンジンの腕時計が光 ....
風だけが 通り過ぎていった 
時計は止まったまま ベッドの上に
白い部屋の窓辺に 深紅の薔薇が
赤い影を落とす 花瓶の陰で


黒猫が身を伏せて 狙っている午後
死んだ蜂の羽が虹 ....
次元のない町を 不特定多数のキャベツが行き交う
少しずつフォントが違う それが個性だと思っている
のっぺりした集団が 通り過ぎたあとに
数え切れない#が散乱する 通路に階段に


 ....
閉じ込められていた扉が開いて 一斉に流れ出す
群集に紛れる 安心感に包まれて
たくさんの孤独は 水族館の鰯になって
同じ水槽の中を 泳ぎ続ける 死ぬときまで


独り暗闇に潜んだ金魚の ....
今日も雨 灰色に染まった湿気に
沈んでいく ヒザを抱えた狭い宇宙が
傘を広げて 縮んでいく 心地よい闇に向かって
落ちていく 余計な雑音の聞こえない場所へ


窓の外 紫陽花の下に 捨 ....
雨の夜の物語は 濡れた
石灯籠に絡みつく 蛇の赤い舌先に
想いは 蛍火にほの暗く 闇に
浮かび上がる 老いた眼は 涙に濡れている


森が深さを増し 光を拒み始める
明るい陽光に踊る ....
夏の香りを雲の影に隠して
やさしい雨が夜を濡らす

切れ間からのぞく陽にきらめく
水たまりごしに見える
あなたが好きだった夏

思い出は遠ざかって行くけど
髪を揺らす青 ....
半袖に変わった セーラー服の白がまぶしい
目を細めて見上げた空に 風は雲を巻いて
かすかな潮の香りが 広がる記憶に
連れていく 銀色の波が光る場所へ


裸足になって 寄せる波から逃げ ....
夕暮れの都会は ブルーに沈む
ビル街は華やかに さざめき始める
イルミネーションに飾られた 水の中を
お洒落した熱帯魚が行き交う 笑い声と


ビル街の吐き出す熱気が 淀んでこもる
 ....
電車の窓ガラスに映る
何か忘れ物をしたような顔は
別の世界にいる自分を夢見ている
手に入れたものと失ったものを 秤に載せて


手の中にあった 虹色の玉は
守ろうと握り締めた瞬間に  ....
きみの悲しげな 薄茶の瞳が
雨に濡れた 捨て犬の耳に重なる
愛してるんだよ と 大きな声で
もし あの雨の日に戻れるのなら


真っ直ぐな思いに 応えられなかったのは
どこかに 罪の ....
きみの真っ直ぐな眼差しに あたしは
耐えられなかった 大人のふりをして
夢みたいなこと言っちゃだめ なんて
夢を見たかったのは あたしのほうなのに


あたしは臆病だっただけ
子供か ....
時が経っても たぶんきみはきみのままで
あたしは ラッシュの人波に流されて溺れて
年老いた患者の愚痴を聞きながら
磨り減って 川下の石みたいに 丸くなる


そうして彩色されていく
 ....
花吹雪舞う道を ひとりで歩いた
分かれ道で手を振って きみは去った
あたしのことは すぐに忘れる
夏が来れば 陽の光に夢中になって


花びらは風にのって どこへともなく
青い月夜の ....
うす紫の夜明けに 投げ出された一冊の
古い書物に うす紅の花びらが降り積もる
開いた頁の活字に 重なって見え隠れする
過ぎ去った日々の残景は 霞んで


手を伸ばしたら 届いたはずの風 ....
まだ悲しみから 逃れられない
古い歌を聴いて 涙を流したりして
帰っていく 記憶の彼方にある
そこにあったはずの 別の世界に


きみが去った後も 同じように
山は煙を流し 村は雪に埋も ....
嘘をついているつもりじゃない
都合のいい部分だけを繋ぎ合わせたら
彼女の話になる 騙すつもりじゃないのに
暖かくて居心地のいい 四角い部屋


田舎の家に帰りたい
思いは増殖して 連 ....
命日には 花が咲き始める
あの時のまま 時間は止まっている
部屋は汚れ果てた 誰も来なくなったから
すべてが汚らしく見えて 手ばかり洗っている


不安の海は時化て 人魚は深い水底へ
押 ....
あたしの悲しみは 彷徨った後
水仙の咲く堤の 老いた桜にたどり着く
蕾はまだ固いのに 水は
香りに混ざった 陽の光を揺らす 軽やかに


きらきらと 光の粒はころがって
橋を渡る老人 ....
しばらく前まで そこには山があった
ショベルカーの快活な饒舌や
ブルドーザーの笑い声と共に
預金通帳に増えていく 零のよろこび


狸は自動車のライトに眼が眩んで
白いセンターライン ....
家の玄関を出たら 右へ
春なら 左向かいの医院は花盛り
秋なら 正面遠くにお寺の紅葉
雨さえ降らなければ 毎日の日課


石段を昇って 神社にお参りして
参道のパン屋で パンを買う
 ....
殿上 童さんの藤原絵理子さんおすすめリスト(169)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
言葉より前- 藤原絵理 ...自由詩6*15-9-7
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野分- 藤原絵理 ...自由詩415-8-31
Fanfare_for_the_Common_Man- 藤原絵理 ...自由詩6*15-8-27
盆の歌- 藤原絵理 ...自由詩5*15-8-25
送り火- 藤原絵理 ...自由詩615-8-20
木曜日の図書館- 藤原絵理 ...自由詩515-8-15
入道雲- 藤原絵理 ...自由詩915-8-13
夏休み- 藤原絵理 ...自由詩315-7-31
クラウド- 藤原絵理 ...自由詩415-7-22
静かな午後に- 藤原絵理 ...自由詩715-7-17
@Apple- 藤原絵理 ...自由詩715-7-10
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雨の日の情景- 藤原絵理 ...自由詩715-6-16
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命日−また新しい夏がめぐってくる- 藤原絵理 ...自由詩315-5-27
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風の歌- 藤原絵理 ...自由詩515-5-16
かえり道- 藤原絵理 ...自由詩915-5-12
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行く春に- 藤原絵理 ...自由詩615-4-13
まことしやかな嘘- 藤原絵理 ...自由詩415-4-5
花の色は- 藤原絵理 ...自由詩815-4-3
早春に- 藤原絵理 ...自由詩815-3-26
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