早春に
藤原絵理子


あたしの悲しみは 彷徨った後
水仙の咲く堤の 老いた桜にたどり着く
蕾はまだ固いのに 水は
香りに混ざった 陽の光を揺らす 軽やかに


きらきらと 光の粒はころがって
橋を渡る老人の 手の甲に淋しく零れる
幸福そうな後姿の奥に 積み重なった滓を
あたしの悲しみは 捕らえて放さない


春は足音もなく また巡ってくる
凍りついた悲しみを融かして 花が咲く
癒えた病のように 苦しみを追憶に変えて


やがて 堤の土の中から
今年の蟻が姿を見せて 何食わぬ顔で
死んだ去年の蟻と 同じ仕事をし始める



自由詩 早春に Copyright 藤原絵理子 2015-03-26 21:58:29
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