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穏やかな気持ち
鏡のあちら側にいる 羊
軋む階段の踊り場から
見下ろしている 外は月夜

白いドレスの裾は ひらひらと
ドアの隙間から洩れる
蝋燭の揺らめきに合わせて

昼間の庭 ....
四角い瞳に映る 蛍の軌跡
沈潜した草の匂いに 雨の気配
黄緑の曲線が 野放図に交差する
笹の陰の暗闇で 羊は見ている

静かな黄泉の国で 横たわっているような
喧しい牧羊犬も ここには ....
田舎の蔵にあった
あばらの浮いた患者の胸
愛想のない円空仏
薄明かりで見ると たじろぐ

大きな桃が
「どんぶらこ」と 流れてきたとき
あのおばあさんも使っていた
に 違いない
 ....
青空を集めている
あじさいのつぼみ
青いガラス瓶
明るい陽に揺れる

痩せ細った手で
筆の先から
搾り出したような 一枚の絵
淡い青のあじさい

木立に濾された光は
揺れる葉 ....
あたしはあれから
いくつかの夏を過ごして
青い海の白い波のきらめきに
あなたの面影を想った

あわただしい足音を残して
季節は通り過ぎていくけど
風にさりげなく流れる
あ ....
クリーム色の明るい部屋
お遊戯をしている
「すずめの学校」に合わせて
動きにくい手を叩く

楽しそうに,子供になって
先生の動作をまねる
だんだん
ほんとうに楽しくなってくる

 ....
ずっと夢みていたの
赤いバラのアーチの下で
いつかあなたと恋におちる
凛とした香りにそまって

あたしは目を閉じて
ふるえながら待つだろう
あなたのしなやかな指が
 ....
葉桜を揺らす風
自然に毛虫は落ちて
あたしの腕に赤い斑点を作る
毛虫は落ちる,自然に

薄暗い図書室の奥
自然科学の歴史書が
埃に埋もれて死にかけている

母の胎内であたしは
 ....
スーパーの棚で
一年中,姿を見かける
外は夏日だというのに
エアコンかけて,鶏の水炊き

あなたは嬉しそうに
年中売られているダイコンを
すりおろしている

あたしは,なんとなく ....
ソースが汚ならしく
白い皿に残っている
綺麗に盛り付けたけど
終わってみるとこんなもんだ

しゃしゃっと水で流して
網かごにセットする
ナイフもフォークもお箸も
「汚れ物」になって ....
魚臭い市場の雑踏で迷子になった
US MarineのGIがこわくて泣き出した
東シナ海をわたってくる風に明日をゆめみた
ジェット戦闘機の爆音に空を見上げた

悲しくつらい過ぎた時代は
 ....
しあわせな瞬間を
こっそり切りとって
あわいブルーのアルバムに
貼りつけてほっとする

あとから眺めるわけでもないのに
夢中でレイアウトを考えたりして
だれに見せるわけでもないのに
 ....
お水を待ってるの
大きなトラックで
お水をくれるから
ずっと待ってるんだよ

水瓶はこわれちゃったし
鍋はぺちゃんこだから
こんなタライしかないの
ちゃんと持って帰れるか不安

 ....
あたしは舟を漕ぐ
薄紅色にぼんやり光る水
空には忘れ物をしてきた月


待ち続けていると
ガラス窓に張り付いた
ヤモリの手までかわいく見える


むかしの歌は
遠ざかり行く駅 ....
枯れ葉色の服を着た
不思議な顔の人が
あたしの家の前で
ばたりとたおれる

空気を切り裂く
やかましい音
不思議な言葉の叫び声
うちの犬が走りまわって吠える

町で見かけるおじさん ....
悲しい夢のなかにひたって
目覚めた後も
ムードだけは引きずっている
今朝もあなたはいないんだから

窓から流れこんできそうな
ミルク色の霧
ディテールをおおい隠す魔術
今朝もあたし ....
子猫を拾った公園
子猫といっしょに
風を切って揺られた

おなかと片手にやわらかさ
ねむくなった子猫
あたしも目を閉じる

上がって下がって
上がりきって下がる瞬間に
子猫が爪 ....
エルニーニョで死んだ
イグアナの尾
きみは追いかける

ぼくは受け容れることができない

魚は
タンパク質と脂肪を
全世界に提供する

電流の仕事は熱するだけではないばずだ
 ....
赤血球のヘモグロビンが
その炭素原子を吐き出す
特別な意味を持った炭素原子

見知らぬ酸素原子にまとわりつかれて
二酸化炭素になって出て行ってしまった
あたしの炭素原子

どうして ....
月が満ちた午前零時
引力は拮抗する

三角関数が
どうして重要なのかを
知りたくないですか?

月のひかりは
海底までとどかないから

微弱な引力の波動を
感じているしかない
 ....
崖から転げ落ちる
ペンギン
飛べないから
翼は広げたまま
水かきが空を切る

岩に頭をぶつけて
気が遠くなる
エメラルドの目に映る
真っ青な海
あと少し…

さっきまで
空を ....
なにかに取りつかれたように
テレビの画面を見つめつづけて
何も伝わってこない低級な映像を
ハンストみたいな気持ちで眺める

罰を受けているのかも知れない
ふとそんな気にさせる巧妙な仕組み
 ....
なんか そっけないなあ
いま
なに考えてるの?
あたしのこと…
じゃないよね

「ねえねえ
こんなふうに
まとわりついたら
うざったいよね」
ってたずねたら
それまで
‘うーっ ....
シッポを切って逃げる
簡単…でも必死

自発的な変化
エントロピーは常に増大する
生き延びるのだから場合の数は増える…
当たり前のこと

こわい夢/現実から
すんでのところで逃げ出せ ....
告げ鳥が庭の木にとまった
今年は厳冬で数が少ない
近くの湖でエサをあげている団体が
心配しているとローカルニュースが伝えた

「大変な旅をして来るんだから
みんなで大切にしてあげましょう」 ....
もしも
今朝飲んだのが
カフェオレじゃなくて
ミルクティーだったら
今 あたしはどうなってたかな

気が遠くなるほど
たくさんの分かれ道で
そのたびに立ち止まって
迷いながら選んでき ....
少女だった
遠い夏の日の
手のなかにあった
きらめく夢を
なにかべつの
ほんとうは
必要じゃないものに
すこしずつ
すりかえて
軽くなった肩に
安堵する後ろめたさを
かくすた ....
疲れ果てて帰ると
男がにゃんにゃん擦り寄ってくる
うざー という顔をすると
男は しゅーん と窄まる

テーブルの上に包み紙
白い皿に茶色いパンのヘタ
とっておきだったのに
あたしのカ ....
ひとまわり大きくなった太陽が
西の水平線に沈んでいく

この海はどこへでも繋がっている
海岸には奇妙な文字が氾濫している
塩化ナトリウム水溶液で繋がっている
巨大な電池だって作れる

 ....
ホームセンターの駐車場が真っ白になった
マンホールの蓋の上だけは真っ黒い
空からは ぽってりした雪がまだ落ちてくる
やがて ぽっかりと蓋が開いて
隣のおばさんが上気した顔を出す

「こ ....
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