こわれてもいいよって
ヒツジがさみしく笑った
夕方の風にのせて
少しなぐさめてあげたい
鉄棒の影が背中に届くと
校庭は静かに冷えていく
ハーモニカを吹く少女よ
クローバーは伏し目がち ....
すべては夜に
言葉でさえも
すべては音に
私ではなく
ひとつのひびき
ふたつのひびき
みっつのひびき
私ではなく
光を投げかけ
器を揺るがし ....
送電線の下をくぐって
アスファルトの海を
ぼくたちは、
泳いで、
はりめぐらされる
緯度や経度に
足をとられながらも
ひたむきに
日帰りの旅をくりかえす
ねむる前、ときどき
....
風の便りで聞きました
この街を離れるそうですね
冬の終わりを告げる風
少しだけ君を想い浮かべて
今日も一つ空の下
もう、四年が経ちました
一つだけ、想い出したこと
心の中 ....
定まらない音源
決めきれない想い
自分の声が近過ぎて
諦められず
耳をかたむけても
止まらない想いに
重なって
言うべき言葉も
声にならない
黒に近い深緑から
白のうたが聞こえていた
たくさんのものを失って
望まぬちからを得た最初の日
こんもりとした光のかたまり
まるく息づく色はほどけて
指を撫で
指と指 ....
なくしたものと
もういない人とが
ありえないシーソーで
つりあってる
そんな救いのない話しか
思い出せない
と証言台で男は述べたが
語尾はすでに
空気と区別がつかなかった
街のい ....
幾日か後
妹の手を引いて
池まで降りていった
石畳は少し先の
見えないところまで続いていた
水面には遺影に良く似た温もりがあり
生き物たちの息継ぎまでもが
今ならわかる気がした
....
ポストの小窓に手をかけるたびに
世界が凍り付きそうだ
その瞬間 世界中の時計が止まって
僕の胸の奥だけが
熱く熱くとても熱く膨らんでいって
ふぅーーー
空気が抜けていく 時計は動き ....
秋は不思議
木々は なんだかにぎやかで
どんぐり坊やは 力強く歌っておどるし
風はやたら はやく はやくって。
僕はどうしたらいいのかな?
って くまがいうから
僕は おなかを洗ってもうね ....
俺の為に余命三ヶ月になってくれないか?
そして或る日突然に
そう突然に死んでくれないか?
嘘だ
戦争や争い事なんて少ない方がいい
無くなりはしない事はわかっている
家族や友人を ....
クリスマスが嘘っぱちでも
僕はかまわない
遠くから鈴の音が近づいてくるのが聞こえると
思い出す
サンタさんを本気で信じてた頃の
あの
ワクワクを
まぎれもなく それは 本当のクリスマ ....
海に落とした万華鏡
ゆらゆら沈んでゆく
閉じ込めたはずの
いくつもの輝き
永遠と信じてた
哀しみの水圧に耐えかねた、刹那
万華鏡は音もなく弾け
また
とろり、とろり
もう ....
ボクは外側がボクである
ヘヤは内側がボクである
それがボクとヘヤとの
相違点
芽、夏の始まる頃
なだらかに繁茂し
雨戸のような
古い匂いのする部屋
少年は水棲生物の絵を描き
鉛筆の芯はそのために
おられ続けている
逝くもののために祈り
生まれるもののために祈る
....
過去の中に 生を見つけだそうが
死の中に 今を見つけだそうが
常識と決めたのはどこまでも人間だ
誰に構う事無く
誰に乞うた訳じゃない
生まれた時から存在していた
認識と言う甘い枠線 ....
繋いだ手の感触を
消してしまえずに
たとえば、今
この空のあの雲
と 私の指が示しても
あの人にはもう
届かないでしょう
尾とひれのついた
魚の形の 群れが
泳いでい ....
朝起きたら
郵便受けが手紙を{ルビ銜=くわ}えていた
切手はないのに消印はある
宛名はあるのに差出人がない
ちぐはぐな手紙
開けてみると光が入っていた
光はみるみるうちに封筒から出 ....
あそこにいる人が
あなたの本物のお兄さんだ、と
偽物の兄は言った
青空にあんなに高く手を挙げて
いつまで疲れないのだろうか
明日になったら
偽物の兄が大好きな
餡子のお菓子を持って
....
見慣れない肌の子供が立っていて
おまえは苦しんで死ぬと囁くものだから
そんなもの
首を絞めたっていいじゃないか
結局のところ
君たちは知らないんだ
君たちは知らずに転げる
転げている、ろ ....
見えない
眼を見開いても見えない
眼を閉じたらなおのこと見えない…
「途切れてるところを教えて下さい」
息のぬくもりを感じるくらい耳元で、事務的に君が囁く
「分からないんです ....
擦り切れたブランケットを放せない子供みたいね 君依存症
ねぇわたし、あの娘がしているマフラーが欲しいの。はやく盗ってちょうだい
陽だまりのように私をなだめてよ パールなんか ....
つつき割る事を
あきらめたのか
雛は
まるく
まるく
丸まっている
身体は否応無しに育ち
卵の殻は変わらない
身体に合わせて
大きくは
なってくれない
その身の大きさに気 ....
石が転がった
誰かが蹴ったわけでもないのに
空虚に住まう誰かが
大きくため息を
したからかもしれない
人が堕ちて行った
誰とも知らないまったくの赤の他人なのだが
堕ちてい ....
コーヒーとミルクが半々
その懐かしさが痛ましいので
最近では蜂蜜を溶かし込んでしまう
あの人が元気でいることを望まない私と
いつもレモンを添え忘れるあの人と
似ていたのは身勝手ばかり ....
人は夜に音になって
躓かない程度に囁き合うらしい
朝が夜に向かうように
ページを手繰り寄せる
薄い絵の具を
筆の先で伸ばすように心音を
澄ませていく
夢を見る、ことを覚えてからは ....
メロスが走っていた頃
大半のメロスは
走ってなかった
セリヌンティウスが王に囚われていた頃
大半のセリヌンティウスは
自由に街を往来していた
少年の青白く細い指は
ページをめくり続け ....
知っているのですか
あなたと
わたしが
手を合わせる
その意味を
つなぐ、と
つながれる、の
隔たりをあなたは
まるで何も
知らないかのように
この寂しさを
知ってくださ ....
指でつなぎとめ
奥にひろがるはずの
水をかくした葦の
叢で
わらい戯れてひそみ
その口をふたぎあって
ちいさな音に身を寄せ
ぬくもる鳥となった
あたたかい日に歩こう
の約束は ....
「捧げる詩集」(1995年・緑鯨社)には、1988年から1990年にわたって個人誌「風羅坊」に発表した作品を収めた。個人誌といっても、B4用紙に短い詩を毎号6〜8篇コピーして読んでほしい人に見境もな ....
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