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うたたねをして目覚めると
一瞬 {ルビ黄金色=こがねいろ}のかぶと虫が
木目の卓上を這っていった
数日前
夕食を共にした友と
かぶと虫の話をしていた
「 かぶと虫を探さなく ....
しゃわーで汗を洗い流していたら
いつのまに{ルビ踝=くるぶし}が{ルビ痒=かゆ}かった
ぽちんと赤いふくらみに
指先あてて、掻く爪先も
痒みの{ルビ芯=しん}には届かない
見 ....
数日前の夜
ホームページの日記で、
遠い空の下にいる友が恋人と別れ、
自らを罪人として、責めていた。
( 自らの死を越えて
( 生きる明日への道を見据えていた
( 彼女の瞳は光を宿し ....
長い間
{ルビ棚=たな}に放りこまれたままの
うす汚れたきりんのぬいぐるみ
{ルビ行方=ゆくえ}知らずの持ち主に
忘れられていようとも
ぬいぐるみのきりちゃんはいつも
放置され ....
「純粋」と「不純」の間で
へたれた格好をしている私は
どちらにも届かせようとする
執着の手足を離せない
一途に腕を伸ばし開いた手のひらの先に
「透明なこころ」
( 私は指一 ....
人間は汚れている。身も心も。
人の世のニュースを写すテレビ画面の中で。
私の姿を映す鏡の中で。
全ての日常は、色褪せていた。
*
一人旅の道を歩いていた。
信濃追分の風 ....
「幸福」を鞄に入れて、旅に出よう。
昔日、背の高い杉木立の間を
見果てぬ明日へとまっすぐ伸びる
石畳の道
君と歩いたあの日のように
( 舞い踊る、白い蝶々を傍らに。
....
夏の涼しい夕暮れに
恋の病にうつむく友と
噴水前の石段に腰掛けていた
( 左手の薬指に指輪をした
( 女に惚れた友が
( 気づかぬうちにかけている
( 魔法の眼鏡は外せない ....
照りつける夏の陽射しの下
墓石の群を横切る私の地面に頼りなく揺れる影
一瞬 頬に見えた{ルビ滴=しずく}は 涙なのか汗なのか
( {ルビ嘗=かつ}て 一途だった少年の恋は
( 夏の夜 ....
私達は知らない
戦時中にかけがえの無い妻子や友を残して
死んで行った兵士の
爆撃で全身が焼け焦げてしまった少女の
青空を引き裂く悲鳴を
( 昔話の地獄絵巻は深い地底に葬られ
....
足元は、崩れている。
真っ直ぐ歩くことも{ルビ覚束=おぼつか}ず、
肩が揺らいでいる日々。
( ぼくの脳内には
( 壊れたリモコンが内蔵されている
胸を張れども三日坊主。
....
目の前に置かれた石を
思い切り、蹴る。
弾道は前方に細く長い弧を描き
一面の霞の向こう側にある
無数の「明日」を貫いて
激しい雷雨の日を貫いて
柔らかな陽が注ぐ日へと
....
彼は今迄何度も転んで来た。
愛に{ルビ躓=つまず}き、夢に躓き、
恋人の前に躓き、友の前に躓き、
鏡に映る、自らの{ルビ滑稽=こっけい}な顔に躓き、
振り返れば、背後に伸びる
長い日 ....
私とあなたの間には
数十億光年の距離があり
互いの影はいつまでも交わることなく
仮想の白い空間を歩き続ける
( {ルビ孵化=ふか}を知らない孤独の闇に{ルビ包=くる}まれて
( ....
夜が明けて
窓から朝日が射し込むと
目の前に
猫背の暗い男が両腕を{ルビ垂=た}らし
立っていた
「 私ハ生キル事ニ疲レタ
アナタノ生霊
アナタガ誰カト浮カレル時 ....
単調に繰り返される無数の足音の渦の中で、
希望を見失った盲目者は歩道を歩いていた。
朝の足場がやけに固い。
ガラスの壁の内側にはふたりのマネキン。
{ルビ何処=どこ}かに顔を落とした ....
( 窓の外から聞こえる
( 鳥の{ルビ囀=さえず}りと共に目覚める朝
( 全ては「無」へと消える
毎晩
枕は「夢」をのせている
閉じた瞳
繰り返す寝息
空っ ....
立ち位置を、探している。
いつまでも見つからない、
足の踏み場を。
もしくは、
消えてしまった君の幻を
抱きしめる、
世界の中心を。
人波の川が流れゆく
この街の中で、
....
小雨の降る夜道を歩いていた。
ガラス張りの美容院の中で
シートに座る客の髪を切る女の
背中の肌が見える短いTシャツには
「 LOVE 」
という文字が書かれていた。
....
私とあなたの間には
いつも一枚の窓があり
互いは違う顔でありながら
窓には不思議と似た人の顔が映る
私とあなたの間には
いつも一輪の花の幻があり *
互いの間にみつめると ....
深夜の地下道
両脇に並ぶ店のシャッターは全て閉まっていた
シャッターに描かれた
シルクハットの紳士は大きい瞳でおどけていた
胸からはみ出しそうな秘密を隠して
彼は独り歩いた
....
私は無人の都市を歩いていた
見上げた無数の窓の一つから
青い小鳥が堕ちて来た
{ルビ掌=てのひら}で受け止めた
{ルビ痙攣=けいれん}する小鳥の青い羽は
灰色へと変色し
....
夜道を一人歩いていた
道の先に立つ街灯が
{ルビ辺=あた}りをほの白く照らしていた
街灯の細い柱に{ルビ凭=もた}れると
地面に伸びる
薄ら{ルビ哂=わら}いを浮かべた
私の影 ....
今夜 私には
逢いにゆく人がいない
孤独な夜の散歩者は
アスファルトに響く雨唄と
ビニール傘に滴る雨垂れの
二重奏に身を浸しながら
果て無い雨の夜道を{ルビ彷徨=さまよ}う ....
誰かと笑い転げる日々を過ごす私
仮面を一枚{ルビ捲=めく}れば
誰の手も触れ得ぬ「もう一人の私」がいる
あたりまえの幸福は
いつも手の届く場所にあり
浜辺へ下りる石段にぽつん ....
祝日 新宿の午後は人波に{ルビ溢=あふ}れて
逃れるように僕は古びた細い路地に入る
道の両脇に{ルビ聳=そび}え立つ高層ビルの壁に挟まれた
細い空を見上げると吹いて来る向かい風
ア ....
少女は長い間
窓の外に広がる海を見ていた
{ルビ籠=かご}の中の鳥のように
時折
人知れぬ{ルビ囀=さえず}りを唄っても
聞こえるのは
静かに響く潮騒ばかり
( 浜 ....
日曜日の朝
シャワーを浴び
鏡の前で髪を整え
{ルビ襖=ふすま}を開け
薄暗い部屋を出ると
何者かが{ルビ袖=そで}を引っ張った
振り返ると
ハンガーに掛けられた
高 ....
君が帰った Cafeの 空席に
さっきまでノートに描いていた
空へと届く望遠鏡の幻がぼんやり浮かんでいる
別々に家路に着く
君の切なさも
僕の切なさも
この Cafe に置 ....
開店時刻の前
Cafeのマスターは
カウンターでワイングラスを拭きながら
時々壁に掛けられた一枚の水彩画を見ては
遠い昔の旅の風景を歩く
*
セーヌ川は静かに流れている ....
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