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海と繋がっている
照り照りとした
小さなオパールをつまんだとき
海水の温度のようだった
人いきれにむせる空気の中で
そう感じたのは
単なる錯覚ではなく
この生命の何処かで
潮の ....
梅雨の晴れ間を狙って
そっけなく届いた封筒が愛しい
きみが指を強く押し付けたはずの
テープをもどかしく剥がす、剥がす
剥がすと
草色の便箋に並んだ文字が
少し潤んだ懐かしい声に変わ ....
風が吹き抜ける
うたから零れる水滴に
滲んだかなしみを知る
きみを包む町から
初夏の気配を纏って訪れたうたは
インクの匂いをさせながら
紙を静かに滑り落ちて
こころの中に海を創る
....
こんな晴れた日
野の緑はしなやかな腕を
天に向かって伸ばし
陽射しに仄かな生命を温めている
草むらをすり抜ける風は
蜜蜂の
しじみ蝶の
か細い肢に付いた花粉を
祈りに変えて
次の ....
散る散る ちるらん
花びらの
風に任せた行く先は
夏の匂いの西方か
揺り揺る ゆるらん
水面に降りて
さざめく海に恋がるるか
思えば君に逢うた日の
宵は海辺に砂嵐
さらさ ....
スプーンの背で潰した苺から
紅が雲に届いて夕焼けになる
静まれ しずまれ
桧扇を広げて
漆黒がそこまで来ている
上着の釦をもうひとつ閉めて
心して迎えよ
静電気をちりち ....
黒い静寂の隙間から
甘く短い便りが届き
振動はそのまま
片耳から深くに伝わって
封印が容易く解かれる
ひとつひとつの接吻が
蝶になって
夢心地だった恋の日も遠く
雪と降る ....
きっと白に近くあり
霧雨を含んだ夜のなかに
咲き急いだ桜がひとつ
白く闇を破る
陽射しを浴びて
咲き競うのは
きみ
きらいですか
こんな湿った濃紺の中で
意表を突いて ....
私鉄沿線のダイヤに則り
急行列車が次々と駅を飛ばして先を急く
通路を挟んだ窓を
横に流れるフィルムに見立て
過ぎた日を思えば
思わぬ駅で乗り降りをしたわたしが映る
網棚に上着を ....
春が
はるが
傘の水滴に溶けて
声も密やに
幼いまるみの春の子に
子守唄を聴かせる
まだ固く木肌の一部の様子で
繚乱、を隠した蕾は
雨にまどろみ
陽射しに背 ....
ももの花
軽い衣に春染めて
緑の枝葉も知らぬうち
蕾のままに頬はほころぶ
絢爛のぼんぼりもなく
錦糸の衣も纏わずに
春の節句の雛つがい
ももいろの
笑みに吹かれて
ひな祭り
....
うたを綴る
ひとつ ノォトに
うたを紡ぐ
ひとつ こころに
今日の言葉を装い
明日吹く風を纏う
雲に似て
恋に似て
刻々とかたちを変えるその憧憬を
留めるため
小さな引き出 ....
背なか 背なか
もたれかかった珪藻土の壁には
真昼の温みが宿り
後ろから
春の衣をふうわり掛ける
あし
足もと
埃だらけのズックの下で
蒲公英は蹲り
カタバミが少し緑を思 ....
宵闇は
切り子細工の紅茶に透けて
紫紺も琥珀の半ばでとまる
グラスの中では
流氷が時おり
かちり
ひび割れて
薄い檸檬の向こうから
閑かに海を連れてくる
壁の時計は
ゆるり ....
コートの袖口に
凍った風が刺さり
いつか繋いだ掌を思った
小さな歴史が吹き飛びそうな日には
冷静を乱し
きみ行きの列車に
乗ろうかと考えたりする
枕木に光る足跡を
小さな獣 ....
季節外れのマリーナの隅に
ON AIRのオレンジのサイン
夜はそこにだけピンライトを当てる
思いのほか雪は強くなり
ラジオ局で流す古いジャズが
熱く火照って静かを乱す
厚い硝子 ....
切り取って
もう少し違うかたちに
貼り詰めて
色硝子の欠片たち
鏡に映った髪が
指先でもつれて
ささくれた爪が
余計に乱暴になるから
ひび割れが目立たぬよう
綺麗なステン ....
数学が苦手だって言うのに
もう少女ではないから
計算違いは許されない
髪を伸ばすこと
それは可能性
ダイエットコークの味を好きになること
それは目論み
統計では
きみの ....
その指先に
凍れる紅をさし
頬の産毛を粟立たせ
きみは
街なかの雪に泳ぐ
手のひらで固めた結晶は
赤い目を探すうち
もはや雪でなく
氷の透明に変わっている
そんなにも ....
真夜中の毛布に隠れ
短い振動が
密かにわたしを呼ぶ
七十センチ横では
きみの見知らぬ連れ合いが
高らかに寝息で嘘を吐いている
幸福の整理券を
並んで手に入れたものの
本当は少し ....
凍えの夜に
面相筆で刷いた薄雲が
星座に風を満たし
十字に居並ぶ太古の紋様は
くっきりと現在を刻印し
ありふれた永遠を
わたしに見せつける
生は
背中の痛みで
諦めは
....
ポストがあんまり赤く誘うから
こっそり仕組んだ悪戯めかして
宛名にきみの名前を書いた
雪があんまりひっきりなしに
きみの傍に寄り添うから
水晶の珠を割って
ちいさな虹で
憂欝の左 ....
咳がひとつ
窓を抜けて
枯草のなかに逃げた
草むらには
どうやら微熱の欠片が
カマキリの卵のように固まって
冬をやり過ごそうとしているらしい
わたしは昨夜見た夢を覚えていない
....
愛しいと綴らぬ代わり
速達で、と告げましょう
思い煩うこころに替えて
所在の分からぬ神様に
祈りましょう
微かに雪の匂いのする声は
幸福の理由に充分すぎて
零れる音色が
深 ....
軋む
一歩ごと
軋む
心ごと
逃げ込んだ森は
甘美な瀞が満ち
わたしは愛しい景色を
凍る爪先で犯してゆく
痛む
一言ごと
傷む
一夜ごと
明日を司る月が
昨日 ....
夢の無い画面の端に
流星群が見られると記されていた
濃紺に澄んだ空は
白い あるいは銀や朱に
闇を切り取られている
湿り気の残る髪が凍え
湯上りの匂いが後ずさりする
夜着 ....
聞き慣れぬメロディーが
不意に耳を訪れ
きみのケータイを発見せり
外出先で気付いたろうか
今の電話は急用かな
届けてほしいと言うだろか
どうしてくれよう
白いフレームが
こっち ....
どことなくストレス加減の昼休み
冷たい珈琲に浮かんだ氷を
ストローの先でつついたら
猫みみのかたちの小さな生きものが
ちょこりと顔を出した
頭痛の道連れに
こんな小粋な錯覚が訪れる ....
春までの道のりを
手探りするきみの指で
うたは束の間、白く結晶する
凍れる河と
色褪せた山並みと
特急列車の行方を挟み
わたしの前で野分の一陣はわらう
今日も約束の書けぬ手紙 ....
不意に訪れる眩暈のなかで
わたしの奥から
声 でも うた でもない 音 がする
無意識に産み落とした空のタマゴは
曇りの日に次々と孵化し
電子の情報に
右脳と神経を肥大させては
....
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