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それは
頑なな蕾
慈しみの雨にも
きららの陽射しにも
咲かずにあり
ひっそりと
花弁の色を思案している
いつかきみの唇 触れて
眠れる森の姫のごと
ゆっくり ....
幾重もの等圧線の下で
雪虫たちは急いて冬を配り
息を白くするあしたは
ドアの外で待っている
羽根のように
踊り
うたう
白のひとひらは冬の鱗
北のまちでは
夏の半分と
秋は ....
柿の実色に日は暮れて
通学路に残ったチョークの○も滲む頃
街中の電線にたわむ百舌たちは
嬉々 嬉々と啼いて安堵する
それを羨む秋の傍らで
きみに書きあぐねている手紙は
お決まりの挨 ....
秋時計の振り子は密やかに
行きつ 戻りつ
たった一人の呼吸では
遮るものがない
少しずつ白くなり始めた町で
掌にほうっと暖をくれるのは
燃料のぎっしり詰まったストーブではなく
ほんの ....
わたしの空より
青い青いその先に
あなたの見ている空がある
夏から二ヵ月毎のカレンダーを剥がして
こころの奥まで秋が染みた日
それぞれの手に触れる温もりは
少し哀しい距離感 ....
薄暗い廊下の突き当たり
古い鍵を回せば
きらきらと埃が舞うだけの部屋
東のカーテンは色褪せ
ピアノの音色は床に転がって
ソナチネの楽譜も気付かぬふり
窓の外には
金木犀がほろろ零 ....
空が灰色クレヨンの日
風邪をひいた詩人はゆめゆめ思った
詩人たるもの
移ろう季節を誰より早く
探して言葉にしなくちゃいけない
詩人たるもの
少しはむつかしい漢字くらい
す ....
上りの通過列車が
雨上がりのプラットホームを過り
色褪せたベンチの水滴を
さらってゆく
少し欠けた白線と
凸凹黄色のタイルは
きっと黙って
それを見ている
プラットホー ....
赤錆の目立つ時刻表のバス停に立ち
来るか来ないかの
微妙な時刻にバスを待ってみた
進路の前にバスは無い
順路の後ろに気配も無い
行く先も馴染みの無い駅の
名前の書かれた ....
わたし、という曲線を
無謀な指が
掌が
少しの優しさも無くなぞる
書院窓の向うでは
秋の長夜の鈴虫が
交尾の羽音で月の影絵を滲ませて
こっちにきて
こっちにきて、と ....
寂しがりやの人格は
寂しさを乗り越えるためのもの
生まれてきた日
愛に溢れていたことを
ただ思い出すだけ
臆病な人格は
おそれに立ち向かうためのもの
小さな手足をして ....
まるで他人行儀な
挨拶で書き始めたのは
あなたの選んだ便箋が
何だか照れ臭く
上目遣いにさせたから
感情を露にせずとも
温かな文となるようしたためたい
そんな課題 ....
街の中で
伝説の少女は
鴎と一緒に銅像となって
海を見つめている
その光景は
通り過ぎた夢のようにも見えた
今度同じ夢に会ったら
きちんと名前を付けて
....
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