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長らえてふと懐かしい部屋の壁
月曜日、仏壇に蝿が来ている
ひとつだけ秋空に乞う生きる意味
鬱の字で冷えたカルテを陽が包む
詩や歌と同じ濃度の息を吸う
....
父の祈り母に添いたる秋の夜
秋を見て父を見てただ心静けき
送りまぜ今日はかくやと嘆きおり
父の背に後の月を見し夕間暮れ
十六夜の月は空にはとどまらず
数珠玉を見ずとも秋は深行けり
紅葉葉の落ちるはいずこ思い出か
栗を刈る季節をひとつ通り過ぎ
三日月にぶら下がるのはネックレス
眠りのなか秋の色にわたしも染む
薄紅葉家の庭にもあったっけな
惚けてはうつつに帰る秋の昼
母の味欠けていたのは椎茸や
そぞろ寒戸外に出るも少し震え
果てしない夜中にまんじりともせず目覚め
秋の朝見上げる ....
わたりたり雁の旅路はせつなくも
涙もてただ拝顔すべし秋の田を
心を晴らす種はいずこへ秋の空
牛蒡引く手も借りたしや忙しなく
秋空に思い叶わず暮れるまま
冷たいと思わず手を ....
秋雨となりて思いは空に浮かび
留飲を下げて南へ鷹渡る
悲しみに溶けない氷はどこにもなく
どんぐりの転びて惑うわがしるべ
悲しみも秋の宵には消え果てて
木犀の海に沈むは思い ....
青き時宵闇に秋葉溶け込んで
身に染むや孤独の病時経ちて
泣きたくて秋の夜には涙の雨
秋の朝しらじらと明け身震いし
柿の実や生らずになってもう幾年
葡萄の実母の位牌にささげ ....
ふと迷いふと振り返り秋の宵
秋高し目の奥にあるおとぎの国
歳時記をめくって今日も秋は澄む
菊の花人それぞれに花それぞれ
思い出を遠くに手繰る秋の初風
ましら酒自然の奥深さ ....
ひよどりの姿を見ては振り向いて
痛みを越えセイタカアワダチソウを見る
眠れぬ夜アメリーの乳房と人は言い
あとは打つだけの稲田で緘黙し
秋の田や眠れぬ夜に沈みゆく
流れ星星 ....
形見なるコートをはおる日も間近
月見酒沈黙だけが支配して
明日を思う今日これからの神無月
秋と言う幻想を越えただ歩む
秋月夜孤独と思うは一人のみか
酒を酌み己を見つめるこ ....
里芋を好む父のため遠出して
神無月流転流転とただ唱え
秋の{ルビ湖=うみ}今年もまた白鳥は来るのか
悲しみは秋の代名詞とは言えず
銀杏散り舗道は黄色{ルビ一色=ひといろ}にて
....
鎌倉の改札秋寒し
泥水のような缶コーヒー話しかけても答えない
秋の雨歩けば歩くほど薄れる意識
秋の雷存在はだんだんほどけて消える
七里ヶ浜欲しくもないものを欲しがっている
....
暮れなずむ秋の夕べに星一つ
露と消え悩みもどこかへ流されて
あけびの実今は亡き母とともに
名月を見ずとも時は過ぎにけり
雨また雨と見るうちに変わる秋の色
望月の過去は思い ....
新しい{ルビ朝=あした}は秋に降り立ちて
思わずとも秋澄む庭に小鳥たち
とがりとがり音立ててなお秋の宵
誓いとはいかなる意味ぞ身に染むる
秋深くつるべ落としの夕暮れに
齟 ....
思い出を遠くに越えて曼殊沙華
ふり帰る道もなくまた秋に落つ
秋遍路憧れという迷い路に
馬肥ゆる秋とは言えど痩身にて
夢見がち秋の蝶に明日を追い
めくるめく思いを秋明菊に寄 ....
流れ星今年はひとつも見ずにいて
秋の田や国道沿いに実る穂に
雁の鳴く屋根の上には目をやりて
月の雨雲隠れせず晴れていよ
雨の月かんかん照りで名に負わず
鈴虫に願いをかけて ....
すべての人が免れ得ないのは孤独
バス停のそばに人々が釣りをする沼
だから一人でいる
秋渇き昨日すら忘れた
愛の空虚さよ空虚さこそ愛
秋の宵わたしは響くか
悲しくて此の花咲くや秋桜
悲しみや月代を追う人の群れ
泣いてもなお明日には咲く秋桜
爽やかにコーヒーを飲み黙考す
信頼は秋の夕べに訪れて
きりぎりす泣いても良いよ過去は過 ....
われからに過去の思いで時に秘め
思い出を心に刻む曼殊沙華
秋日傘差しても日焼けは避けきれず
三日月や見つめる我は遠くに失せ
秋の宵父は晩酌ひとり静か
虫の声を聴いて眠るは ....
寝起きは夜中でもまぶしく
かたちがある白桃
出れば開けた土地に霧
秋気は強烈な感情しかしわたしのではない
他人にも自分にも向かわなければ天に向く
朦朧さではない秋の意識の ....
星月夜あけぼのに見し夢希望
見える見るあいだを越えて星月夜
鶏頭のこころ隠して時は過ぎ
雨月かなそぞろに惟う過去の音
コスモスや失われても追う月日
眠る時律の調べに身を寄 ....
繋ぎ蜻蛉の哀しみ憐れ 雨上がりの水溜り 白き車のボンネット
吊籠や秋に落として星を見て
十六夜扉を開けて涼し風
きりぎりす鳴くは務めか語らいか
突然の驟雨に惑う飽きの秋
長い夜記憶の底に留めれば
長月のそぞろ夕べに浮き沈み
曖昧な横顔秋の海
社会の腕力から逃れて逃れて秋めく
階下に運ぶ珈琲のように長い時間をこぼした
それぞれの孤独を持ち寄って孤独なままでいる
空が斜め渡り鳥
秋の水夢は記憶を問い質す
初風や意識は速く存在は遅く
秋は存在の季節蚯蚓鳴く
インドネシアの少数言語送りまぜ
夕焼けが一瞬目を覚ます
秋めく何も変わっていない
おさなごのような秋意のために出てあるく
飛ぶ虫は無機物秋の川は生き物
鳥威じぶんがむなしいならひともまたむなしい
{ルビ大人=たいじん}のような野霧
おりる光のぼる光とどまる光 ....
空ただしさは病んでいるが澄みやかだ
夏の果駅を出て前にばかり広がっていく距離
南薫過去は記憶のなかだけのものか
ひとりであることなどできないかのような夕焼け
暑さテレビに人格を感じている
扇風機意識の濃度が回っている
瓶ラムネいまここを自分であることを望んでいるつもり
晩夏ふいに目覚めた夜がいちばん澄んだ時間である
宵闇に吸い込まれてゆく花花火
秋雨のしのしのと耐えるばかり
にぎわいを求めて集う秋の雲
小ぬか雨痛みを閉じてひたに降る
宵闇に問いを重ねる神無月
夜が明けて五月の靴はおろしたて
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