今できないことは
昨日が持って行ったこと

原野に広がる記憶の扉が
ひとつずつ倒れていく

手を結んだはずの言葉たち
千切れ闇に飲み込まれる

飛び立った蝶々は
行方を失い虚空を舞 ....
息荒く手綱に寄り添うように
突き出した舌を滴らせ
瞳は年月の重みにやつれ潤む

毛並みの乱れた脚を引きずり
鼻面を大地に擦り寄せて
足元に映る錆びた自分を追う

立ち止まった彼には落陽 ....
たった今生まれたかのようだ
突然目の前の視界が開けた

病室では看護師たちが忙しそうに動く
時刻を尋ねると夜の7時半
7時半か…心でぼんやり呟いた

 朝8時半に徒歩で病室を出た
 手 ....
海が果てまで引いてしまった砂浜で
音が空白に吸い込まれてしまった砂浜で
命が香りを流され尽くしてしまった砂浜で

呼ばれてもいない
道化師がひとり
断絶から浮かび出る

世の中から剥が ....
其処程には
私の死体がいるはずだ
同時に生まれてる

其処程は
空より広く海より深い
死体は時間の階段を昇る

其処程とは
もう横町を曲がったあたり

私と抱き合った瞬間
彼は ....
テレビのわたしが
わたしと主張する
なんだとお
見ているのもわたし
わたしだ

二人称三人称など
ついでに言うと一人称も
何処にもないない
あるのはわたし
わたしだ

わたしの ....
 【問答相撲】
健康は命の付属品ではない
生写しではあるが別の生き物だ
今日も飛び去ろうとしてタックルした
顔を洗えば鏡に逃げ込むかもしれない
醜態を晒しても命ある限りか
尊厳を保ててこそ ....
何回
風や雨に身も心も
晒され削られただろう

何回
壁や木に火花散らし
気絶し殴られただろう

何回
靴や石にギリギリ
踏み潰され続けただろう

無限ではない
数えられない ....
視界の先
点滅する赤信号
落ちていく雨粒たちが光る

黒い道路に飛沫が跳ね
倒れ無残に横たわる傘
ライトに無言の姿を晒す

タイヤは容赦なく泥を投げ
道路の闇へと消えていく

も ....
壁を叩いて何でも喋れ
と耳を当ててみたが

押入の二段目に上がって
寝そべってみたが

時計を裏返しにして
息を吹きかけてみたが

鍵括弧の付いている
ここだけの話だらけが

 ....

卒塔婆を飾る花は何を思う
墓石の影に折り重なり寄り添う人々
7年前の貴方13年前の貴男だろうか
歳月は姿なく容赦なく降り積もる
人々はもうすっかり汚れてしまって
絢爛に咲き誇る花々は一 ....
果てしない天海
月は彷徨う
青白い光が染めて

時間の滴をまとい
徐に揺れる波間

海鳴りは語りかけ
吐息が寄り添う

砂浜にひざまずき
一粒一粒を愛でて

ふたりだけの砂の ....
その夜私は心地良さに誘われ近くの公園をぶらついた
二十歳になったばかりだった

奥まった先のベンチには品の良い老人がひとり
横に立つ街灯の光に暗闇からほんのり浮かんでいる

よく見ると少し ....
青く照らされた砂浜に
微かに残した面影は

君が海へ帰る時

足跡は波間に消えて
涙だけが満ちてくる

「私を探さないで」
砕けた波飛沫は呟いた

寄せては帰る海の鼓動
君への ....
森は茫然と立っている
差し込む陽射しに年老いた裸身を晒す

来る日来る日は雑然と降り積もるもの
過ぎ去った日々だけが温かい寝床だ

森に佇む独りぼっちの木々たち
無表情に見合いながら黙り ....
<ある夜に>
安らぎとは無関係な温かい鎖が静止の糸を引く
生煮えの記憶が歌いずるずる亀裂が揺れる
左耳から右耳へ爆音が通り闇は大きく息を吐く

<鳩が一羽>
鳩が四 ....
硬い言葉より柔らかい言葉を掘りたい
怖い言葉より優しい言葉と握手したい

たった今昨日を片付けてきたところだ
荘厳に鳴り響く十二の鐘が埋葬する
そして何気なく今日となった明日に袖を通す

 ....

過去は戻らない
記憶を終の住まいとする
過去は消えない
静寂と闇に同化して忍び寄る
それはまるで不治の病であるかのように
後悔と苦痛を与え続けるためのかのように


柳は優しい ....
そのとき
時間という観念が
背後から消えていた

理由は知っていたが
理由という言葉ではなかった

歩くという足の動きは
私自身なのだろうか

蠢くものや湧き出すもの
がズリズリ ....
私たちは今という瞬間に生きている

今という瞬間にしか生きられない

今という瞬間は常に死んでいく

私たちは今という瞬間に死んでいく

今という瞬間にしか死ねない

今という瞬間 ....
口元から読経がながれる
もの言わず燃えたぎる焼き場にて
圧倒的なあの世が降りてくる

惜別をぶち抜く感情のほとばしり
わなわなと肩が共鳴する後ろ姿
人目を払いのけ崩れ落ちる黒影

命に ....
手綱に導かれながらよろめく
いつの間にか鉛の靴を履いた

老いに削られ痩せ衰えた体
荒々しい息が吐き出される

ひとつひとつ生まれる幻影
熟さず霧散する己を舌で追う

間もなく土に帰 ....
立ち寄った風に
何処に行くのか尋ねた

風はそれには答えず
貴方は何処に行くのか尋ねた

何処にも行かないよ
と私は口ごもった

全くの戯言だと
中途で気付いたからだ

風は別 ....
昼も夜もない屋敷に独りの老人が住んでいる。
彼は日めくりカレンダーと唯一の会話をする。
愛くるしい動物や癒しの風景が語りかけてくる。
そんな彼が穏やかに息絶えていた。
今日見つかった時はもう腐 ....
風に振り回され
壁にぶち当たり
人に踏まれ続け
雨にびしょ濡れ

僕は誰にも読まれない詩

優しいおばさんが
ぐちゃぐちゃの僕を拾うと
めんどくさそうに広げ
外れた鼻眼鏡で
じー ....
脳界で繰り返される感情のバトルロイヤル
ここのところ悲しみのトロフィーでいっぱいだ
私は支配することができず支配されている
悲しみの赴くままにペンを走らせたが

描いた悲しみは悲しみではなか ....
【街景】
感覚というものに訴えたのは
騒めきの嵐
取り留めのない言葉の流れ
舞い上げられた人間の叫び
雑踏とした街並に咲く
毒づいた偽りの花
もう震え上がった真実を
覆い隠す暇は無い
 ....
去る者は追わない

留まることも知らない

たとえ自己であっても

心の空白は埋めない

ただ眺めるのみ

朽ち果てた窓辺に

降って行く証しに

行き着く叫びは無い

 ....
【人間になれなかった】
人間になれなかった
野原をひたすらつんのめり
海原を懸命に切り裂いた
だが
人間になれなかった
人間はずっと向こうにある
どこを走ったのか
どこを泳いだのか
 ....
行き先のないお前の虚像
とどまることを知らない水
不器用に溢れるのを忘れて
拒絶された命の河に埋もれる

沈んだ肌を撫で
冷たい手を取り出す
無数のお前が揺らめき
苦しみと愛しさを唱う ....
宣井龍人(52)
タイトル カテゴリ Point 日付
悲しい旅人(改訂)自由詩6*22/5/24 20:59
老犬(改訂)自由詩3*22/5/24 20:59
手術した夜に自由詩7*22/5/13 22:51
道化師自由詩4*22/5/5 16:30
背中自由詩12*22/5/2 23:19
わたしか?自由詩4*22/5/2 23:18
即興小詩の集い自由詩5*22/4/12 21:32
何のために自由詩4*22/1/15 23:15
自由詩6*22/1/1 0:20
ここだけの話自由詩10*21/12/29 18:01
お彼岸自由詩6*21/8/26 23:41
月夜の夢自由詩7*21/6/17 23:10
ある晴れた日に自由詩6*21/6/11 0:08
海へ帰る自由詩9*21/6/3 23:54
不可逆の森自由詩10*21/5/19 21:22
即席詩の集い自由詩6*21/4/11 20:59
イメージの散らばり自由詩11*21/4/8 20:43
いくつかの即席詩自由詩4*21/4/7 11:58
自由詩10*21/3/30 11:33
今という瞬間自由詩5*21/3/26 14:43
焼き場にて(改訂版)自由詩10*21/3/9 20:44
老犬自由詩16*21/3/4 21:12
風に尋ねて自由詩10*21/2/23 21:01
死めくり自由詩9*21/2/9 21:53
紙屑自由詩14*20/12/8 11:50
悲しみ自由詩5*17/7/14 12:31
青春の小道(小詩集)自由詩4*17/6/17 11:35
心が震えて自由詩5*17/6/6 10:15
青春の記憶(小詩集)自由詩14*17/5/4 12:19
命の河自由詩6*17/4/15 8:46

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