木々が襟を立てて拒む間
風は歌わない
先を案じてざわざわと
意味のないお喋りを始めるのは木
いつしか言葉も枯れ果てて
幻のように消えてしまう
すっかり裸になると
しなやかに 風は切られて ....
白い羽根のような雲がゆっくりとほどけ
ひとつの比喩が影を失う
意味からやっと自由になった娘らを
解釈は再び鍵をかけ閉じ込めようとする


ああ自己愛
鏡の中にしか咲かない薔薇よ
瑞々し ....
影かすめ
   ふり返り  だれも


――夏よ
荒ぶる生の飽食に晒された{ルビ石女=うまずめ}よ
あの高く流れる河を渡る前に
刺せ わたしを
最後に残った一片の閃光をいま
仰向けに ....
まだ強い日差しを俯く花のように
白い帽子で受けながら
歩道の向こう
小柄な婦人が歩いている
ゆれるバッグの中で
小さな鈴が歌っている
{引用=――しゃらん しゃららん}
たったひとりの{ ....
{ルビ蛇=わたし}は脱皮した
相変わらず{ルビ蛇=わたし}のままだったが
少しだけ清々しい
肌感覚で世界を捉えている


かつて外界と接し敏感に反応した
主観的感覚と一体だったものが
 ....
最初とりとめもなく
かわいた歩道にうずくまる影を
そっと押さえただけ
絵本の中の魚を捉えた
子猫の白い前足のように
半眼で
光の粒の粗い朝だった

明けきらぬ森の外れ
木漏れる光にふ ....
  乱雑に積まれた古本の階段をうっかりと
 踏み外して雪崩る時間
目眩き
感光した 
 若き夏の日の窓辺
   白く濁る波の音 
         瞑り流されて
     大好きだった  ....
雨色の絵具
乾かない涙と癒されない傷のために
散り果てた夏の野の花を
鎮魂に疲れ果てた大地へ捧げる
生者の燃え盛る煉獄へ
死者を捉えて離さない
空砲の宣言と
紙で織られた翼のために
憤 ....
キーボードの上で
テントウムシが{ルビ触覚=おぐし}を直している
ENTERの右の
7HOMEと8←との間
溝にハマった姿勢だが
寛いでいるようにしか見えない

{引用=どこから とか
 ....
海は想う
 「わたしを包み込むこの方は誰?
 凪いだわたしを優しく撫で
 荒れ狂っても受け止めてくれるこの方は


空は想う
 「ちょいと撫でりゃこの通り
 吐息一つで身をよじりやがる ....
真昼の光の深層
魚のような身のこなし
リズムゆらめく角度から
乾いた{ルビ鼓膜=スネア}くすぐるブラシ


目蓋の裏を青く引っ掻いて
一匹の夜が踊り出す
はだけた胸
地を蹴るつま先  ....
白い蝶 光の眩暈
追って追われて
追われて逃げて
見えない糸が絡んだように
もつれてはなれ
はなれてもつれ
火照った空気に乗っかって
この夏の向こうへ


恋と憎しみは良く似ている ....
{引用=*名を呼ぶ}
名を呼ぶ
ここにいないあなたの
井戸へ放った小石のように
真中深く 微かに響き
瞑っても
抱き寄せることはできず 
こみ上げる揺らめきの 
糖衣はすぐに消えて
 ....
炎天下
  暗転する

極めて正直な
光の圧に屈服

発汗 溶解した エロチシズム

レイバンをかけたロダン
    考えない人たち

        薬指に カラスアゲハ
  ....
Venus flytrap
抱擁から解き放つと
――心臓から飲まれていたのはわたし
黒い孔雀は飛び去った
眼差しの影ひとつ 
落とすこともなく 
時の支流が無数に重なり合う彼方へ
ひとつ ....
つかみどころのない臓器
痛みはあっても在処のない

つるりと気取った陶器
来客用もちゃんとある

すきま風の絶えないあばら屋
震えている いつからここで

過敏すぎる 肉を削いで裏返 ....
滲む濃紺のシルエット
おくれ毛ぬれたその耳を塞いで
いたのは 誰の声だったのか

小さな手から逃げ出した
風船は 空いっぱいにふくらんで 
音もなく 破裂した 大人びて寂しい

始まり ....
夕日が朝日へ生まれ変わるように
死は生と生のはざまの休息だった

あと少し もう少し
満ち足りて安らかに

しなやかで純粋な生の欲求
飼いならされて往くプロセスで

ただ月や星の光が ....
書き連ねたその名が
細波となって 寄せては返す
好きだ 好きだと 漏らした声
海に降る雪 静かに跡もなく


わたしは溶岩
死火山の 抜き盗られた{ルビ腸=はらわた}
灰の伝道者だった ....
死の天使は軽妙がいい
悲壮は生にこそ相応しい
諦めもある一線を越えれば解放だ
概念だけの救いなんて幽霊にも劣る


仔犬のように震えている
不安の口に手を突っ込んで
ズルリっと裏返し  ....
{引用=*小樽カントリークラブ}

空は灰 まだらに吠え
泥めく海 見渡すかぎりの獣
分厚い風を羽織り
霧雨でぬれた頬
それでもゴルフ
おそらく
たぶん
見るからに
上手くはない老 ....
この糸のほつれをそっと咥えて
赤錆びた握り鋏はその蓮の手の中――
信仰と諦念の{ルビ臺=うてな}に眠る 享年「  」


景色の皮膚を剥がした 
耳は遠く
階段を上り下る 
橙色の帽子 ....
青い裂果 
   光の手中に墜ち


さえずる鳥 ついばむ鳥
文字へと変ずるか 黒く蟻を纏って


大気に溶けだす肉体は祈り
小さな動物の頭蓋のよう
未満の種子 生を宿すこともなく ....
  ――水脈を捉え ひとつの
薬湯のように甘く
 饐えて 人臭い
       廃物の精液  
            輸入された
どれだけ銭を洗っても
どれだけ子を流しても
      ....
風のグリッサンド
娘たちのうなじ
蜜蜂の囁きと遠い銃声
耳の奥 深く 深く


雨のアルペジオ
素早い波紋のダンス
生まれ 出会い 干渉しあう
飛べなくなった蜜蜂は冷たい


 ....
その美の真中に隠された荒野に
どうか 花ひとつ
植えるだけの土地を譲ってくれませんか

血の滲んだ足を隠して走り続ける旅路のどこか
ほんの一歩か二歩
見守る場所を許してほしいのです

 ....
{引用=どうかあなたという揺るぎない現実に対して
絵空事のような恋情を描くわたしを許して下さい
これらの時代錯誤で大げさな言い回しは
詩人気取りの馬鹿な田舎者がそれでも言葉だけ
精一杯めかし込 ....
生まれ持ったもの 遺伝だろうか
あるいは環境 日陰育ちなのか

わたしの扱い方が悪かったのか
つい荒々しく掴み 力任せに――

その瑞々しさとは裏腹 なんという辛口!
泣いているのは わ ....
がらんどう
でなけりゃ鳴らない
灯りはいらない
隙間から射し込む程度
《{ルビ外面=そとづら}はいつだって焼かれているさ
がらんどうで
鳴かねばなるまい


万華鏡を回す要領
青白 ....
透明な何かがかすめた
それで十分
脳は甘く縺れる痛みの追い付けない衝撃に
砕かれ 失われ
死に物狂いで光を掴もうと
欠片たちは
凍結されることを望みながら
永久に解読不能
時間の延滞の ....
ただのみきや(993)
タイトル カテゴリ Point 日付
風の痛点自由詩18*17/9/6 20:03
さてどうしよう自由詩9*17/9/2 20:42
夏石女自由詩14*17/8/30 20:14
小さな鈴自由詩13*17/8/26 19:01
脱皮自由詩10*17/8/23 21:41
半眼自由詩8*17/8/19 20:20
ある感覚の喪失自由詩4*17/8/16 12:24
生者の鎮魂自由詩11*17/8/14 18:00
真夏の夜の夢の手前自由詩13*17/8/12 18:30
じっあーつ自由詩9*17/8/9 20:00
リズム自由詩6*17/8/5 20:05
去来蝶自由詩13*17/8/2 20:00
おかし詰め合わせ自由詩18*17/7/29 20:22
この夏へ捧げる自由詩9*17/7/26 21:25
女神の抱擁自由詩4*17/7/22 21:40
こころ自由詩10*17/7/19 18:13
暮れないまま自由詩16*17/7/15 20:34
混血神話自由詩4*17/7/12 20:50
忘我のプラトニック自由詩12*17/7/8 19:26
絵ソラシドう?自由詩3*17/7/5 21:03
海辺のカソカ自由詩7*17/7/1 20:53
秘密のラッコ隊自由詩9*17/6/28 21:51
青い裂果自由詩16*17/6/24 13:44
世代論自由詩16*17/6/21 21:30
六月と手口自由詩8*17/6/17 13:49
花ひとつ分の土地自由詩13*17/6/14 19:41
ミューズへの恋文自由詩9*17/6/10 14:40
白いふくらはぎ自由詩8*17/6/7 18:26
がらんどう自由詩13*17/6/3 21:23
スティグマティクス自由詩11*17/5/31 20:40

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