透明な身体からひとすじの血が流れ
その血は歩き出す
煙のしぐさで ふと立ちどまり
頬杖をつく 女のように男のように

見るという行為が人を鏡にする
歪んだ複製を身ごもり続けることを「知る」 ....
{引用=水に溶ける道化師}
 あの尻に開いた窓との間に
雨の幕
 ブロック塀を上手から下手へ
  一羽のスズメ 
   踊る小娘
米を撒く
   無礼千万
豆も撒く
   満員御礼
 ....
手持ち無沙汰に膝にのせ
撫でたのは 猫でなく
ことば以前のなにか
死者からの便りのように
ふとカーテンをはらませて
沸騰する
静けさに
肌をそばだてながら
缶ビールの残りを一気に飲み干 ....
一房の秘密が落ちていた
甘くぬかるんだ午後の与太話の上
なんの理由も縫い付けられないまま
傷も見当たらずまだ温もりを感じさせる
カワセミの骸のように
掌でそっと包みたくなるような
それでい ....
言葉の仮面をつけて
詩のようななにかが四肢を点滅させる
素足の子供らが光と影をくぐり抜けて
遠い落日へ吸い込まれてゆく
記憶の感光 夏に燃やされる手紙の束

{引用=*}
夜を転がるビー ....
露にたわんだ蜘蛛の巣を吐息まじりの言葉でゆらす

肺の風琴 あばらの木琴
こころの洞に張られた弦に
触れるようで触れないような
白い蝶がふわふわと

先細る意識の果てに向日葵の燃えさかる ....
皇女は嵐を飼っていた
嵐は乳房に纏わっていた

どこからか瑠璃色のヤンマが静かに
目交いにとどまっている

まやかしのような口元が匂う

大路を抜けて山へと折れる道
狂わす水がいざな ....
鍵のない耳奥に
埋葬された子どもたち

老いた風鈴の乾いた表層から
剥がれ落ちる沈黙の音韻
つめたい水面を渡る巡礼
つかみ損ねて溺れてしまう
耳目は濃い光と影に

大気の心臓は屏風の ....
ひとつの自分が
無数の綿毛に変わる
わたしは消失し
野にある数多の物語となる


 未来から過去へとすり抜けた
 あなたはわずかな時間だった
こうして記憶は一瞬を一生にし
わたしだけ ....
{引用=自戒/自壊}
集中するな 散漫になれ
強すぎる日差しにまどろむ植物のように
むき出しの感覚を微笑みのように裏返し
光の木霊から剥離した虹の鱗に映り込む
おまえの失語を速写せよ

 ....
ひとつの声が磔にされた
影が七つ震えていた
見つめるだけで魚の群れを孕み
蒼いシーツをまとって巻貝を奥へと遡るひと
血を流す鍾乳石
鏡自身の顔 
その微笑み
宝石箱に喰われた指
そのク ....
{引用=幸福感}
空は絶望的に高く
駆けあがれる限界を超えて
戯れる黒い手紙たち
光は全てを晒し出すことで
わたしたちを盲信させる

記号あるいは仮面を外して
砂埃と化した男が
なお ....
{引用=眩暈と共に溶け出してゆく人生}
掌には四月の切れ端
黄金の週は鉛色の空の下
薄紅の花びらが前を横切って行く
時間は夜から型崩れを起こし
意識はカタツムリのよう
低く低く底を這ってい ....
{引用=他人の勧め}
すべて他人
それがいい
他人にはやさしく
他人には親切に
甘えず礼儀正しく
家族恋人友達
いらないなにも
欲しくない
世界は他人
旅人のように
景色の片隅に ....
{引用=鳥たちよ}
ヒヨドリが鳴いた
喉を裂くような声で
天のどこかを引っ掻いた
それでも皺ひとつ寄らず
風の布は青くたゆたい
樹々の新芽を愛撫するが
ささやき返す葉はまだない

公 ....
{引用=ヴィーナスの骨格標本}
ぼんやりした横顔に秘密がひとつ擬態する

ぼくは夢に絡まったままコーヒー自殺を図った

飛行機に乗る人とよく目が合う朝

青く濁った空の吐瀉物からなにを紡 ....
{引用=ラブソング}
ひとつの風景の前に立つ
触れそうで触れない
右の肩と左の肩
あなたはわたしの
わたしはあなたの
鏡像――大地の無意識から
掘り起こされた太古の心象
願望に歪みふく ....
{引用=老けてゆく天使}
明るい傷口だった
セックスはままごと遊び
片っぽ失くした手袋同士
始めから気にしなかった
一個の果実のような時間
なにも望まなかった
白痴のように受け入れて
 ....
{引用=カラスのギャロップ}
北国の春は犬連れでやって来る
ぬかるんだ地の上を
着物の裾を汚しながら遅れてやって来る
太陽は雌鶏
ぬかるみが半分乾いたころ目覚ましが鳴って
あとは忙しく吹い ....
{引用=フランス白粉}
エッフェル塔みたいに立っている
女の股を風がくぐり抜けた
いつも意図せずやって来る
自分の中の誰かが世界を刷新する





{引用=神の時計}
人は一個 ....
{引用=孤独という架空の質感}
脳の北半球を俯瞰して人魚を数えた
四を三つに切って酒瓶を左に折れる
鴎と散った手紙の風が結わえ損なったもの
互いの時間の屈折率
きみの脚が鎌首をもたげている
 ....
 *

燐寸一本の囁きで
秘密は燃えあがる
煙は歌い
香りは踊り
時間は灰に
わたしはおしゃべりに



 *

コンマ一秒で宇宙の果てにまで移動したかのよう
喪失の悲しみ ....
{引用=水辺の仮庵}
月は閉じ
口琴の瞑る仕草に川の声
白むように羽ばたく肌の{ルビ音=ね}の
ふくらみこぼれる光は隠れ
ふれて乱れたこころの火の香
探る手をとり結んだ息に
ふりつむ{ル ....
{引用=転倒者}
氷の上を歩いて行く
遠い人影よ
鴉のようにも文字のようにも見える
視覚より内側でランプが照らした顔
ありきたりな片言の答えをかき混ぜる
ティースプーン 
濁った銀
だ ....
{引用=冬の髪の匂い}
雪の横顔には陰影がある
鳥は光の罠に気付かずに
恐れつつ魅せられる
歌声はとけて微かな塵
雪はいつも瞑ったまま
推し測れない沈黙は沈黙のまま
やがてとけ
かつて ....
{引用=衝突}
虚空をただひたすら遠く
時の道を踏み外すところまで
それとも落下
全ての存在の至るところ
深淵の 
真中の
針先で穿たれたような一点へ
そんな慣性のみの
生の旅路であ ....
{引用=まんざら}
空は頬を染め地の温もりを剥ぎ取った
黒々と虚空をかきむしる預言者たち
火を呼び下すこともなく炭化して
瞑る睫毛のように夜を引き寄せる

真昼の夢はいま落日にくべられる
 ....
{引用=暴走}
釣りの仕掛けで編み込んだ干し草の下から
濡れた小さな宇宙が瞬いて
一点の鋭い感覚の見返す素振りを隠匿する
穏やかな果実の陰影
光の脂粉ただよう傷口からは
食虫花の祈り
引 ....
{引用=ヨナクニサン}
大地の振り上げた鞭が三日月に絡んだ朝
重さを失くした新雪をふるい分けて這い出した
ヨナクニサンの群れ
マイナス8℃の空気をふるわせて厚い翅はゆらめく
縄文の焔 畏怖と ....
床暖房に腹ばいで熱燗を飲んでいる
外は激しい吹雪


絵の具の花の赤い一行が見えた
わたしの一番小さいマトリョシカは神隠しにあったまま
帰らない 
夜の袋にしまわれたまま
アカシアの棘 ....
ただのみきや(988)
タイトル カテゴリ Point 日付
解くことを諦めた知恵の輪が唯一の遺品だった自由詩1*22/7/23 16:38
遊泳禁止自由詩3*22/7/17 22:33
純粋遊戯自由詩2*22/7/10 15:49
きみの子午線をたどる旅自由詩1*22/7/2 14:02
ふるえる秒針自由詩2*22/6/26 13:58
白い蝶自由詩3*22/6/18 13:56
鬼女遠景/石と花自由詩4*22/6/11 12:13
野に咲く狂気自由詩022/6/5 13:48
蝶を咥えた猫自由詩1*22/5/28 14:55
時の落とし仔 地の逆仔自由詩1*22/5/22 13:21
鼓笛隊は反旗をひるがえす自由詩4*22/5/15 13:30
リアリストアリスの天国の肖像 その断面から自由詩022/5/8 15:11
砂金採り自由詩2*22/5/1 15:26
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言葉の煽情的ボディライン自由詩8*22/3/20 15:34
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ラジオ切腹自由詩2*22/2/12 15:41
ポケットには丸めた鼻紙だけのくせに自由詩5*22/2/5 15:25
泥棒する青空自由詩5*22/1/30 15:19
記号を嗅ぐ自由詩3*22/1/23 14:33
冬の嵐自由詩022/1/15 18:28
まずは釘で傷をつけてから自由詩4*22/1/9 13:37
火傷と神隠し自由詩4*22/1/2 13:30

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