僕と君はただの点なんじゃないかと
よく晴れた三月の駐車場に僕は立っていて
電話で君相手にそう言ってみて
銀行員の運転する車が入ってきた
銀色の車体に青色を流して
僕の腰から下も映って ....
ショートケーキひとつ
落ちていく
月夜の道に
落下する
やわらかな音
聞こえない
苺がひとつ転がった
外れてとれて痛んでる
暴風通ってまた転がり
赤い
実の
白い
いち ....
今朝春らしいものが突然に
額に寝汗として現れぼくはそのために頭が重い
ぐっしょりと水を含んだようだ
重たい頭はぼくをふらふらと外へと向かわせ
安普請のとびらを体の重みで押しあけ ....
バスの窓が煤けて、町を映し続けている 六十キロ
断続して、町の輪郭として、区切られているビルは、断続して
ビルとビルの隙間の半分には、雑誌と暗闇と雨水がともり
上半分には、ただそこに ....
回る理由もわからないまま母体は回り
僕を孕み生み、落とした
知らないよこんなところは
なんだ、 この鉤裂きは
ある朝目を覚ました
父親が死んだ
ひとしきり遊んで帰った
....
澱んだ町にいる
それは川底だっていい
俺は黒い汚らしい鯉の鱗でいい
どろりとしたみずのなかから輝く鏡の水面を覗く
そこに汚れた気泡を吐きちいさなとてもちいさな波紋だけを浮かべる ....
薄い太陽の光が、背の低いビル群を淡く照らし、それは平面的なまぼろしとなって私の脳裏に像を結んだ。私は幹線道路をはしる車たちの巻き起こす、いがらっぽい風に顔をしかめながら、長い橋の上で人を待っている。た ....
いま銀縁の壁掛け時計に蠅がとまり
文字盤を透かしたガラスの上を音もなくあるくまず12から
2
1
鉄の壁が溶ける
溶けて落ちてすべて床に染み込んだ
夕暮れだった
聖人がひとり ....
人が死んでゆく
人が死んでゆくって
簡単に人は死んでゆくって
永久歯も生えそろった頃に思った
だってかんたんに死んでいったから
永久歯って何だ
かんたんに抜けた
歯科医が軽く抜くよ
....
今朝この星で
産声を上げたばかりの
「完全」ないきものが
生まれた傍から言い伝えどおり{ルビ半身=はんしん}ずつに引き裂かれ
それぞれ渡り鳥に渡されて
島のうえ
西と東に
千年歴史を遡行 ....
たとえば
晴天で
海沿い
海岸線
僕はモーターサイクルで
あなたは一艘の舟
並行して走る
僕は大陸を飛び跳ねるが
海原に出られない
あなたは七つの海を越えられるが
陸では乾いてしま ....
池にホースが浮かんでる
死んだ蛇みたい
そこに小鳥が二羽とまって
水草をついばんでる
それの起こす振動が
波紋をゆっくり広げてくよ
穏やかな音楽みたいなその響きは
....
雲は月を受胎して
ひどい{ルビ悪阻=つわり}に苦しんで
涙を流す
真冬の夜に雨が降る
真冬の夜に雨が降りしきり
町は{ルビ水浸=みずびた}し
大粒の雨は道路に幾千粒幾億粒も叩きつけ ....
さいきんよく遊んでもらっている猫がいて
その人をみていてわかったのだが
猫ってわらうんですね
で
その表情は
じつにうれしそうというか
なにもできんくせにとくいげと ....
その少年は無垢なようでいて
染まっているまたは染めあげられている
もうずっと前に
そうだこの子の歯が三十二本あたらしく
生えそろった頃に
俺はあの
沢山の水とほんの少量の油を入れたでか ....
あめあめあめ
あめによって
あめのなか
すべりころんで
撥ねっ返りの放物線
オレンジ街灯に透けた
地面に仰向け
ぼんやりと見る
背中は水浸し
放射線状に降りしきる
....
曇天より雨粒が落ちる
空中でその一粒はふるえたわみゆがみ散り
ながい無重力感に沸き立って落ちる
ふとかたわらをみれば
そこここに
ふるえる塊
ふるえる塊
ふるえる塊
塵芥混じりの水滴
....
桜の花びらが散り
グラウンド沿いにつくられた遊歩道に降り積もる
つよい風が吹いて
目を瞑るしかなくて
吹き飛ばして
恐る恐る目を開けると
視界いっぱいに花びらが激し ....
文化村通りを
僕は歩く
散開する人々
人々
人々
人々の群のなかを
自分を縫いつけるように
錯綜して
目的は
失せもの
探しもの
買い ....
車は走る。
酒などなめる程度にしか口にしていないのに、なぜか疼痛があたまにしつこくこびりついている。
ウインカーの点滅音。
そのメトロノーム。運転手はハンドルを大きく右に切った。
ゆるや ....
心の中に一つの頑健で豪奢な台座をこしらえてある
それはいつ頃造ったものか忘れてしまったが
確かなことはその台座は心の中のどこよりも高くに設置したもので
僕という人間は多聞に洩れずあま ....
人生史上最高の味だ
と多方面から絶賛されていたカレーを食べに行った
確かにうまかったが実際それほどでもなかった
ぼくらはまた放り出されて
そのまま旅行へでかけた
....
街灯で出来た僕の影を、後ろから出てきた新しい僕の影が追いかけ、でもけして追い越すことが出来ないでいるのを見ながら、僕はオレンジ色の夜道を歩いていた。
家までの道のりを歩いてきてここまで何分くらいの時 ....
動物園通りっての繁華街の中にあって
ちゃちなアーチに書かれてる
この通りの中には
きっと
けもののような夜に流されたおっさんたちがひしめきあって
わさわさ
わさわさ ....
僕が川面に平坦な表情を映して
都会の水は緑色してて、細かい、本当に細かい小さなたくさんの滓を
とかしこんで
混ぜ込んで
漂わせて
気が向いたらめちゃくちゃに掻き回している ....
僕は
ここに居ただけ
ここにそのまま居たい
この姿勢で
もたれて
この角度で
かすめ見て
そして
欠伸とかを
して
緑色のいっせんぶんのいち ....
12月に雨は
不意に止み
突然降り出し
しかし僕は夏のさなかとかわらず
鬱蒼とした森の奥の洞窟
その奥の方へ
ぼんやりと
歩く
黄色い毛並みの蜂蜜熊のよ ....
窓際に
置かれた
書棚
その窓はすりガラスで
鉄線が格子状にガラスの中に張り巡らされている窓で
北側の壁にはめ込まれている
僕の腰ぐらいの高さの書棚の上には
郵便物用の ....
冬が秋に流れ込むとき
夜に長い雨が降って
切れ味の鈍い刃物みたいなつめたさの水が
体と体の間に滔々と流れた
僕はとある地方都市の道の真ん中で生まれて
都市計画がめずらしく ....
亜熱帯
別世界
スコール
気狂いじみてるホンコンヤン
偽物の時計
黒土色の手のひらの中で時間を流し続けてる
屋根の壊れた二階建てバス
頭のてっぺんをかすめるネオンサインネオンサインネオン ....
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