菱形の額縁に入れておいた
つぶらな瞳をもつ心臓が
ある日 部屋からいなくなっていた
少しばかりそのあたりを探したけれど
見つからないので
仕方なくいったん部屋に戻って
お茶を飲んでいると
....
いちばん古い棟へとつづく渡り廊下は
いつもひっそりとしている
ことに雨の日には
この渡り廊下だけが離れて
雨降る宙の中に 浮かんでいるような気になる
《ここで語り合ったこと
《ここ ....
白くつめたい指が摘んだ菫の花束
破綻をつづけるイノセンス
誰にもわからない時を刻む時計
虹色に震えながら遊離してゆく旋律
救いの無いシナリオ
かすかに聴こえる古いオルゴール
のようなノスタ ....
君という雨に打たれて
私のあらゆる界面で
透明な細胞たちが
つぎつぎと覚醒してゆく
夏の朝
影に縁取られた街路
やわらかな緑の丘
乾いたプラットフォーム
きらめきに溢れた ....
灰緑の部屋で 私たちは
話をしている
天井や壁に貼りつけた
太陽や月や星たちを
そろそろ違う場所に
貼りかえようか と
私たちは長らく
この部屋に棲んでいる
いや あるいは
この ....
舞台の上に寝台
そこにひとつの意志が 表面に暈色をまとい
硬質な眠りを眠っている
舞台にはさまざまな役者が登場しまた去り
時に祭りのにぎやかさに溢れかえる
けれど意志は眠りつづけている
....
風は暗がりから吹く
私の影は滴りつづける
誰も居ない
かつて誰かが居たかもしれない
そのわずかな痕跡も
とうの昔に温度を失い
記憶を失い
頭上には黒い星座たち
ただ脳裏 ....
身のまわりのひとところが
なんだか前よりも
がらんとあかるくなった気がするのは
そこに虚無がひとつ
生まれていたためだった
私はいまだその大きさも輪郭もつかめず
いつかつかめる日がくるかど ....
場末の小さな店を出ると
もう真夜中のはずなのに
不思議とあたりは白っぽく明るい
街灯もひとつもともっていない
しかし明るいとはいえ太陽がないので
なんだか昼間とはちがった
さびしい明るさだ ....
壁を自在に移動する窓
持ち歩き可能な窓
心臓に取り付けるための窓
蜃気楼だけが見える窓
窓硝子に詩を書くための窓
叩き壊しても何度でも再生する窓
脱け出すためだけの窓
忍 ....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
僕の黒いノートの表紙に
ときどき
窓が出来ていることがある
その向こうで
君のかなしみが
淡い落下をいつまでもつづけている
(背景はいつも夏の
{ルビ誰彼時=たそがれどき}か
{ル ....
昨日は其処には無かった窓から
招待状を携えて
使者の使者があらわれた
見おろすと路上はすっかり{ルビ鈍色=にびいろ}の流動体と化していて
あちこちのビルの歪んだ非常階段に
コロスが点在してい ....
そしてオレは
其処から脱け出すために
時間をかけて 翼を造ったのだ
羽毛のかわりに 小さなナイフをたくさん繋ぎ合わせ
銀色に鋭く{ルビ煌=きらめ}く翼を造ったのだ
それを造っ ....
旅をつづけるほどに
私たちの旗は透明になり
時折見いだす標にしるされた言葉も
少なく 暗示的になっていった
夜の傾斜をくだってゆく
くだるたびに傾きがちがうような
いつもおなじような気がする
夜だから傾斜は暗い
ところどころに湿った火がともっている
そのそばにその火を嘗める獣が
いたり
い ....
オパール・グリーンの夜明け
褪めた窓
虚空を漂う巨大なビルボード
モノトーンの呟き
夢の露頭
遠い風
コロイド状の街燈の光
見えない傷と瑕
古びたソファー
非在の時空に架けるピンクの ....
浅い午睡に
思いがけず野蛮な夢をみる
それを誰かのせいにしてみたところで仕方ない
けれど
ああ
夏が甘く爛れる匂いがする
それは私の倦怠と
なまぬるく混ざりあってゆく
何もかも ....
また夏がめぐり来て
空も緑も色深まり
光と影が幻のようにあざやかに世界を象っています
夏の花々も色が強く
私には似合わないのです
降りそそぐ{ルビ眩=まばゆ}さと熱にも
ただただ圧倒さ ....
内因性の空虚
の反動としての
輪郭の硬質化 尖鋭化
そのようにして護られた空虚
へ美しく複雑な事象たちがもたらす反響にのみ
研ぎ澄まされる耳
響きの極まる場所を探して浮遊す ....
夜明けの窓は孔雀色
今年もまたうたうように
アガパンサスが咲いている
七月はわたしの中で
いちばん甘く実る果実
君はいつかそれを 別の名前で
呼んだかもしれない
少しずつ風がうご ....
夏は容易く永遠を擬態するので
僕らの意識の最も敏感な部位は
いつでも眩暈に侵されたままだ
セルリアンブルーの本から
零れ落ちる音符のような
啓示
に搏たれつづける心が
1068番目の奇跡を通じて
うつくしく褶曲する地層のような
洞察
へと繋がるのならばと
今夜は違う窓に向か ....
怠惰な月に{ルビ塗=まみ}れて
果実のような遊星たちと
悪戯に耽ろう
どうせ軌道からはとうの昔に逸れて
だから輪郭も幾重にもぶれてぶれてぶれて
いるから
薔薇星雲を千切ってばら撒いて
....
空は虹色に溶け
得体の知れない甘さが
いちめんに薫り立つ夏のゆうぐれだ
長い夏のゆうぐれだ
君の記憶が
水のように透明に
けれど水よりも濃い密度で滴ってきて
それは容易く
私の現在を侵 ....
自分と向かいあいすぎて
時折その界面をとおりぬけて
向こう側の自分と
いれかわってしまうのだ
白い春の夕暮れ
浅い眩暈が意識を通過する
柔らかな距離がゆるやかに傾き
西に沈む誰かの声 遠い声
傍らの抽斗の中で
淡い儀式の記憶が疼く
それはやはりある春の夕暮れの
古い棟のうらさ ....
必死に壊れつづけている
飛び散る銀色のビス
耳には音楽のようにつづく歯車の諧音
プリミティヴな装置に
青い微笑み
必死に壊れつづけている
遠くから重く暗い地響きのようなうなり
は ....
なまぬるく
なまめかしい
春の夜風の底 へ
わたしは
指を溜める
纏わりつくのは
すこしはなれたところでざわめく
緑と水の匂い
だろうか
やがて下弦の月がのぼって
ちいさな ....
淡いピンクのチューリップがいけられた
硝子の花瓶のそばに
罅の入った銀色の金属製の心臓が
取り外されて置いてあった
彼はその代わりに
肋骨の中に脈動変光星をひとつ
納めようとしていた
昨 ....
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