春が白く垂れこめている
足元には名前を知らない薄紫の小さな花が
風に揺れている
一緒に
何処かへ行けると思っていた
何処へか はわからないまま
僕らは二人して歩いてきた
だけどもう ....
心が嗤っている
春の青い空の下
千切れ飛びながら嗤っている
蒲公英の綿毛の飛ぶ空間を
瑕つけながら嗤っている
燕の飛び交う空間を
罅入れながら嗤っている
ああ 眩暈がする
....
皮膜を張った空に
午後の白い陽は遠く
道は続き
かつてこの道沿いには
古い単線の線路があり
そしてこの季節になると
線路のこちらには菫が幾むれか
線路のむこうには菜の花がたくさん
....
わたしは うっとりと
甘いまばたきを する
散りこぼれ
ながれてゆくのは
花びら
花びら
春は わたしを載せて
ゆっくりと 廻転する
....
モザイクのような街路に迷い込んだ
そこらの店の看板は
どれもこれも三日月だの 土星だの ほうき星だの
要するに天体のかたちをしている
それらの看板に書かれたそれぞれの店名は
たしかにどれも知 ....
窓から見おろす午後の広場を
満たしているのは
{ルビ懶=ものう}い閑雅と
ほんのわずかな挑発
とりどりのチューリップの咲く
花壇のそばのベンチには
一対の恋人
彼の心臓は水晶製
....
君は歩いてゆく
お気に入りのハットをかぶって
お気に入りの傘を片手に
街の路を 野辺の道を 森の径を
誰かに出会うと
とまどったような ためらったような
微笑みと共に挨拶を交わす
そ ....
銀の三角形の頂点から
菫の花が
咲く
波打つ白鍵と黒鍵の上を
踊るのは
かすかに虹色を帯びた
透明な球体たち
回転木馬のまわりを
ほの甘い唇たちが
はばたく
真珠色の円 ....
冬菫に
ささやく想いは
遠い日の
夢のおとした
かそけき影は
ひそやかな紫
冷たい風のなか
冬菫に
ささやく想いは
遠い日の
夢 ....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
中空の細い運河を
小さな郵便船が遡ってゆきます
あれには僕の手紙も乗っている筈です
誰に書いたのか 何を書いたのか
とうに忘れてしまいましたけれど
ひんやりとした透明な砂漠を
彷徨って ....
冬の薄灰色の空に
硝子の太陽
私が歩む通り沿いの柵には
光沢のない有刺鉄線
遠くに鉄塔群
私の今のこの歩みは
自分の部屋へと帰るためだが
それでいて
どこへ向かっているのでもない! ....
ひとり夜を歩く
頭上には
ペガススの天窓
自分の足音が
なぜかしら胸に迫る
何を思えばいい
何を どう思えばいい
道は暗くしずかに続いている
心をどこに置けばいい
心をどこに ....
分光器の憂鬱
天象儀の退屈
を あざやかにうちやぶる角度で
挑むようにひらり舞い込む
あやうい好奇心
極光のように繊細な予感を追いかけて
けれど焦れても
いちばん深い記号は
そ ....
明けの空は大きな真珠
忘れてしまいたいことだけのために
忘れきれず虚ろにゆらめいてたたずむ
瞳
彼方からさびしく冷気はながれ
明けの空は大きな真珠
ほのかに
虹いろの明るみを見せながら
....
身のまわりの色彩が不思議と淡くなる夜
胸のうちに浮かぶ
いくつかの
花の名
鍵盤をやわらかに歌わせる指たちの幻
夢のうちを
あるいは予感のうちを
あえかにかすめていった 星のよう ....
マリオネットたちの仮想的革命が
左心房をよぎる
窓の外では夜の街が
書き割りのように翻る
カレイドスコープの中で廻転するのは
天使たちの落とした翼が
あまりにも降りしきっていた日々だ
知 ....
屋上の青空
風向風速計
一日にいくたびも南中した
僕らの無邪気な太陽
憂鬱色の瞼のような
夕暮れが降りる頃
うすい光をまとった
ひと群れの唇が窓のそとを過ぎる
観測所には誰が居るんだ?
あの夜に僕らがはじめて気づいた
色とりどりの破綻は
今もまだつづいているんだ
君のあるいは君たちのともした火
砂漠の向こうから送られるシグナル
忘れられた庭園の扉 ....
けれども胸は 青く傾斜してゆく 怯える意識には
透明なふりをする思惟が 蔓草のようにからみつく
窓の外では 涙のように 果実の落下がとめどなく
そのさらに遠く 地平の丘の上では 二つの白い塔が
....
杭
重い空から
雨のように降ってくる杭
黒い杭
枯れた大地に次々と突き刺さってゆく
私はそれを
何処から眺めているのか
目を閉じれば
瞼の裏に火花が還流する
....
ほの甘い色の胞子が降りしきる午後
小さな昏い紫の遊星の影が
君の瞼をよぎってゆくのを見る
チェス盤のうえ
気まぐれに並べられた駒たちのあいだを
七角形の記憶がすり抜けるように踊っている
....
増幅
エーテル?
壜
夕暮れ
観測
葉脈
カスケード
飛沫!
関数
カーテン
稜線
意識
アトリエ
攪拌
サイレン
褶曲……
帽子
飛行船
座標 ....
僕の黒い革靴と
君の銀のパンプスとが
白黒市松模様のなめらかな床の上を
並んで踏んでゆく
とうとう此処まで来たんだね
誰も居ない 此の世の果てのバルコニー
数メートル先 白い手すりの向 ....
(チューリップが 咲いたよ)
君は少しずつ
透きとおって消えていった
虹色の血液をめぐらせる
心臓と血管だけは
しばらく其処に残っていたが
やがてそれらも
透きとおって消えてしまった ....
骨格だけの春が
幾体もおどっているよ
薄桃と薄青が
まじりあうあのあたり
もういないはずのひとと
話をしたんだ
そうだよ それは夢だった
けれど
粒子状に還元されてゆく情景
....
この身に深く刻み込まれた位相――
どこまでも融け合いながら
どこまでも引き裂かれつづける二体
輻輳しながら
拡散しつづける幾条もの光線
交錯する遊離と帰還 上昇と墜落
このうえ ....
沈黙をファイルしつづけた理性は
つぶらな意識をふとまたたかせ
早春の空にくりひろげられる
光のハープを聴いている
わたしたちは 底悲しく
わらいあう
そして指をつなぎあい
小径をゆく
菫の花がそこかしこに
ふるえるように咲いている
わたしたちは 歩きながら
優しげに 言葉を交わす
でも気づ ....
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