有翼の人魚たちが踊る森が ほどけてゆく
有翼の一角獣たちが戯れる砂漠が めくれてゆく
忘却のような白い顔をした給仕たちが 一列に並んで
運んでくる皿の上にはプラチナの蜃気楼
異様に美しい怪文書 ....
すこしだけ雨が降ったあとの

しずかな午さがり

横たわる身体を

ゆるい風が吹いてゆく

窓の遠くに

白くうすい月

……

目を閉じると

わたしは岸辺になる
 ....
青い闇の中に
うすく光って浮かぶのは
吊された
右半身だけの
白いレースの婚礼衣裳だ

その左半身を
纏って逃げ去った美しい少年は
そのまま白い流星と化したという

そもそもその衣 ....
燦く高音のトリル

壮麗な神殿のようなユニゾン

万華鏡が廻るようなアルペジオ

溶けるような
にじむような
甘やかな旋律 またその変奏

水のように澄明な和音

それ ....
ふたたびの青い扉
を開けると一瞬で模型となる街
のふちに腰かけている灰色の詩人
の帽子を奪ってゆく軽快な風
に揺れるかがやくデイジーの群れ
の上を舞う愁い顔の緑の天使
を忘れて立ち去るマン ....
夏になると
私の中の情熱が少年のかたちになって
駆け出す
迸る光と熱のただ中へと

緑かがやく丘の上で
積乱雲の巨塔を見あげ
四方から降りそそぐ蝉の声を
またそれらがふと止んだときの静 ....
夏はじめの潤んだ月夜の空は
どこかで海とつながりあうらしい
その空を唄うように泳いで
{ルビ人魚少年=マーボーイ}がこの窓辺にやってくる

真珠色の肌
うす緑とうす青を帯びた銀色の鱗
無 ....
夜の中空に
五月の惑星がある
果実のようにある
そこからぽとりと垂れた雫のように
君が目のまえにあらわれた

などと
君のことを詩に書いてみても
五月の夜気はどこか水のようで
だから ....
白い駅のベンチに
坐っていると
うつろな心臓を
ひとつの喪が
列車のように通過してゆく

それとは関わりのない
やわらかな事象として
少し離れたところに
色とりどりのチュ ....
灰色の薄明の底に
灰色の湖が静かにひろがる
その汀にひとり佇んでいる

灰色の薄明は薄明のまま
明けることも暮れることもない
灰色の湖はただ静かだ
誰の 何の気配もない

ただこの場 ....
空っぽの硝子の鳥籠に
早春の光が淡く虹色に差す

そうすると
わたしはうすい水色の服を着たくなる

――籠の外では生きられない
  華奢ないきものだったはずなのに

  でも囀りは  ....
街からすこし離れて浮かんだような
この小さな白い部屋を
うすむらさきの夕暮れが染めて
そして還ってきたあなたが居る
私の知ることのできない
どんな世界を いくつ巡ってきたの
それをあなたが ....
自分の外側にぴったり貼りついている世界を
引き剥がしてゆく
すると
自分の内側にぴったり貼りついていた世界も
剥がれ落ちてゆく
すっかり引き剥がし終え
剥がれ落ち終えて自由になった
と思 ....
星界に想いをはせることと
君に想いをはせること
そのときめきはよく似ている
君を見るとオリオンの昂揚
シリウスの凄烈を感じる
すばるの繊細 スピカの清純
アンドロメダの優美も君に見え隠れす ....
    北

極星のもとに彼は立つ
視界に都市と荒野を広げて
その指先から綴られゆく言葉に
閃く叡智の稲光


    西

葡萄色の雲を漂わす
美しい黄昏の瞳
彼は歌う 深々 ....
グラスの中に
ひとかたまりの雲が浮かんでいて
グラスの底へと
静かな雨を降らせている

夜になると
そのグラスの水底から
地球がひとつ
生まれでる
ひんやりした空気の漂う
澄明な秋のゆうぐれである
蓼のべにいろ
野菊のうすむらさきが
ふるえながら空へと
にじみあがるのである
この小径をゆくと
わたしの肌にも
それらのい ....
いくつもの{ルビ阿房宮=フォリー}の影が映るホリゾント
切り貼りだらけの書き割り

響くのはPromised Landへの行進曲
主役もどきがものものしく登場

コロスたちが金切り声で笑う ....
暗い残暑が滴ってくる

百日紅の花から
蝉時雨から
空を斑に彩る不穏な雲たちから
遠雷から

幾重にも重なる過去の記憶から……

暗い残暑が滴ってくる
そうして私の底に
暗い染み ....
あたりは仄暗い

無数の墓標たちが漂っている

言葉たちが 沈黙の淵へと沈み溶けてゆく

悼み 祈り 鎮め

どんな言葉も私は選び掬い取れない

ただ この沈黙の淵から

いつ ....
雨季が明け
浄らかな風吹く夏の午前
こんなときは
あのきらめく湖面と
小さな桟橋に立っていた君の姿を
思いだす

君はかつて歌っていた
約束の地のことを
そんなものは何処にもないと知 ....
私は歌う 聞こえない歌を
私は踊る 見えないダンスを

爛れた雨の降りしきる中を
ぎらぎらとひらめく旗たちの下を
言葉の礫たちの飛び交う中を
私は歌う
私は踊る

幾重もの傷が重なる ....
手をとりあって
いちばん深い風の吹く場所へ行こう

其処には音楽のような樹と
祈りのような泉がある

手をとりあったまま
いちばん深い風に浄らかに吹かれて
たたずんでいればいい

 ....
水の昏さを溜めてゆく瞳に
追憶のかたちとして映る睡蓮
青い闇の底
鍵盤が滴る
それらを奏でる指たちは
烏座の方角からやってくる

遠くにたたずむほの白い光圏の
愁いと呼応するカーテンの揺らめき

漂う柑橘の花の香が
ふとひと ....
僕たちが
子どものように無心に
箱庭に玩具をならべて遊んでいるうちに
気づくと 世界が
すっかり終わってしまっていたんだ

だから僕たちは
僕たちの箱庭を新しい世界として
もう一度生ま ....
翼ある憂鬱が
私を浮揚させている
薄明でも薄暮でもあるような
ブルウグレイの空間に

静けさの遠くに
ほの白く小さく浮かぶのは
船の帆のようでもあり
君の面差しのようでもある

い ....
白い午後の中で
心臓は
碧い虚脱の器である

ふいに
その中から
チューリップがのびて
あまりにも真赤な花を咲かす
やわらかな月の宵に
ものうげなアルルカンがあらわれる
ここに来てくれてありがとう
匂菫の花束をあげましょう

少し遠くの霞んだ墓地では
姿のないコロスたちが歌ってる
アルルカン その歌に ....
曲芸師は球形の虚無で玉乗りをする

奇術師はハットから鳩形の虚無を取りだす
塔野夏子(478)
タイトル カテゴリ Point 日付
戯言アポカリプス自由詩3*16/9/13 22:36
晩夏の岸辺[group]自由詩2*16/8/31 22:12
初夜譚自由詩4*16/8/17 22:09
真夏のピアノ[group]自由詩2*16/8/7 11:26
ふたたびの青い扉自由詩3*16/8/1 10:43
夏の日々[group]自由詩7*16/7/21 16:24
人魚少年(マーボーイ)[group]自由詩5*16/7/5 21:55
五月の惑星自由詩3*16/5/23 11:41
春の駅[group]自由詩6*16/5/1 12:17
灰色景自由詩5*16/3/27 21:29
硝子の鳥籠[group]自由詩7*16/3/9 22:42
帰 還自由詩4*16/2/29 11:47
悪 夢自由詩2*16/1/21 22:19
星界の消息自由詩3*16/1/9 22:40
方位座標系自由詩8*15/12/29 21:12
卓上の神話自由詩5*15/11/17 20:02
秋の手紙自由詩4*15/10/17 22:07
劇 場  Ⅲ自由詩2*15/9/23 23:07
暗い残暑[group]自由詩5*15/8/23 22:13
漂う墓標自由詩6*15/8/15 11:32
夏の風[group]自由詩5*15/8/7 21:45
聞こえない歌 見えないダンス自由詩3*15/7/13 11:31
恢 復自由詩6*15/6/19 23:16
睡 蓮自由詩2*15/6/7 21:46
五月の夜自由詩2*15/6/7 21:45
あるロマンス自由詩3*15/5/19 22:29
翼ある憂鬱自由詩3*15/5/5 16:58
春の寸劇[group]自由詩5*15/4/25 19:55
早春のアルルカン[group]自由詩6*15/4/7 20:07
とある祭の片隅のテントで自由詩3*15/1/29 10:26

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