詩を書くと
詩のなかに彼方が生まれる
その彼方について詩を書くと
そのまた彼方が生まれる
身体は此処にとどまったままで
幾重もの彼方の谺を聞く
其処で揺れているのは
硝子細工のチューリップ
君のだいじなチューリップ
どんな色の風が吹いても
春という季節のために
其処にただ咲いている
いつか君の心臓が
やわらかな福音を脈うつ
そ ....
外へ 外へと
言葉が拡散してゆくとき
内へ 内へと
深く問うものがある
あの日の歌が回遊してくる
おなじ言葉に
あらたな意味を帯びて
今はただ
あらゆる方向を指し示す
矢印た ....
浅い春が
私の中に居る
いつからかずっと居る
浅い春は
爛漫の春になることなく
淡い衣のままで
ひんやりとした肌のままで
佇んでいる
(そのはじまりを
浅い と形容されるの ....
月光螺鈿の庭で会おう
このかなしみは
悲しみでも
哀しみでもなく
ただ透きとおるばかりだから
ふたしかさの中でしか
結べない約束を
たぐりよせるほかに術はないから
月光螺鈿 ....
{ルビ朧=おぼろ}の水が昏い季節を流れている
私は無邪気な罪の眠っている
揺籃をそっと揺すっている
無邪気な罪は
眠りながら微笑んでいる
おそらくは
甘やかな赦しの夢でもみているのだろ ....
僕は夜明けをあまり知らない
けれど夕暮れならたくさん知っている
薔薇いろから菫いろへとグラデーションする夕暮れ
金色の雲が炎えかがやく夕暮れ
さざ波のような雲が空を湖面にする夕暮れ
不吉 ....
頭上にはきらめく星に満ちた夜空があり
その夜空へと向かう銀の螺旋階段があった
その螺旋階段を
のぼってゆく二人がいた
それもワルツを踊りながら
くるり くるりと
軽やかに優雅にのぼって ....
秋の思惟が
コスモスの群れ咲く上を流れている
うす青く光りながら
ゆるやかに流れている
それは誰の思惟なのか
知らない……ただ秋にふさわしく
さびしげにうす青く光って
ゆるやかに流れ ....
そこは見わたすかぎりの平原
誰もいない
誰も来ない
その平原のまんなかに
円い緑の丘
そしてその上に観覧車
誰もいない
誰も来ない
のに
ただ静かに回り続けている
観覧車は ....
濃密だった夏が
あっけなく身体からほどけてゆく
世界から色を消してゆくような
雨が降る
雨が降る
あの光きらめく汀を歩く
私の幻は幻のまま
それでも
夏はこの上なく夏であったと ....
わたしという器に
一塊のさびしさが盛られている
それは
昏い色をしているのだが
光の当たりようによっては
時に
ほのかに真珠光沢を帯びる箇所があったり
ほのかに虹色を帯びる箇所があっ ....
真夏という結界が解けないうちに
その中で身体の輪郭が
虹色に光っているうちに
口づけを交わすがいい
せつなく囁き交わすがいい
夢幻のようであればあるほど
あざやかに灼きつく一刻一刻
....
あの夏の朝に 私が見たものは何であったか
まばゆいかなしみがほとばしり
そして私は そのまばゆさのままに
一心に 泣いたのではなかったか
*
あ
あ あ
....
身の内に云い知れぬ狂おしい憧れを
抱いている者どうしの
身の内に暗く轟く世界の崩落を
抱えている者どうしの
目くるめく共振
其処から次々と幾輪もの蓮の花がひらく
互いのそれまでの日 ....
私たちは舟の上で恋をした
舟をうかべる水面はきららかで
私たちを祝福しているかのようだった
私たちはあまりにも
恋することに夢中だった
時が経ち
私たちはどこかへ行ってしまった
けれ ....
蒼ざめた夢を見つづける者だけの胸に結ばれる純粋星座
いつからか閉ざされたままの実験室
硝子器具たちのあいだの恋の囁き
解かれてはならない方程式を無造作に壁に書きつけ
夜明けに扉を開けて ....
やわらかな緑の丘の上に
少年たちが一列に並んでいる
一人ずつ順に
チューリップに化けてゆく
そしてまた順に
少年へと戻ってゆく
少年たちの頭上には
半透明の心臓がひとつ浮かんでいて
....
その場所には五人の詩人がいた 皆その瞳に
あやしげな緑色の光を宿していた とある緑
色の錠剤を飲むとそれが効いているあいだは
瞳がそんな風に光るらしかった そしてとて
もいい詩が書けるらしかっ ....
Ⅰ
いちばん繊細な季節が
君の心をうす青くゆらめかす
君は君自身の内部へ
幾重にも囁く ひそやかに震える叙情詩を
季節の弦と鍵盤とが
君の想いを奏でるままに
銀のきらめきを 彼方へと ....
迎えに来てください
{ルビ鴇=とき}色の雨が降る春先に
私は待っているのです
私の胸にはその約束が
したためられていますから
鴇色の雨がふる春先に
迎えに行きますと
いつ 誰がし ....
そのひとの居場所は
薄くなりつづけていた
何故だかわからないけれど
薄くなりつづけていた
だからそのひとは自分のかたちを
次々と言葉へと変えていった
言葉ならどんな薄い場所でも
息づける ....
迷宮の子どもたちが
歌う歌が聞こえてくる
たのしげに聞こえてくる
迷宮でずっと迷いつづけて
つらくはないのだろうか彼らは
僕らは生まれたときから
ずっとここで迷いつづけてき ....
夢の痛みが灯る街角を
回遊する銀の魚群をすり抜けながら
君は物語の解体と再構築を繰り返す
君の中で発火する思惟が
気難しくも美しいあるひとつの構造を浮かびあがらせる
時の流れの中にふと訪れる ....
真夜中の解放区にたどりついて
心はこわばっていた輪郭をほどいてゆく
すると時空はみるみる遊色化し
心の奥に隠れていたいちばん柔らかい部分と
とめどなく融け合うのだ
やがて眠りがお ....
少年の 碧い心音が 秋桜の花束と 共振するから
ほろほろと 崩れゆく 夜の輪郭を 掬いとる指に
まとわりつく記憶は 水彩の淡さで かなしく
けれど窓の遠くに 群青の塔群が 絶え間なく
銀の月と ....
君の内なる水面で
睡蓮がうっとりと花ひらく頃
僕らを出会わせる偶然が
またおとずれるだろう
さびしい花が咲いている
そこは天国のはずれのような場所
そこに立ち
あらためて秋という季節をふりかえる
君の白い貌
硝子細工のまばたき
うす青くたなびく記憶――
を幻の鳥のように ....
君の背に
あらたな白い帆があがる九月
夜明けのうす青い空に
銀色の雲
君のその帆が
どんな風をはらんで
君を何処へつれてゆくのか
君は半ばは予感し
半ばは不確かさにおののいている
....
ゆるい風が吹き込む午さがりの窓辺に
詩がものうげにもたれかかって
遠い目をしている
(私のところにあらわれる詩はいつも
遠い目をしているが
この時期はとりわけ遠い目をしている)
....
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