通り過ぎた列車の
なごりの風が、引き連れる
潮のにおい
線路沿いにこの道をまっすぐ行けば
ほら、海が近づいてくる
そう言ってふたり、短い影を
踏み合いながら走った日
無人 ....
夕暮れ
いつもの通学路で少年は
独り咲いている
紅い花をみつけた
家に帰り
父と別れた母に話すと
「 毎日水をおやりなさい 」
と言うので、次の日から
少年はいつも ....
遠鳴りを
たずねてゆびは
更けてゆく
傾き、
あざむき、
なき、みさき、
橋の向こうを告げられぬまま
こころもとなく
火を浴びて
頑なに
待ち人の名を ....
あの夜、
ケタの顎を蹴り砕いたこと、
今でも後悔していない。
いつも間違いばかりしていたけど、
あれだけは後悔していない。
ああしなければ、
ケタはまた ....
影がありそして光があるように
光だけでは光は見えず
影のみでは闇も知れぬまま
互いの温度の違いの中に
愛する人の存在を感じ
すれ違うことで孤独を知る
寄り添うように生きるこ ....
{ルビ微睡=まどろ}んで、乗り過ごすうちに
春まで来てしまった
0番線から広がる風景は
いつかの記憶と曖昧につながっていて
舞いあがる風のぬくもりが
薄紅の小路や
石造りの橋や
覗き ....
まずはじめにおことわりですが、特定の人を責めたいわけでは決してありません。
土星の輪ゴムを手首にし君の買う葱特売の嘘嘘嘘(私 作)
土星の輪ゴムを手首にし君の買う嘘特売の葱葱葱(Pさん 作 ....
家に鍵をかけなくなった
怖いものがなくなったのか
もう失うものが何もないのか
祖母は離れの鍵を閉めなくなった
あれほど何かに怯え
家族にさえも恐怖に感じ
この地上のどこにも安全 ....
ついに定規は曲がった
まっすぐにしか使われない自分が
悲しくなったという
まっすぐに測れるものなんて
世の中のほんのわずかしかない
そう思ったらしい
もっと柔軟のある生き方を求めて
現実 ....
凍えてしまえば
つもるものに
かけられる冷気にも
なれてしまって
記憶をなくしていくことだけが
自分へのやさしさ
ぬくもりにさえ 気を許さなければ
白い唇のまま 冬に 終えたのに ....
ざわめきを聴いていた
誰か、いいえ
それよりもっと
わかりやすいものたちと
孤独を分け合って
ざわめいていた
聴いていた
つばさを諦めることで
繰り返されてゆく、
....
あの不安定な学生寮の中で
おっかない大家の目をかいくぐり
ロミオに会いにいくのです
あぁロミオなんて
悠長に危険を冒しベランダからは言えません
片手にスーパーのビニール袋を提げて
こっそり ....
「 生れ落ちた その日から
へんちくりんなこのかおで
わたしはわたしを{ルビ演=や}ってきた 」
という詩を老人ホームで朗読したら
輪になった、お年寄りの顔がほころんだ。 ....
いえでします
と書き付けて机に置いた
小学校に とりあえず向かう
誰に叱られてだったか
何故か知っていた 家出というものを
はじめて決行した 小学一年生の時
きょろきょろみた ....
咳をしたらたまたま側にいた
隣の課のえむさんが
フルーツのど飴をくれた
えむさんがフルーツのど飴を好きだなんて
初めて知った
えむさんは僕より十歳くらい下の女の子だけど
背は僕より十セ ....
春子はミントの葉を散らし
踏みしめている 半睡眠で
如月 彼女の足の裏は
いつも薄緑に染まり
徐々に褪せていく
まるで季節を旅しているようだと
裸足のかかとをくぅと縮め
まど ....
つないだ手を
そっ、と離して
春までの距離を
歩数で測っていた君は
三十一歩でくるり、と振り返って
僕に何かを伝えてきた
如月駅を走り出した始発列車が
僕を追い越して
君を ....
あの人が縁側で
たばこを吸っていた。
たばこって美味しい?
と、私は聞いた。
うーん。
その人はうなって、
「美味しい」ってわけじゃ、
ないんだけどな。
と言った。
癖になってるよね ....
ねぇ、なんで子供の筆箱には
消しゴムが入ってるんだと思う?
消すためだよ
ねぇ、なんで大人の筆箱には
消しゴムが入ってないんだと思う?
消せないからだよ
私はまだ消しゴム入 ....
手から零れ落ちる愛情と呼ばれるものは
飽くことなく吸い取られてゆく
出会った頃より終焉を予期し夜な夜な涙する
弱さを強さにかえる儀式はいつしか止まり
心に積もる穏やかな火は私を包み囁く
....
僕が働く村は 小さな漁村で
大工仲間のゴルカ君と ベンチに座ってお昼ごはんを食べる
ゴルカ君の奥さんのロシェさんはお料理の先生で
ゴルカ君の持ってくるお弁当はいつもキラキラしている
ゴ ....
なんか久しぶりに目が覚めた
眠ったって疲れるだけだ
しかし体ってのは
動かさねえとなあ
そういや
動かねえ奴がいたな
体は何ともねえのにベッドから起き上がれないんだと
何か用事が ....
灯りを消した部屋で
そのはじっこのベッドの上で
ぼくは夜の底へ沈殿してゆく
そしたらいつか夜の一部になれるかしら
夜は全てを隠すから
ぼくは夜の底 ....
どうも!
かくれんぼで鬼になったのはいいが。
百数えている間にみんなに家に帰られた事のある。
そんな日の夕焼けが目に沁みて仕方なかった僕がここにいます。
どうも!
当たりつきのアイス ....
さいはての地にふりつむ雪のごとく君と重ねる想いは純白
車窓より眺める赤のグラデーション眠れる君の夢に届ける
冬景色 北国の海 雪と星 その中にいる君と私と
ゆるや ....
ああごめんなさい
あたくしといたしましたことが
ひどくうろこむしてしまい
大変お見苦しゅうございましょう
うなじのあたりから
せなかまでがもう
ひどくうろこむしてしまい
はがしても、 ....
お茶缶が気になる
どうしてこれはお茶缶なのだろう
素材や意匠は自由だ
そう、自由なんだ、自由すぎるぐらいに
ひとつだけ重要な事は
茶葉が入っている、と言うことだ
....
俺様は草野球チームの四塁手だ
10番打者で四塁手だ
そんなポジションないよとか言うな!
メンバー足りてるからいらないよと言われても
三塁と本塁の間でばっちこーい!と叫んでやる
俺様は会社 ....
結婚が決まって 指輪を買いにいった
おもちゃみたいなアクセサリーばかりの私
緊張して店員さんに 結婚指輪をと言うと
いろいろみせてくれた
自分の指のサイズも まともに知らなくて
次々に ....
なつかしい匂いに
ひたる冬、
寒さは
使い慣れたはずの指先に
疑いようも無いくらい
数をつのらせて
まもるべきが
すべて、に
なる
泣いてしまうことも
ねむ ....
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