浜辺で一匹の蟹が激昂している
なぜ蟹が怒っているのか
誰も知らない

近くでは干潟の干拓がはじまっている
クレーンの向こうは
大きな落日
その赤い夕日を抱え込んで
蟹は怒ってい ....
海岸の岩場のシーワールドでは
イルカが芸をしている
イルカを若い母親と女の子が見ている
ぼくはその少し後ろから
若い母親と女の子を見ている
二人を通してイルカを見ている
女の子がイルカのど ....
電柱下の掌ほどの地面に
可憐な顔を寄せ集め
行過ぎる車の排気ガスに
小柄な身を揺すつてゐる
{ルビ菫=すみれ}よ

元来野のものであるおまへたちが
どうして
こんな狭小な場所に
置か ....
海はまだ広がっているけれど

ぼくはもういらない


―窓を閉める―


室内が戻ってきて

マチスの絵がまぶしい

木椅子

ポトス

絵の中で金魚が{ルビ捩=よ ....
潮が引いていき
潮溜まりに一尾の魚が残された
魚の名は ユア
アユではない ユア
ぼくはユアを追いかけて
潮溜まりの周りを
めぐる めぐる
ユアはどこ?
夕日が落ちてきて
水面を塞ぐ ....
詩は語らずに歌えって
俺の先生が言った
先生って誰だ
そう訊くから
雀だって言ってやったよ
スズメ?
雀だ 雀だ 雀の学校の先生だ
俺はそう言うしかなかったぜ
だって、その通りだも ....
 夜になると風が出て
 {ルビ毬栗=いがぐり}は落ちてゐた
 次々と
 加速されて
 硬く冷たい実が
 ぱらぱらといふよりは
 すぽすぽと黒土にはまりこむやうに
 降つてゐた
 流 ....
 鐘の音がひときは澄んで響いてゐる
 高原の牧場
 風は爽涼として
 日は明るく照つてゐる

 ここに一頭
 健康優良の乳牛がゐる
 乳が溜まつて乳房が張るものだから
 たまらずク ....
 暑い日だ
 こんな日は
 私にパラソルの女が
 寄つて来る

 女が来ると
 私もパラソルの陰につつまれる

 ―日盛りに
  ぼんやり立つてゐると
  日射病になるわよ―

 ....
 草の茂みから 
 木の上へ
 さらに
 低空から
 中空へと舞ふ
 一匹の蛍

 漆黒にあらがひ
 淡く
 かぼそき線を曳き
 線といふよりは
 点滅
 ・・・・・・・
 ....
  日の出


小鳥はまだ明けそめぬ闇のうちから

啼き始める

辺りを憚るやうに

ほとんど囁くばかりのくぐもり声で

それは天与の美声を押し殺した 呟きだ


野の鳥よ ....
カマキリを殺した
あんまり威張つてゐるから
縄張りでもないのに
アスフアルト道のまんなかに出て
仁王立ちになり
人を通すまいとするから

私はその夏 傷心を抱へて
祖父母の郷へ帰つ ....
山を吹き下ろす風が

 水面を撫でる

渓川は波立ち

 日が跳梁する

瀬音と光の乱反射


     私は川原の石に腰掛けてゐる
     振り仰ぐ嶺には
     消え ....
 暮れなづむ山の湖を

 一羽の白鳥が滑つていく

 湖心へとーー



 周囲と断絶したわけでもないのに

 他の鳥たちに追はれたわけでもないのに

 白鳥は湖心へと静か ....
 あなたの瞳は美しい
 四囲の変化や季節の移ろいにも
 敏感に反応し
 あますことなく映し取ってしまう
 だからぼくは あなたを見ていさえすれば
 それでもう
 世界を手に入れているよ ....
  木はただ黙ってつっ立っているのではない




     両
      う
       で
        を
  木はかならず      立 っ て い る
       ....
 水車を造つて里を出た者がゐる

 自分が村にとどまれないから

 代はりに水車を廻して――



 いつたい何を

 この男は水車に託したのか

 いくら頑丈に拵へてあるとい ....
  クローバー

   舌に巻取り行く牛の          

  胴の{ルビ片方=かたへ}に朝日は濡れる



  貰はれて育ちし吾と

   知りてより

  牧にゐ ....
 このままの状態では
 生きていけないと思つたから
 突然おれは走り出した
 走ればどうにかなるといふものではない
 どうすればいいのか判らないから
 走り出したのだ
 人間の行為なんて
 ....
 落葉の中を走る鳥は
 悲しい鳥だ
 飛べないかはりに
 足は太く節くれ立つて
 駝鳥の足のやうだ

 このしつかりした足で
 枯葉を大仰に鳴らして
 進むのだから
 化け物が暴れ回 ....
 

    カッコウ


  人里に来たカッコウは

  しきりに

  何かを告げようとしているが

  村はあいにく農繁期

  耳をかしてはいられない

  そこ ....
 荒き野に
 異香放てるひとところ
 {ルビ頽=くづ}るるばかりの山百合なりき



 五月雨のホームに
 長く停車する
 灯は明々と空きの電車よ



 北海に
 まなこ鋭 ....
 
 蝶は闇夜に飛んでも

  光つてゐる

 星のあえかな光を受けて




 光つてはゐても 

  いつも光つてゐるわけではない

 星の暗い瞬きのやうに


 ....
 夜

 一羽の鳥が生れる

 絶え絶え灯つてゐた

 電球の切れた 丁度その辺りに

 これからは おまへにだけ見える

 明りを頼りに

 羽ばたいていくだらう

 ....
 湖に浮かぶ
  帆色のとりどりを
 ひとつに統ぶる四方のみどりよ



 身に余る人の荷を負ひ
  ゆく{ルビ驢馬=ろば}の
 後ろ姿のほそほそとして



 夏山のさ緑の中 ....
 




 荒野に月が照って
 幽冥界のように
 ぼんやり明るんでいる

 そこを夥しい生きものたちの霊が
 一列になって行進していく

 かさりとも音はなく
 びゅうびゅ ....
南極で王樣ペンギンを見たよ。
王樣は一人 いや一匹だけかと
思つてゐたら
何匹もゐたよ。
何千何萬のペンギンが
みんな王樣なんだ。
王樣の王樣がゐるわけぢやない。
みんな同じ王樣なんだ。 ....
 あなたの瞳に映っている森が

 あまりにも美しく澄んでいたから

 僕はあなたの瞳を押し開いて

 中へ入っていった

 あなたは目の前にいた僕を見失って

 慌てふためいている ....
 タラの芽を採りに

 山に入ったら

 先にあさるものがいた

 トリ

 野のトリ




 トリにはかなわない

 トリの歯型のついた

 きずものを手に ....
 真昼の田舎道に

 裸電球がひとつ

 ぽつんと灯っていた



 こんなところに

 こんなものをぶら下げた奴は誰だ!

 裸電球は

 太陽と競うようについてい ....
杉菜 晃(120)
タイトル カテゴリ Point 日付
蟹のいる干潟自由詩3*06/8/29 12:26
岩場にて自由詩3*06/8/28 16:28
菫に寄せる哀歌自由詩5*06/8/26 17:09
今閉じていく夏自由詩9*06/8/26 9:20
ひとけのない海自由詩3*06/8/25 17:43
十一代目の雀自由詩7*06/8/24 10:57
毬栗の毬ばかりなる里を出る自由詩5*06/8/21 18:00
慈愛自由詩6*06/8/19 9:57
夏日自由詩6*06/8/11 20:16
いのちの自由詩7*06/7/22 15:03
日の出  蝶  あさがほ  ……自由詩6*06/7/11 19:42
カマキリ自由詩3*06/7/11 15:24
渓川自由詩8*06/7/6 17:26
湖心へ自由詩2*06/7/3 15:47
そして あなたの中へ自由詩6*06/7/2 13:07
自由詩4*06/7/1 16:00
水車自由詩5*06/6/30 0:06
朝日は濡れる短歌4*06/6/28 21:30
真夜中の走者自由詩4*06/6/26 12:19
飛べない鳥自由詩6*06/6/24 0:27
カッコウ  オウム  キツネ ・・・・・自由詩6*06/6/22 1:13
まなこ鋭き鳥短歌506/6/16 13:28
闇夜の蝶自由詩3*06/6/14 14:33
夜の鳥自由詩6*06/6/10 16:30
夏山短歌5*06/6/10 0:16
荒野自由詩2*06/6/6 0:20
海に向かつて未詩・独白1*06/6/4 10:31
深く森の中へ自由詩12*06/5/31 9:51
トリにはかなわんよ自由詩4*06/5/29 21:36
裸電球自由詩5*06/5/28 21:21

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