渓川
杉菜 晃

山を吹き下ろす風が

 水面を撫でる

渓川は波立ち

 日が跳梁する

瀬音と光の乱反射


     私は川原の石に腰掛けてゐる
     振り仰ぐ嶺には
     消え残る雪が眩しい

     あなたは
     そこへ出かけたまま
     帰らない

     吹き下ろす風が
     涼しい
     しぶきがブラウスに
     顔に 手に
     降りかかる


セキレイが活気づき

 飛び回る

 めまぐるしく

水を潜り

 大気に

宙返りを打つて


     あなたは
     そこへ出かけたまま
     帰らない

     小鳥教へてよ
     あの人は元気?


水辺に降りたセキレイは

 興奮覚めやらず

 激しく尾を

上げ下げして 歌ふ


    毎年この季節
    あなたに会ひにくる

    この澄み切つた大気に
    溶けていきたい

    山巓さんてんの雪が眩しい
    そこから来る
    風が冷たい
    目が痛い
    一年生きる力が欲しい
    

水鳥の聖歌

 嘴には日の光

 水の光

風の光




自由詩 渓川 Copyright 杉菜 晃 2006-07-06 17:26:26
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