岩場にて
杉菜 晃
海岸の岩場のシーワールドでは
イルカが芸をしている
イルカを若い母親と女の子が見ている
ぼくはその少し後ろから
若い母親と女の子を見ている
二人を通してイルカを見ている
女の子がイルカのどんな仕種に
心を動かされるのか
若い母親がその女の子をどう感じ
ているのかを
イルカと結んで観察している
さらにぼくの後ろから
ぼくと 若い母親と女の子を
一直線に繋いで見ている
やや年配の婦人がいる
もし息子が生きていたら
ぼくくらいになっていて
あの若い母親くらいの奥さんがいて
子供がいる
ごつごつした岩場ごしに
そんな人間のドラマが繰り広げられている
一番大きな芸をするイルカはこの際
遠景に霞んでいる
海から
飛沫
(
しぶき
)
が来て
婦人は少し波を被った
ぼくは振り返っていたわりの声をかける
―大丈夫ですか―
婦人は笑顔を咲かせて
白いハンカチーフを
あちこちにあてている
目許にあてる頻度が高い
―本当に いきなりくるんですものねえ―
ああ 風景は濡れている
ぐっしょり濡れている
自由詩
岩場にて
Copyright
杉菜 晃
2006-08-28 16:28:27
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