秋の夕ふと寂しき本屋帰り
文明にただよい箸を袋入る
秋の葉に月のしたたる竹しずか
聖書持つ手は不安げに朝七時
わが仕事太宰によれば失格者
雑草の茂るも良しとし秋の庭
月の出を忘るるほどの非日常
しずく垂る紅葉の枝を潜り抜け
虫しぐれ灯りの消えし退去かな
ともだちは絵本の中にすみれ草
幸せが痛いモールで本を買う
悪癖は知るそぶり吹く秋の風
日陰のパズルピース拾いながら歩く
最期まで指差し確認しながら人は逝くのだろうか
熟柿盛大に道の真ん中で潰れてゐる
夏蝶の残像ちらちらす
空き地点点としてゐていつまでも空き地
留守居せる娘の家や冷房裡
秋の昼強き日射しに出でもせず
海峡の眺めさわやか高速道
ひと月ぶり庭の秋草生ひ立てり
秋刀魚買ふ今日の魚は太り気味
天の川に身投げしたい 逢いたい
寝乱れた乳房に宿る蛍の{ルビ灯=ひ}
寂しさを描くように句つくる夜
演歌聴くこころのような重いもの
乱れ恋 萩咲く夜の狂おしさ
きみが名を喘ぐが如き夜梅香
きみが名を喘ぐ月夜の沈丁花
車なく職なく恋人もないふつう
ひとりごと言葉の始め思う秋
雨の日の鈍重鈍重聖書読み
我が{ルビ詩=うた}よ君に届くや二つ星
澪標きみに記す夜の灯台
きみ知るや藤袴咲く泪河
春雨に君と微睡むジムノペディ
我ときみ夢のきせきを{ルビ熾=し}る晩夏
....
しゃりりと固い梨ときみ甘く食む
釣れないメザシ猫の本能動く
初恋の味はチューインガムミント
枯葉が駆けてゐるだけの炎天
夏に取り残されてゐる擂り鉢の中
まめな母の日記帳残される
包丁で8ビートを刻む瓜
包丁でラップバトル飴切りに汗
錆びた包丁でトマトはヘヴィメタ
レゲエな午後にレタスを千切る
ユーロビートなトーストにアボガド
日々の一
絨毯に鍬形虫の脚ひとつ
待ち人や蝿打ひとつ納屋の底
冷房をかき分けて寝る三歳児
子午線をくぐれ蚊遣火黙々と
汗拭きてすわ首筋の揚羽蝶
水の二 ....
夕立雷鳴轟きて洗え!
醜さを怒るか天よ枯れた夏
叫べ!夕立。過剰な欲に
夕立やドラムビート打ち鳴らせ!
人生に似たる夕立畏れず貫く
人生を上書きすること歩くこと
足の歩幅に鍵の鈴鳴る
秋だ秋だと言い聞かせながら歩く
神戸までハイウェイ一路秋初め
陰暦の気配覚えぬ秋の季語
我が庭にひとつだになき草の花
{ルビ故郷=ふるさと}の山にも秋の来たるらし
読み人知らずに心宿る詩(うた)
猛暑日と云えども吹き抜ける風に微かな秋の冷
同じ木になる二つの実仲良く腐ってをり
この袋離れてどこかへ行きたし、こう暑いと
格好の良い松の木青空に映えている、空き家の
通帳の印 ....
猛る蝉このあと夏の虚ろ哉
違う星では無かろうか、この灼熱の星
一時のカードゲームにしてはあまりに長い
お掃除ロボにびくびくしながら買物す
送り火を灯す背中に旅ガラス
神戸までハイウェイ一路夏の旅
どこだろう夏の高速ドライブウェイ
三日目の神戸の家や冷房裡
玄関の外一歩なる熱射かな
線香の匂い路満ちて盆の夕
三粒ほど熟れてあじはふ青葡萄
初めての完熟いちじく急ぎ買ふ
フル装備して青柿を消毒す
どの友も傷み抱ふや盆の月
ラジオからの平和宣言蝉と聞き入る
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【俳句】季語を含む17音律「5.7.5」の俳句と、その形式を崩した自由律俳句、無季俳句などの俳句作品のみ受け付けます。俳句批評は散文のカテゴリへ。
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