藤の花が空から柔らかに降る春の日
木屋 亞万


藤の花が空から柔らかに降る春の日

青空は鼻水が止まらないようなだらしない水色で
しゃぶしゃぶの精液を塗りたくったような気持ち悪い白さに覆われている
穏やかな日差しが休みでない者たちの足取りを重くする
春ののんびりとした空気は働くものにとって残酷ですらある

なぜ、春に私は働かなくてはならないのか
心地よい風が吹き、花が咲き乱れる春に
なぜ、私は勉強などしているのか
狭苦しい部屋の中で寒さをしのぐように身を寄せ合っているのか
外は春だ、隠れる季節は終わったのだ
義務を捨てて、春へ出よう

動画サイトに春の青々とした曲が溢れている
勢いと水分と張りに満ちた音楽の群れ
なぜ町は彼らを表層へ押しやらないのか
雨に濡れても陽射しを浴びても
彼らの薄い皮はうつくしさ以外の何ものでもない
どうしてプラスティックの花で花壇を満たすのだ
生き生きとした花があちこちで花開こうとしているのに

藤の花が空から降る、春の日
それはパラシュートのように緩やかに降下してきている
ドリルのような円錐状の降下物は紫色に空をぼかしていく
風は強いはずなのにそれらはくるくる回りながら
真っ直ぐに地表を目指している

藤の花のドリルはぶち壊すのだ
青春を閉じ込めるコンクリートを
花を日陰に押しやるプラスティックを
春を覆う憂鬱を削り取ってしまうだろう

ぽかぽかとした陽射しに
炭の燃える音がして
香ばしい肉の焼ける匂いと
鬱陶しい煙が立ち上る

海は夏に向けて濃い藍色をぎらぎらさせて
波の飛沫は若者を呼ぶ
あちらこちらで妊婦が子を産み
いろんな影で老人が死んでいく

藤の花が降り、白い煙は立ち上る
春は外へ出たがっている
解き放て、
そしてもっと
かっこ悪い憂鬱になれ


自由詩 藤の花が空から柔らかに降る春の日 Copyright 木屋 亞万 2010-05-11 01:21:05
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