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木屋 亞万

今日は始めてのインターネット
僕は少し舞い上がっていた
期待と不安のなかでパソコンが
回転音とともに起動していく

マウスを上手く操れるだろうか
兄の話では乗り回すのに
時間がかかる生き物らしい
安全地帯から連れ出されぬよう
注意しろとのことだった

とりあえずマウスをなだめるため
頭を優しく撫でながら
eの青い窓まで導いてゆく
左側の頭を2回ノックして
世界への窓を開いてもらう

窓は開かれ
真っ白な光が広がる
目が慣れてくるように
輪郭が浮かび上がる
大丈夫、旗は揺れている
良い風が吹いている

ここが噂に聞いていた
始まりの場所
ヤッホホー!
何かあったらここに戻れ
兄の声が蘇る

今日は始めてだから
ヤッホホー!から離れず
周辺を散策する
部屋に居ながら
通信界の大都会に居る
僕もやっと一人前だ

深呼吸をして
ニュースに向かう
 悪い会社の悪事
 スポーツ選手の活躍
 女優さんの会見
 昨日の国会の内容
 東京で起きた凶悪事件
見出しがたくさんある

見出しから見出しへ跳ぶ
マウスはまだ機嫌がいい
旗はリズミカルに揺れる
ふと目の前を誘惑がよぎる


ぼれ

おっ



都会は誘惑が多い
騙されるなよ
いつかの兄の声
唾を飲む

写真集を出したアイドルの
紹介が目の前に現れた
当たり障りない紹介文
の横には
小さいアイドルの写真
その下には
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甘いワナ、かもしれない
拡大?何を?
まさか…
クリックは賭けだ
いつかの兄の声

写真とともに世界が
拡大してしまっても
マウスを操れるか
世界を閉じることが
できるのか
僕に、可能なのか

漠然とした
不安と迷いのなか
クリック
しちゃった、エヘ

拡大は想像していた
広がりより
小さく
見たいところは
はっきりしないままだった
 こぼれてないじゃないか!

僕は慎重に世界を閉じて
パソコンを離れ
現実の玄関を開いて
本屋にこぼれものを
拾いにでかける

僕の世界は拡大していく
クリックがあっても
なくても
急激に新しい風が
流れ込む
世界が拡大しても
僕は僕を操れるのか


自由詩 (←写真クリックで拡大) Copyright 木屋 亞万 2008-08-09 00:42:38
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