耳煙草
木屋 亞万

耳で煙草を吸う女がいた
うなじに口がある女は知っているが
耳で息をしている女は初めてだ
しかし同時に二本の煙草を
両耳で吸うというのは面白い
耳から吐き出される煙は
機関車人間の玩具のようだ

女は口をいけずに歪め
目だけで私を蔑む
女は眉を顰めて外方を向き
右耳から煙を吐きかけてきた
私の咳払いにも耳を貸さない
女には聞く耳がないようだ

女の顔には失せろと書かれていた
他者の悪戯によるものか
女の主張を表しているのか
どちらでも構わなかったが
咲き始めの百合のような白い肌に
光沢のある墨の線が美しく映える

じっと見つめていると
女はこめかみを押さえるように
両手で頭を抱えてしまった
思い悩んでいるように見えたが
すぐに深く吸っているのだとわかった
私の顔目掛けて一際濃い煙が噴出された

煙草の乾いた臭いのなかに
露に濡れた百合の匂いが混ざる
眩暈を起こすような芳香に
閉じた瞼が点滅していく
煙が晴れた頃には女は消えていた



まだ十八歳だった

かぐわしい
なまめかしい、女


古びた電柱
百合の花束
煙草一箱
ガードレールには
失せろ、馬鹿



自由詩 耳煙草 Copyright 木屋 亞万 2008-08-10 03:41:59
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