すべてのおすすめ
筆絶した空に浮かぶ星は、
迷路をつくるかのように、
地に落ちていった。
私はその落ちた星たちを、
拾い集めてことばをつくった。
死にながら生きていたことばたちは、
息をしながら低く輝いてい ....
あなたは目にうつる白いものを、
すべて青に変えてしまう。
水鏡にうつる足元の世界に生きる、
私たちの空まで。
あなたの青に染められた私たちは、
本当の青を知らなくなった。
ただ、雨の色 ....
鏡の前の裸を殺す。
ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる、
揉みほぐし、
パンを捏ねる。
肉体パン。
じゃがいもの塊。
括れも曲線もわずかにしかない、
皮膚のしたにまとわりつく、
べっとりとした臭 ....
悔しくて、悔しくて、悔しくて、
何度も、何度も、キスをする。
かなしくて、かなしくて、かなしくて、
いつまでも、いつまでも、抱きしめる。
別れが近づいていることが、
わかればわかるほど、 ....
何かが足りない朝。
足りないのは眠りか、
ことばなのか、
前頭葉にかすみがかかる。
指を伸ばすわずかな距離に、
フィルターがかかる。
誰もが犯したくなくて、
犯してしまう領域。
....
君の色に染まりたくて、
君の汗を願って空を見ている。
鈍色の空が地上に、
絨毯を引きながら影を落とす。
低い声で君がないて、
青い光とともに汗を降らす。
空から、
血をくわえた
....
鏡に映る素肌には、
夥しいほどの、
何かに食いちぎられた後が
白い目をして睨んでいる。
互いの血肉を喰らい合うことこそが
真実の愛だと信じていたあの頃は、
あの日から生まれた私の世界は、
....
目玉焼きを満足に作れないあなたが、
一番好きなものは目玉焼きだ。
手元がみえないあなたは、
いつもフライパンの外に卵を落とす。
あるいはフライパンの縁に卵を
重ねて落として、
出来上がる頃 ....
ふと、考える。
もしも私が、
あなたと同じように、
目がみえなくなってしまったら、
私は詩が書けなくなるのだろうか。
幼い頃は、
目がみえなくなることが、
とても怖かった。
怖くて怖く ....
夏が近づくと、
青空が目に染みる。
遠いはずのあなたを、
こんなにも近く感じる。
あなたは、
私の手首に突き刺さった、
血にまみれた硝子の破片を、
一枚ずつ抜いてくれました。
私は、
....
夜の台所で、
テーブルに残った母の湯飲みのなかに、
数ミリ残った酒の水面に映る私を探す。
近づけば近づくほどに私は見えない。
離れれば離れるほどに大きくなる、
蛍光灯に頭が喰われていく。
....
葉になった記憶を、
私の歯が噛み砕いていく。
じゅわり液体になった思い出たちが、
苦い匂いを響かせて、
鼻孔に絡みつく。
思い出たちは雨になって、
見えない窓にふりそそぐ。
*
....
風が流れてこないから、
行き先がわからなくて、
佇んでしまう。
私にとって呼ぶ声そのものが、
道標だ。
声を含んだ風が流れてこない日は、
この指を切って赤い唾を流す。
赤い汁のなかには小 ....
ほんとうのことを、
ただ、ほんとうのことを、
触られたくないばかりに、
腹に膜をつくった。
人はそれを「ウソ」と呼ぶだろうか。
半透明のしらたきみたいな私の膜は、
私をみるみる肥らせて、
....
鏡を覗くと、
影の目がこちらを見ていた。
私も影に視線を返した。
すると鏡から影の手が伸びてきて、
私の輪郭を包み込む。
*
黒い塀がどこまでも続いていた。
私はび塀の向こうの世 ....
昨日今日明日、
きのうきょうあす、
くりかえして、
くりかえして、
私たちの雑巾はもうぼろぼろだ。
日々雑巾を絞る。
木綿糸で繋ぎ会わせた縫い目からは、
明日の台所がみえる。
絞る手の ....
浮かんでは消え、
浮かんでは消え、
イマージュを繰返し、
私の胸をえぐり抜いていくもの。
ことばとは、憂鬱だ。
生まれてくるまで、
腹痛のような鈍い痛みを孕む。
突き放そうとしても、
....
鳥は、
空を空と名づけない。
鳥たちにとって空こそが、
果てしない大地だから。
鳥たちは、
彼らは翔ぶことを意識しない。
彼らは空を駆けている。
全速力で、遠く、遠く。
魚は、
....
この目には見えなくても、
手だけはいつも知っている。
手のなかの目。
感度は光よりも早い。
この手が汗ばむと、
何よりも危ない未来への暗示
のなかにいる私。
どこに行くのかわからぬままに ....
思念の淵で息をしている、
私の息づかい。
耳から流れ込む、
目の海の水を、
飲み込んでは吐き繰り返しながら。
呼吸が荒くなる。
海になった私の指から、
あふれてくる思いを、
窓硝子に叩 ....
視界にはたくさんの目がある。
開いた画面に浮かぶ目玉は、
口になって牙を剥き出している。
口になった牙を生やした目玉が
私の目を喰らおうとする。
瞬きひとつでページをかえると、
今度は ....
生まれては弾いていく、
いくつもの過去たちの脱け殻の
奥には必ず触れなくてはならない
真実がある。
その横たわる真実の瞼の裏側の、
顔を見つめなくてはならない。
目を閉じた瞼の裏に映っ ....
何かの気配に目という耳を澄ますと、
背後に誰かの指をみた。
振り返ると、
目から耳を、
耳から指を、
指先から声を垂らした、
私が立っていた。
私の指先から垂れる声は、
ひどく力な ....
いつからだろう、
胸になにかができたのは。
胸のなかの何かは、
柘榴のように真っ赤に青い。
柘榴のなかにはちいさな
部屋があって、
その部屋のなかには、
ちいさくなった私がいる。
....
たくさんのてのひらが、
胸のうちをなでてくる。
私はその愛撫のあたたかさに、
目がくらみ、
行くべき路を忘れてしまう。
たくさんのてが、
雨を耳にあびせた。
たくさんのてが、
子どもた ....
脊髄の奥から、
おずおずと孔が湧いてくる。
孔は私の声になり、
私の体は大地へとひっぱられる。
手のひらに痺れを感じて、
見てみると黒い孔たちが、
もくもくと煙をたてて、
涌き出てく ....
誰にも見えない皮膚に、
がりり、刻印を刻む。
刻む音すらも、
拙いが深いカーブを描いて、
誰にも見えない私の皮膚を
構築していく。
まるで彫刻のように、
私の胸に、
痛々しくも艶やかな ....
鍵穴を覗く。
覗くと誰かと目があった。
誰かには見覚えがあった。
きれながの、
左目だけが妙に大きい。
それは私の目だった。
鍵穴の向こうに、
もうひとりの私がいる。
そんなはずはない ....
きみはいつも、
真正面からは現れない。
肌寒い風の吹く如月の、
白樺の間から手を伸ばして、
私の背中を包み込む。
それは時に冷たくあたたかい。
きみが透明な糸を指に通して、
あやとり ....
風を知らない無知な私を、
笑う子どもがいる。
子どもは殖えていく。
げらげらからから、
騒ぐ鰐の口になって、
私を咀嚼する。
咀嚼されながら私は、
私から反時計回りにまわる
星の輝きを ....
1 2 3 4