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朝の胎動が谺する、
夜のなかで、
私はゆっくりお湯を飲む。
私のなかだけにしか、
あてはまらない鍵をゆっくりと
舌で転がしながら。
朝を待ちながら、
カプセルに入る。
光の囁きに目をあ ....
手のひらの奥から、
沸き立つ海の声は、
私の睫毛を掠めながら、
空に向かい飛んでいく。
私は罪という罪を、
毎日犯している。
誰もが罪と認めないことでも、
私のなかでは ....
この腕にしがみついた、
性という薄皮の、
一枚一枚をゆっくりと剥いでいく。
そこには薄く赤みを帯びた痛みが咲いている。
煙で見えなくなった、
風呂場の鏡に映る、
あらわになった腕や脚、 ....
あらゆる毛皮という毛皮を剥いで、
あなたをただ見つめる。
そこからはまるで、
万華鏡か走馬灯になった
私たちが見える。
私は手元を見つめる。
もうこれしかない。
新宿東口の街の片隅で、
....
(この男、殺したい )
私がはじめて、
胸のなかにナイフを握ったのは、
まさにこの瞬間だった。
その男は私に出会うやいなや
(アオイサンテ、
ソノ足ハ障害ナンデスヨネ、 ....
『奇跡』 あおい満月
あなたは私を、
べしゃべしゃになるくらいに
叩き潰した。
私は鏡にそれを全部叩き映した。
あなたはそれを知らないままに
私を思い通りの ....
私の耳は雑踏を歩く。
歩きながら無数の罵倒を食べている。
ある声は街中でぶつかりあった肩に
舌打ちし、
ある声は、休日の電話に悪態をつき、
ある声は、暖かな午後に寒いと言って愚痴を吐き、
....
切りつけた樹皮のような皮膚からの
血の疾走が止まらない。
血は螺旋になった虹のように、
この腕を伝いおりていく。
かたかたかたかた、
血の足音が三半規管を通過して、
押さえられた手のひらに ....
誰がさまようというのだろう。
この名もない路地を。
名もない路地には、
ひと影はなく
だから名もない路地と
なったのであろうが、
名もない路地には、
人影は確かにあった。
その人影は、 ....
あなたの大きく開いた口が、
ちいさな海を吸い込んでいく。
あなたの脳裏を走る列車が、
いくつもの駅を追い越していく。
駅には、
誰もいない人で、
あふれている。
あなたは、
誰もいない ....
あなたは今、
いろいろなことばの海を
旅したいと思っている。
そこには淡い色の薔薇の花束のブーケだったり、
あたたかな木のぬくもりの漂うキッチンだったり、
そんな風景が香ることばを探している ....
黒く透明な魔物にとりつかれた指は、
もう止まらない、
もうもどらない、
指が進む先は、
まっすぐ なようでかなり
曲がりくねっている。
指には耳がある。
かなりたくさんの耳だ。
無数の ....
ここに、
確かにあなたはいた。
そのとなりに、
確かに私はいた。
ふたりはずっとこの町にいた。
けれども今では、
誰もあなたを知らないという。
私たちはこの町の片隅の
ちいさなマンシ ....
針を指先に刺して、
血の花を咲かせるように、
ことばを呼ぼう。
浮かんでは消えていく気配が、
幻聴によく似た囁きに呼応する。
....
夜が皮を剥いで、
真っ赤な朝を迎えたような傷が、
手のひらに滲んでいる。
あなたは見えないナイフを手に私を傷つけた。
....
(あれは、何だったか)
火竜になって飛んでいった私の分身が見たものは。
食いちぎられた街、
灰になった街路樹、
口の中が埃臭い。 ....
手のひらに、
とぎれとぎれの物語がまじわるように、
とぎれとぎれの時間のなかを旅している。
風は、
私にまとわりつく
薄い襞を食んでいく。
一衣も纏わぬ身体になった私の心は、 ....
私は緩やかに束縛されている。
色々なものを見ながら聴きながら、
色々なものを見ぬように聴かぬように。
穏やかな強烈さで
目隠しをしている{ルビ腕=かいな}は誰なのか。
私の中心 ....
肉を食べたはずなのに、
私はさかなを吐く。
さかなたちは私の咽喉から、
ぴしゃぴしゃ、
躍り出て、
シンクの ....
静寂のなかで、
何かが明滅する。
明滅は赤い、
悪魔の囁きだ。
(おまえは何が欲しい?)
(おまえは何が欲しい?) ....
(さびしいと思うこと)
それももうなくなった。
皆、鏡の向こうにいってしまった。
だから、
....
目を開いて感じてください。
同じことばは二度と書けない私の
たったひとつのことばを。
目を閉じて委ねてください。 ....
ことばの奥底にある
私の声が聴きたい。
そう扉を開く時にいつもあなたはいない。
なかないで、
なかないで、
あなたはいつ ....
皮を剥くことばかり求めて、
実の味を忘れた
林檎みたいな私の肌に、
あなたは歯をがりり立てました。
私はその痛みに歓喜し
ちいさな翼を羽ばたかせ
あなたの心のなかの
小さな ....
(だれか、この腕を解放してくれないだろうか)
そんな声が、帰りの車中で本を読んでいると、心の背中から聴こえてきた。
確かに私たちは「繋がれて」いると ....
忘れられない、大切な人との出逢いや別れはなにか、と問われると、いつも思い出す人がいる。S姉さん。私より4つ年上のアルバイターだった。S姉さんは、アパレル関係の仕事をしていたせいか服のセンスもよく、ス ....
私がいないなら、
あなたがいる。
あなたがいないから、
私がいる。
いつも時計のように
交わっては消えていった、
数秒の肌の記憶。
何度生まれ変わっても
告げられな ....
夕方、
車中で左隣に座った老人に、
肩で殴られた。
私のなかで何かがメラッと揺れて、
痛い!
と両手一杯に 石をぶつけだが ....
剣のような針が
私の背中を追いかけてくる。
私は追いやられている。
70年前に首都や広島、
長崎をめちゃくちゃにした、
機銃掃射もこんな風に逃げ惑う人々を
追いやったに違い ....
切々になった階段が私を呼ぶ。
たった一粒の錠剤が
彼女の声と記憶を切り刻んでしまう。
切りぎざまれた彼女の声と記憶は、
ビニールテープになって、 ....
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