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院長夫婦に預けられてぼくは病院に住んでいた
病室がぼくの部屋だった
おっとりして真面目ないい子だとおばさんはよくぼくをほめてくれた
その夏、病院に大量の小虫が発生した
ちょうど ....
手をあわせていたときだろうか
ホテルにいきたいと言ったときだろうか
それともずっとそうだったのだろうか
手をあわせて並んですわってお喋りをした
ホテルにいきたかった
....
東南アジアの音楽がこころの闇を奏でている
こころの闇なんか信じない
そううそぶいていたシンゴのこころにねっとりと熱い音楽が流れていた
こころの光を信じていたかった
鏡にうつった ....
カミナリは奇跡だ
カミナリの数だけ奇跡があるんだ
さっきまでの天気がうそみたいになる
カミナリは奇跡だ
カミナリの数だけ奇跡があるんだ
土曜日
新神戸駅に着いたぼくを
おおきな花火大会が迎えてくれた
戦争の音が
山と港にこだましている
降り立ったホームに足をとめるのは
ぼくぐらいだった
ビルの ....
百合のつぼみが白く垂れている
セミが電気設備のような音をたてている
葉が揺れている
オレンジと黒の蝶が羽根をやすめている
影が揺れている
緑がひかりで黄ばんでいる
....
赤子のように
愛したひとがいた
しあわせだった
はじめて知ったひとの乳首を
赤子のようにさがした
姿が見えなくなったり
声が聞こえなくなったりすれば
泣き ....
俺よ、この世の汚濁よ
ビルを探せ
階段を見つけろ
屋上にたどり着け
そこから身を投げろ
コンクリートに散れ
俺よ、この宇宙から消滅しろ
洞窟をでると
セミが鳴いてくれていた
五感がやわらかく戻ってゆく
夏の朝風が耳もとでほどけている
ロータリーではバスが唸り
日傘の若い女がなぜか微笑んだ
きのう関東 ....
女と高台までのぼった
簡素な公園がそこにはあった
商店街で買ったトッポッキと貝を食べた
ソウルの町を一望しながら舌をからめた
白い夏だなと思った
白内障ってこんな感じだろ ....
インド料理のお座敷で
王様気分で料理を食べた
トマトのスープもほうれん草のスープも
オレンジ色したドレッシングのサラダ
マトンカレーにインドウィスキー
あれがあんなに
....
キューピー3分間クッキング
土曜日のお昼まえ
スイカとメロンのサンドウィッチ
植物みたいなあなたの食べ物
やさしい気持ちをまもりたかった
メルヘンひとつもまもれなかった
....
錦糸町で仕事をした
スカイツリーが漠然と建っている
整然としておおぶりな街路樹や街道
唐突にそびえている建造物
まるで中国の都市にいるようだ
街は開発というシステムに ....
あのころのぼくをときどき思い出す
お寺で不動明王をみた
石でできたお不動さんだった
こわい顔というより
こっけいなほど醜い顔をしたお不動さんだった
つぎの日図工のじかんに ....
セミが鳴いている
それだけのことなのに
ぼくは宇宙にたったひとりだ
校庭には重機やトラックが持ち込まれていた
先週のうちに校庭の土5センチをさらったのだそうだ
それが泥いろになってうずたかく積まれている
プールみたいに掘ったスペースにどぶ色のシートが ....
ときどき考えることがあるんだ
ぼくは河童で
きみがぴよぴよひよこだったら
いろんな緑と黄色がまじりあう
そこにはジャングル
ぼくらのおめめは密林の暗がり
恐竜は鳥に ....
最初フットボール大の素粒子だった
それが爆発して
今日も宇宙は拡散している
宇宙の果てとはどんなだろう
果てのむこうはなんなのだろう
フットボール大の素粒子のころ
....
めったに喋らない叔父さんが神さまのまえでの作法を教えてくれた
神社にはいるときは一礼せなあかんのや、
帽子はとらなあかん、叔父さんもジャケットぬぐさかいにな、
神社は真ん中歩いたらあ ....
禿頭にパンチパーマが生えてきたような
夜の街路樹に仄見える青葉は外灯にてらされて
現実世界にうまれた幽霊のようだった
コンビニは看板を消していて
さっき接待に使った天然ふぐ屋も ....
いつものように夜を歩いている
星の瞬きをながめながら高台からくだってゆく
車や帰り道のひとと二三すれちがう
街のあかりは傾いている
最初の信号に出くわすと
すっかり道を歩 ....
そざつな草むら駆けだしている
雨の窓辺にピアノをたたいている
薄曇りの鏡にあたしがうつっている
夕べは花芯をそよいだゆび
朝には枕にもたれているの
肉の夢をむさぼりみ ....
春のそざつな光たち
ハナミズキが揺れている
思い思いの願いごと
そいつを書いた白い紙
それが枝という枝に
くくりつけられている
風車のようだ
その白が揺れてい ....
空はあたらしくてあかるかった
すがすがしくって淡くって
ほのぼのとしてあたたかだった
あなたの匂いがとけていた
まんなかにつらなる街路樹が
もこもこと夕日を浴びていた ....
頭が痛かった
酒を飲んだからか
ひと駅わざとゆきすぎて
寒夜の家路をえらんだからか
たいせつな存在が嗚咽していた
ほそい声で頭が痛いと伝えていた
だからだろうか
....
雪が降る
音のない洞窟に
音楽を幻視する作業員たち
雪が降る
味の素みたいだ
時がゆっくりと崩れている
時が蝕まれることだけを数えている
これ以上なにかき ....
文学や報道が
対話や歴史が
この国をこの世界を
果たしてどこに導いたのか
言葉は無力か
雪が青い夕暮れ
見飽きた景色
それを揺らしている
移動している
....
雲ひとつなかった
青い空に
裸の木々の先端たちが
根のようにのびていた
空を吸って根を地球にのばしてゆく
地球という孤島に、空という孤独に、
雲ひとつなかっ ....
路地から通りにでると
いや、もう路地から
あたたかな風がほどけていたのである
それがからだをやらかくぶ厚く
バイブレーションさせていた
坂道を明治神宮のほうへあがった
....
夜をひとり歩いている
もう1時間はんになる
コンビニの袋がちりちり
さびしくないと言えば嘘になる
電車が音をたてている
町のあかりが点滅している
星が粗雑になっ ....
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