強く
ゆびで押すと柔らかく凹むほどに
紅く、
林檎
食べ頃をうっかり
逃してしまったものだから
どうしたものかと
思案している
その薫りやわらかく
そのかたち未だ林檎 ....
こぼれたミルクは飾りボタンの溝を泳いで
くるくると光を跳ね返していた
いつまでたっても混ざり合うことはなく
胸を埋めるような匂いが辺りに漂い
大気ばかりが乳白色に濁っていた
窓の向こ ....
泡の中に階段
階段の突き当たりに崖
飛び込んでごらん、ウールだよ
と言って
飛び込んでいく民兵たち
砕け散ったポケットの中に
鉄屑
こぼれ落ちた鉄屑の雫で
埋め尽くされた野 ....
かんかん照りの星空に
ふたりの哀しみ
狂いなく配置されている
ぼくらは模型の街にいるようだ
ふゆの夜が
星粒を散らしている
見上げるたび
眩暈してふらつい ....
ひどい色をした兎だ
毛の先まで汚れて
僕はそれを抱きかかえ
洗ってやった
「あっ」
と声を上げたのは僕さ
間違えていた
汚れていたわけじゃないんだ
それは最初から
薄汚れた色だった
....
髪かわかしたら?
髪かわかしたらメールしますね、って
きみの髪が一万光年の長さだったら
ぼくはもう宇宙にはいないかも知れない
きみに同苦したい
こころからそう思う
一万光年の髪を乾かしてからだね
きみがぼくに手紙をくれるのは
プラネタリウムで待っています
ぼくはきみを待っています
あなたの中には穴がある
なるほど
あなたは「あな」の「た」だ
あなたの中には鉈もある
なるほど
あなたは「あ、ナタ」だ
わたしは何も持ってない
「綿」では何の「足し」になろ
....
{引用=
呼吸をしていた
それなのに産声じゃなかった
あなたを呼んでいた
それでも求めてるわけじゃなかった
願いが響くなら
言葉の海に声を沈めて
それがあぶくになれば今すぐになれ ....
空の彼方から落ちてくる色は
僕の上から鮮やかに身をひるがえした
ぐるぐる駆け回っている粒子たちが
君と手を繋いでまっすぐに空へ消える
さかさになった緑色は
地面の中で眠っている蛙たち ....
こんなにいいおてんきはうそなんじゃないかと
うそみたいな白い砂浜に座礁したのは
あれはざとうくじらかしら
おうおうとあしかのようなかけ声で
おとこたちが
丸太を ....
{引用=
風花が舞っています
ほんの少し顔をあげて
少女が 見上げる
( 幼さをふりおとした横顔は、りんとして )
おぼろげで 消え入りそうな
白い半月が、南の空たかく
午後のクリス ....
皮膚から剥がれ落ちた
憎悪は
砂塵となって
棘に積もる
誰かが誘う
その胸にこの身体を
いだきたいと
造作の整った
左右対称の顔も
抱え込んだ臓物が
はみだして
引き摺ら ....
生まれた季節は冬の冬
年の最後のどん詰まり
暮れ行く年の落し胤
雪もはらはら降るような
生まれた街は底の街
上の街のとなり街
違っているのは人の色
違っているのは家の ....
ねこが外から帰って来た時
抱き上げて
頬を近付けると
優しい鼻息が頬に掛って
香りを嗅ぐと
枯れた木と
灰の香りが心地よくて
たまに
イ ....
よかった。
まだ、俺は暖かいんだ。
三次会のあと
はなれがたくて
鉄路にふたりツレションをした
メリークリスマス、
メリークリスマス、ミスターローレンス、
アラスカの凍る林で
奇跡たちが
ガシガシと音を立ててい ....
ウミガメさんからメールが来ると
海が見えーる気がします
アオウミガメなら青い海
アカウミガメなら朝焼けの
ヒメウミガメなら秘められた
秘密の在り処のメールです
ウミガメさんのメール ....
夏の朝の暗い空に
ヤマナラシが揺れていて
それの陰を燃えるような
流れ星が落ちたけど
ああ、その夜
かなしみの
ブルースなその人は
愛の後であくびした
冬の海の ....
いつも踏んでいる
カゲ、自分の暗闇
それを許すことは
ひなたとひかげの境界線
いつもひかげの側で
忘れてしまおうとする
冷たい金属にひたいを当てる
なにかに熱を伝えたくて
....
おどけたピエロ
みんなに笑われても
おどけたピエロ
踊り続けるだけ
おいらは嫌われ者の道化役
いつも誰かの尻拭い
おもしろおかしく踊って見せて
愚か者の拍手を得るのさ
おどけた ....
僕たちが狩りをするのは
生き残るためだったはず
いつのまに
狩りをするために
生きていることになったのだろう
などと僕たちが
思うはずもない
僕たちは今まさに
狩りをしているのだか ....
手に入らなかったことは
いつまでも甘美な哀しみでいる
今のじぶんが震えている
手に入ったことなんて
いったいあったのかとも思う
電車に夜がしみている
なかに誰が乗っているのだろう
ア ....
えんぴつを握る
頭の中の細胞が
一点に集中して
真っ白の世界に
足跡を残していく
それは鏡にも映らない
まぼろしの世界
キーボードを叩く
君の名前なら
....
十二月の
さみしい水の底から
きみのささやきに
耳を澄ませる
ふるえる感情の
ひとつ ひとしずく
その波紋
その不自由
どうして人は
急ぐのだろうね
日時計の影が
伸び縮 ....
いつもより遠出した散歩の途中
気がつくと僕は
古墳の前にいた
その古墳のことを
僕はそれまでただの自然の丘だと思っていた
『県指定史跡』と書かれた案内板に
黒い鳥が一匹だけ止まっている ....
僕の心にハサミを入れて
切り売りしてみたんだ
全部並べてさ
いい心と悪い心と
どっちが売れるか試してみたんだ
よく晴れた朝に
車はない道路に
脇には見たことの無い
花が咲いていた
....
重たさを持ったあの音楽が内側から叩く
必死に私は口元を押さえて
空気に触れないようにと思っている
もしもそれがこぼれてしまったなら
それは途端に1人になり
それはさみしさに気化してしまう
....
いつまでも
どこまでも
離れてゆく
その手と
この手
遠い
そのふたつのへだたりに
風が流れる
水に
浸されたゆびに
からむ水草
きらめく陽射し
ふたつのへだたりに ....
丸い鈴の葉と
赤いリボンを生やした大きなポプラの木に
いつからかカメレオンが一匹棲みついた
僕はいつもプロペラ飛行機の窓や
鉄格子の向こうからそれを見ていた
彼はとても臆病な ....
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